アリオスことレヴィアスが倒されたその日の夜。
私が聖地で過ごせる、最後の日のパーティーで、私はルヴァ様に呼ばれてテラスに出ていて、ぼんやりと彼の話を聞いていた。
辺りには誰もいなくて、二人きりだった。
吹く風が頬に気持ち良かった。
「……ですからね、あなたも……私のいるこの宇宙を探してほしいんです」
ルヴァ様はそう言っていた。
「はい、ルヴァ様」
私は答えた。
「私、ルヴァ様にお会い出来て良かったです。本当に」
「私もです」
ルヴァ様の髪が風になびいて。
こんな単純な事でさえもうすぐ見られなくなるのかと思ったら、心の奥がちくんと痛んだ。
でも。
……私は、ルヴァ様の前で泣く事なんてしなかった。
否。出来なかった。
*
一日が過ぎて。
あっという間に過ぎて。
私は陛下とロザリア様に見送られて星の小径の近くまで来ていた。
陛下はおっしゃった。
「アンジェリーク。あなたは恋をしていたのでしょう?私には分かるわ。……でも、送ってもらわなくて良かったの?これが、最後かもしれなかったのに」
私は努めて平静な様で言った。
「はい。大丈夫です。お別れなら昨日の内に、してしまいましたから……」
「そう?なら、いいのだけど」
……大嘘だった。
ロザリア様が口を開いた。
「それでは、アンジェリ−ク。私達が送れるのはここまでです。長旅、大変御苦労様でした」
「さようなら、アンジェリ−ク。また今度は……宇宙が平和な時にまた会えるといいわね」
「はい」
そして私は歩き出した。
けれど途中で、一度だけ振り返って。
小声で呟いた。
「さようなら、女王陛下。さようなら、ロザリア様。……さようなら、ルヴァ様……!」
もう後は。
声もなく駆け出す他なくて。
止まる事も出来るはずが無かった。
*
私の宇宙に大急ぎで着いて。
私は、それでもやっぱりレイチェルの元に駆けていた。
レイチェルなら私のこの思いをどうにかしてくれるだろうか。
そんな馬鹿げた考えが私の頭を通り過ぎて行った。
そして。
ばんっ! と小気味好い音を出して扉は開いた。
そこに、はたしてレイチェルはいた。
「レイチェル!!」
私は声を上げた。
彼女は私の姿を認めると、しばらくは驚いていたが、その後ににっこり笑った。
「アンジェリーク! 帰ってきたんだネ、良かった! 間に合って良かった!」
「え? 間に合って良かった、って……どういう事?」
「あはっ、ワタシったらアナタがいない間もちゃんと惑星の観察を続けてたんだけどね、そしたらなあんと! 明日ぐらいに生命が誕生しそうなの!」
「えっ……本当?」
「本当よ! アナタが帰ってくるタイミングって、なんてすごいんだろうね! グッドタイミングってこういう事を言うんだネ!」
「え……」
私は言葉を失った。
レイチェルのその台詞が何度も何度も頭の中をぐるぐる回った。
(グッドタイミング……?)
そうよ、なんてグッドタイミングなの。だってそうじゃない、私は何にも考える事なく女王と言う立場に戻る事ができる。レイチェルとたった二人きりの、この宇宙の女王に戻る事ができる。
(そうよ、なんてグッドタイミング……)
こんな辛い気持ちも、女王に戻ればすぐに忘れる事ができるだろうから……
「そうね、グッドタイミングよね、これ……って……」
……何故かしら、とても視界が霞むの……
「ちょっと、アンジェリーク?! やだ、何で泣いてんの!」
気がつくと私は涙を流していた。
嘘だ、こんなの……こんなの、私、ルヴァ様といた時だって泣かなかったくせに……!
「嫌だ、本当に、何で今さら」
言いつつも、止められない。
「そうよ、なんてバッドタイミングなの……何で私、こんな時に帰ってきちゃったの?!」
そうよ、なんてバッドタイミングなの。
生命の誕生なんて、そんなの見られなくってもいいよ!
私はただ、ルヴァ様と一緒に冒険を続けたかっただけ!
そんなの見られなくってもいいから、もっとルヴァ様といたかったよ!
そうじゃないんなら、それが出来ないのなら、こんな感情を覚える前に早く冒険が終わってしまったら良かった!
