この物語は、一人の少年と、その少年が出会うであろう7人の退魔師の
物語である。

第1話「覚醒」

 その少年は、毎夜、悪夢にうなされていた。
「うわぁぁぁ!」
この世の者ではない何者かに襲われ、そして絶命する。
夢はいつもそんな場面で終わる。
少年は布団から飛起き、その頭上の時計を確認する。
短針は7を差している。
「もう、こんな時間か。」
 彼の名は三冬月 雪人。
御剣(みつるぎ)高等学校に通う2年生。
顔立ちがいいと言う以外は何処にでもいる普通の少年だ。
 「・・・であるからして、今の私達があるわけです。」
老教師がこの世の昔について語る。
世の始まり、それを知る者が居たかは定かではないと言うのに、ただ本に書かれた当たり前の事を話す、いや、その当たり前も定かではないか。
それらを一通り話し終える頃に終を告げる鐘が鳴る。
すべての課程を終えて、今は部活と言う時期でもなく、雪人はただまっ
すぐ自分の帰り道を歩く。
夕焼けを背に見せる美しい情景が魅せる橋。
人々が行き交う場所。
それと同時に、あるかなしか裏の世界との架け橋でもあった。
そう、裏の世界からの来訪者は、雪人の前にいままさにその姿を現した。
「何だ、こいつは・・?」
一歩、また一歩、確実に雪人のもとへ歩み寄る。
その眼は、異様な迄に輝き、鋭い光を放っている。
「く、来るな・・・何の真似だ!?悪戯にも程があるぞ!」
しかし、雪人のその声にも動じず、ますます雪人に近づいてゆく。
その時、一条の光が裏の世界からの来訪者を貫いた。
「三冬月、無事か!?」
「高杉先輩!」
「あほ、このまま何事もなかったかの様に済ますのが手筈やろ!」
「神無さん!」
神無と呼ばれた方がやってしまったとばかりに顔色を変える。
雪人に呼ばれた二人は高杉家の美人姉妹である。
巷では雪人と神無の妹玲奈の恋仲疑惑があるがこの二人が恋仲であれば
美男、美女で端からみればまさに理想の・・・これ以上は語るべきでは
ない。
つまりはお熱い二人である。
しかし、本当のところは玲奈は雪人が所属する剣道部の主将であり。
神無はと言うと学校側が雇った特別顧問である。
先輩と後輩、顧問と部員でありそれ以上ではないのが現状。
「気付かないのですか!?姉上。同じ力を秘めた者なのですよ!」
玲奈は神無に必死に訴える。
心のどこかで、想いながら。
「はっ・・!そうや、玲奈の言う通りや!」
神無は何かに気付いたようだ。
「三冬月、こっちへ来い!早く!」
「え・・あ、はい!」
その後ろから迫る影があった・・・。
「うわ・・・、影が!」
「振り向くな!食われるぞ!」
一歩、また一歩、確実に近づいてくるのがわかる。
「姉上、あれを三冬月に・・・」
「あ、あれをか!?」
「あいつなら・・・、やれる!」
「わかった、受け取り、雪人!」
神無は雪人の方へ向かって弓を投げた。
「これは・・・?」
雪人は突然のことに戸惑う。
「いいから構えろ!」
「は、はい!」
雪人は弓を構えるが、肝心の矢がない。
「矢は!?」
「大丈夫、いいから引け」
雪人は言われるがままに弦を引いた。
その後では、玲奈と神無が何やら念じている。
そして、それに応えるかのように雪人が構えている弓に光が集まり矢になった。
「今だ、放て!」
目標を見据えたその弓から放たれた矢は、雪人へと迫る影を跡形もなく消し去った。
「こ、この弓、それにお二人のその力は!?」
「三冬月、良く聞け・・・」
そう言って玲奈は続ける。
「お前には、私たちと同じ力がある。」
「!!」
雪人は、困惑した。
「何故かは知らぬが、お前はその昔存在した退魔師、高杉 弥生の血を継ぐ者の一人な
のだ。」
「まぁ、何故か言うたら、ウチらかてその子孫の子供として生まれたわけやし、つまり
は今に至る途中で、その血筋を継ぐ家が増えていったんやな。」
「しかし、力を持ったものはその中でも8人だけ。」
「その内の一人が、僕ってわけですか?」
雪人は二人に問う。
神無は頷きながら話を続けた。
