| ある日いつものように 私は近くの丘に上った いつものようにお父さんと二人で 街を見下ろせる場所に立って 風に身体を当てて居た こんな時は思い出す 私はお父さんの服を引っ張って こんな事を聞いたんだ “ねぇ風はなんでふくの?” 少し考える素振りを見せて お父さんはこう言った “それはね、誰かを癒す為だよ” そして後は何も言わずに目を閉じた 両手を広げて 大きく息を吸いこんだ 私はそれを見て同じように 両手を広げて 大きく息を吸いこんだ “気持ちがいいね” これが癒される事なんだ お父さんは色々な事を教えてくれた いつものように丘に上って 私が何気なく抱く色んな疑問を 自分なりの言葉で答えてくれた “ねぇ空はなんで青いのかな?” “透明だと神様が丸見えだからだよ” “ねぇ鳥はなんで飛んでるのかな?” “空の方が世界を見渡せるからだよ” “ねぇ風はどこまで吹くのかな?” “どこまでも、きっとどこまでも届くよ” “ねぇお母さんは雲の上にいるのかな?” “……きっと上から見ててくれるよ” “声は届くのかな?” “想いは届くよ” いつも一緒だったお父さん 優しかったお父さん 私だけのお父さん そして今日もいつものように 私は近くの丘の上に上った いつものようにお父さんと二人で 街を見下ろせる場所に立って 風に身体を当てて居た 私と同じように 風に身体を当てている お父さんの背中に羽根がある 白い翼がはえている 私は知っていた ずっと前から知っていた すべきお別れを しないで過ごしている事を だから今日でおしまい だから今日がおしまい “ねぇお父さん” 掴めない服を引っ張って 私は呼びかけた “ねぇお父さん。お母さんは雲の上にいるよね?” お父さんは静かに頷いた “私を見ててくれてるよね?” お父さんは静かに頷いた “お父さんはお母さんと一緒にいたいよね?” お父さんは頷いた “一緒に私を上で見てて” 今日でおしまい 今日がおしまい 風が私の身体を吹きつける そっと目を閉じて 目の前のお父さんは消えていった さよならお父さん さよならお父さん “ねぇ二人とも私を見ててくれるよね?” もう答えてくれる人はいないけど 私は一人で頷いた “ねぇ見ててくれてるよね?” 両手を大きく広げて 風を胸一杯吸い込んだ “お願い。今だけは目を逸らせて” 静かに涙が頬を伝った “お願い。今だけは目を逸らせて” もう少し 風が私を癒しきるまで |