そうすれば……そうすれば、こんな切ない思いをする事も、なかったのに……
「何? 何言ってるの、アンジェリ−ク。分からないよ、何の事? もしかして、陛下を救出している間に、何かあったの?」
「何もかも、バッドタイミングだったの」
「え?」
「ねえ、レイチェル。……聞いてくれる?」
「……うん、いいよ」
「……私ね、冒険の間、ずっと、ルヴァ様と仲が良かったんだ。冒険をしていた時は辛い事もあったけど、でも。私にはいつだってルヴァ様がいたの。だから、楽しかった。……けど。ついこの間、自覚したんだ、これは恋だって。それはそれで良かったの、冒険に支障が出る訳じゃないから。だから、私、離れる時も辛くないようにって、ルヴァ様の前じゃ泣かなかったの。だってほら、ルヴァ様の思い出の中の最後の私が泣き顔だったら嫌じゃない。そう思って、て」
「……」
「だけど。本当はそんなに簡単にはいかないね。だって、だって私、ここに戻ってきてもまだルヴァ様の事ばかり考えているもの……!」
「アンジェリ−ク、」
「ここに戻ってきたら、私は女王と言う立場に戻れる、そう思ってた。だけど! そんなの嘘だよ、私女王になんて簡単には戻れない! 生命なんて誕生しなくっていい、だから……私もっとルヴァ様といたかったよ……そうじゃなければ、こんな気持ちになる前に何もかも終わってしまえば良かった……」
「泣いちゃえば、良かったんだよ」
突如レイチェルの声色が変わって。
私は今まで垂れていた自分の顔を上げた。
「え……?」
「我慢なんかせずに、泣いちゃえば良かったんだよ」
「どうしてそんな事言うの?」
「どうして、かって? 何でワタシがそんな質問に答えてあげないといけない訳? 決まってんでしょ、その答えなんて! わざわざワタシに答えさせないでよ!」
「レイチェル……?」
レイチェルは厳しい瞳で私を見た。
「もうアナタは他の誰の前でも泣く事なんて許されないんだよ……アナタが泣いていいのは、ルヴァ様の胸の中でだけだったんだよ」
「でもっ……私は!」
「だって、好きだったんでしょ? 大好きだったんでしょ?! 嘘の笑顔が最後になっちゃうのは、もっと嫌だよ! アナタだって、そう思うでしょ?!」
「……」
「そりゃワタシがこんな事言うのはおこがましいのかもしれないけど、でも! ワタシだったら……本当の姿をさらけ出してほしいよ……」
「……本当の、姿」
そうしたら……そうだとしたら、私は、もしかして……
「もしかして、私、」
言葉が詰まって。
でもこれだけは言わなきゃいけない、絶対に。
「私、ルヴァ様に、最後の最後になってひどいことしちゃったんだね……」
最後の最後になって私はルヴァ様の好意を全て裏切ったも同然だったのだ。
好きだったのに。
大好きだったのに。
私はそんなつまらない事でお別れしてしまった。
もう二度と会えない人なのに!
「私、馬鹿だ……」
変な事考えて、変な気を使って。
そんな余計な事、しなければ良かった!
「もう会えないのに。どんなに望んでも、もう会えないのに! 今さら気付くなんて、私……」
涙があふれてきた。
止まらなかった。
さっきのレイチェルの言葉が、私の頭の中をリフレインした。
『アナタが泣いていいのは、ルヴァ様の胸の中でだけだったんだよ』
……だとすれば、今の私の涙は。
一体誰の胸の中に、存在するんだろう……
私の涙の行方は、誰も知らない。
〜End〜
| ええと、後書きです。後書きって書くの初めてかもです!本編と全然ノリが違いますね私。 そーゆー訳で、「涙」お届けしました。いかがでしたでしょうか? まだ至らぬ所沢山あると思います。ですが……それはそれ、という具合に読んで下されば、私はひっじょーに嬉しいです。 さて、この「涙」ですが。何でこんな話になってしまったのか? というとですね、それは私が「天空の鎮魂歌」のラストで(当然というか何というかルヴァ様エンドだったんですが)「これは悲恋だ−」と感動した事から始まるんです。「これは絶対話にせねば!」って思いましたね。今思うと何でなのやら、って気もしますが。勢いだけで書いてしまったせいか、ルヴァ様エンドを見ていない人には何の事か全然分からない話に相成ってしまいました。合掌。精進あるのみです。 ……後書き長いですか私? すみません、こういうの書くの楽しいんです。 あっ、そうだ、書いておかなければならない事があったんだった!何かというとですね、レイチェルの台詞の中の。ちょっとそこが事実と違うんですが、そこは、……気にせずにそのまま読み続けて下さると嬉しいです。話の構成上どうしてもこうせざるをえなかったんです。気に入らない方、すみません。 最後に。私がアンジェリ−クにはまる事になった元凶、Lちゃん(こんな書き方は変かもしれないけれど)。どうもありがとうv 感謝感謝です。そして、まだ全然書き方がつたないけれど、私が書いた物を読んでくれたあなた。どうもありがとうございました! |