「そうや、あんたは<高き杉の血統>を継ぐ一人や。」
「高き・・・杉の血統・・」
雪人はまるで日本語を覚えたばかりの外国人のようにその聞き慣れない単語を繰り返した。
「そうや、ここまで話してしもたんや、立ち話もなんやし、道場行こか」
「そうですね、聞いての通りだ、ついてこい霜乃月。」
「あ、はい。」
神楽心刀流武術道場。
剣術だけに留まらず弓、長刀、そして銃に至るまでをここでは教えている。
言わば、武器の指南所である。
そして、御剣高校剣道部の活動場所(仮)でもあった。
「こっちだ。」
「え、ただの床じゃないですか?」
神無は甘いなとばかりに指を振って見せた。
「よう見といてや。」
そういって、床の一角に釘抜きをあて1m四方の人が一人通れる位の階段の蓋であった一枚を外した。
「こ、これ!?」
「驚くのもわかるが、それは後だ。こっちへ」
二人に連れられて地下へと降りていく。
いや、地下ではなくここはこの世から外れた空間なのだ。
その理由は、この区画の上層に位置する道場の構造だ。
地下にこれだけの設備があるにも関わらず、その周辺には掘れるような地層は存在していないのだ。
「これを渡しておこう、更衣室はここだ。」
胴着に袴、それに羽織を受け取った雪人は更衣室へと入っていった。
「これって、僕の体格に合わせて?」
おかしい。
こんなものが用意されていると言うことは二人は以前から自分の力に気づいていたのだ。
そう直感しながらも着替えて会議場へと行く。
「ふむ、流石だな。なかなか似合っているぞ。」
「玲奈が言ったように作ったんやから当たり前や。」
「二人とも僕の力に気づいてたんか!?」
(いけない、うつってしまった。)
(気づいてたんですかって言おうとしたのに。)
「な、なんや〜?」
「姉上のがうつったのでは?」
「え、ええ、一瞬。」
漫才をしにきたわけではない。
しかし、何をしにきたんだろう。
まさか、コスチュームプレイと言う奴か!?
いやいや、ここにきてそんなボケは要らないか。
などと言う考えが雪人の頭に浮かぶ
「さっきの話の続きな。」
「え?」
「せやから、さっきの続き。」
「私が・・・、姉上の喋りはクセが強すぎます!」
「玲奈、今日は妙に強気やな。」
「すいません、そんなつもりは・・・」
「あ、ええって。そんな気使われたらこっちがたまらんわ。それに雪人も見とるしな。」
「ごほん、それでは。」
なにがそれでは、って突っ込みは無しだな。
「そもそも、神楽心刀流と言うのは・・・」
西暦1019年
高杉弥生{たかすぎのやよい}姫がその創始者で
敵を斬るは鋼の刃に非らず、人の心也・・・と。
実戦に2度目はない、試合も一本勝負とす・・・とか。
色々教えはあるが主要なのはその二つだ。
そして弥生姫は刀神の巫女{とうしんのみこ}と呼ばれ、刀の本当の力を最
大に引き出すことができた。
だが、歴史上の彼女は鬼神の姫君とされている。
更に、当時の妖怪や物の怪の大量発生などの事実も歴史上からは抹消されて
いる。
そして今日の神楽心刀流の在り方は
退魔師の育成と組織化を目的としている。
その上で、刀神の巫女の存在は組織の象徴であってそれ以下でもそれ以上で
もない。
「つまり、この服とかは退魔師の証で、僕はその退魔師の一人・・と?」
「飲み込みが早くて助かる、そういうことだ。」
玲奈は雪人に関心している。
一方、神無は先の戦闘が堪えたのかテーブルに肘をついて寝ている。
「わかりました、やります。僕がやれることを!」
「お前がやれることは自分が思っているより多いぞ、いいのか?」
「え、だって、自分を守るくらいしか・・・」
「世界を・・・そして私を守れるだろ?」
玲奈は顔を赤らめながら言った。
「僕なんかじゃ、きっと役不足ですよ?」
「いや、お前はきっと守ってくれると信じてる。」
そして神無が目を覚ますのは、そんな他愛もない会話の後だった。
ー第1話 完ー
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