ザザザザザザザザザザザザ・・・
ホバ−クラフトが海の上を軽く軽く滑っていく。
運転しているのが、アレク。その隣で暇そうにしているのが、ルッツ。
そのルッツが口を開いた。
「あ−暇。暇。暇だなーなんか楽しー事ないかな−」
「僕ら、どっちかって言うととてつもなく暇じゃないような気がするんだけど・・・」
ルッツは途端にしかめ面になる。
「アカデミーの野望だか陰謀だかを阻止するために大忙しってか? まーそりゃそうなんだけどさー、けどさ、んーなんかこう他にない? 楽しそうな事」
「楽しそうな事?」
「ま−あるにはあるって感じなんだけどでもそれが同時に恐怖すら感じるものだとしたらアレクお前どうする?」
「・・・は?」
急に話の論点がずれて、しかも答えを求められて、アレクは慌てた。
そのおかげで、
「おわっ」
ホバ−クラフトを制御出来ず、船内が大きく揺れた。
「おわわわっっ」
アレクは座っていたから良いものの、ルッツはあっちへよろよろ、こっちへよろよろと、かなり不安定そうな様子だった。
最後に、大きく背中を壁にぶつけて、いてててとぼやいた。
そして、怒鳴る。
「おん前、痛ってえなあ! あにすんだよ! 船の操作くらい、しっかりしろよ−!」
「・・・」
アレクはもう何も言わなかった。
ただ、心の中でそうっと、(それはルッツが・・・)と独り静かにぼやいただけだった。
ルッツは、そんなアレクを見、急に穏やかな表情になって、言った。
「ていうかさ・・・最近のオレって変だから気にすんなっていうか気にすんな」
「・・・ルッツの変、は今に始まった事じゃないから別にいいとして、さ。・・・何。何かあった?」
ルッツが変だと言うのは周知の事実であるからそれはいいとして。
今さらそれをどうこうするつもりはアレクにはない。むしろみんなの助け・・・ムードメーカー的役割を果たしているのがルッツの「変」さそのものなのだ。
いてくれてとんでもない厄介ごとを持ち込んできたり迷惑ごとを押し付けられたり。彼がいた所為で起きた事件は数知れずだが。
それでも。
いてくれて本当に有り難かった、嬉しかった、と言う事も時には(本当にごくまれだが)ある。
そういう時には、ただもう、こんな友達がいてくれて良かったと思うだけなのだ。
・・・だが。
「何かあった?」
アレクは繰り返す。
「うん、ちょっと。・・・何でもないんだけど」
全然何でもなさそうだから聞いてるんじゃないか。
無論、そこまでは流石に口に出せなく、アレクは押し黙った。
「ホントに、何でもないんだけどさあ・・・」
ルッツがぼんやりとそうもらした。
ホバ−クラフトが海の上を軽く軽く滑っていく。
*
数分後。
ようやく体勢を立て直したホバークラフト、であった。
ざばざばざばと水をかき分けつつ進んで行く。
・・・と。
「アレク。さっきの大きな揺れ。何かあったのか?」
黙り込んでいた二人の間に急に女の子の声が混じった。
誰だ、と聞くまでもない。シェリルだ。
「ああシェリル。何でもないんだ。ルッツが、」
ふざけてて、と言おうとした(あの場合ルッツがふざけていたとはあまり言い難いが、そう説明するのが簡単に思えたのだ)、が。
それよりも先にシェリルが言葉を重ねてしまった。
「へえ。なあんだ、ルッツのせいだったの、心配して損した」
「オレのせい、てなんだよそれっ。あれはアレクの・・・」
「今さら言い逃れしないっ! アレクはどっちかってゆーと嘘がつけない方だから、て事はやっぱりルッツのせいなんじゃない。まあ、アレクが何かへましたとも思えないし。この場合、ルッツがまたふざけててアレクにからんでそのおかげでアレクが船の操作を誤った、って考えるのが妥当なんじゃない?」
「むきー! オレってそんなに信用ねーのかよ?!」
「ああないね」
「なんだとー!」
二人の会話はいつ聞いていてもなんだか楽しくて。
思わずアレクがくすりと笑うと二人がじろりと睨んできたので止めた。
「ま、なんにせよ、ね・・・」
シェリルが続けた。
「何にもなかったならいいんだ。・・・それじゃ、あたし戻るから。今銃の改造中でさ、新しい組み合わせが発見出来そうなんだ。上手く出来たらまた報告するよ。じゃ」
と、シェリルはあっという間にドアの向こうに消えてしまった。
何気なく背後のシェリルの消えてしまったドアを見ていたアレクだったが、その時。
(あれ・・・)
隣のルッツを見て少し驚いた。
何故だか沈んだ顔をしてため息などついていた。
(ルッツ・・・?)
そうは思うのだけれど。
声がかけられなかったのは、何故なのだろう・・・。
「・・・」
「あのさ、アレク」
妙に話し掛けられる雰囲気ではなくて、アレクが黙っていると、向こうから話し掛けてきた。
「うん」
「・・・オレ達さ。この五人、てさ。この戦いが終わったとしても、・・・しても。ずっと一緒にいられるよな?」
「そんなの。当たり前じゃないか」
「・・・そっか、そうだよな?」
「なんだよ、なんか歯切れ悪いな。水臭いな、僕達友達だろ? 何か悩みごとがあるなら僕は出来る限り力になるよ」
自分に出来る事なんて、どれだけあるか分からない。だけど、今は、この昔からの友達を何とかして元気付けてやりたいと思った。
「ああ、サンキュアレク。そーだよな、こんなのオレらしくないって! ま、元気出して行くとするか!」
言うが早いか、立ち上がって、
「そーゆう訳で。後の運転は頼んだぜアレク。北スラ−トに着くまでは後もうちょっと時間があるよな、だから、オレその辺をうろうろしてる」
「ええっ? おいちょっとルッ・・・」
「じゃーな!」
言い捨てて、あっという間にルッツは扉の(といっても、運転席から壁が一枚へだててあるだけなのだが)向こうに消えてしまった。
ひとり残されたアレクはぼやく。
「なんなんだよ、もう・・・」
最近本当にルッツは変だ。
さっきのだって、アレクに言わせれば正に現実逃避のいい例だ。うろうろしてる、なんて。そんなの言い訳にもなりはしない。
だいたいが、なんだかんだ言いつつも彼はそう嘘をつくのが上手い訳ではないのだ。あのどうしようもないくらい楽天的な性格がそれを物語っている。
「すぐにばれるっていうのにさ」と、アレクは言う。「なんでなんだろうね」
それを知るのは、やはりルッツ本人しかいないのであろうか。
それを思うと、アレクは少し寂しい気がした。
*
その頃ルッツは、というと。
「なあシェリル、それで、その銃の改造は上手くいきそうなのか?」
「分っかんないよ、そんな事」
苦笑しているシェリルと談話していた。
「もしかして、失敗するかもとか?」
「ちょっと、縁起でもない事言わないでよ! まだ分からないんだから。ったく、もう」
「それよりかさ。これ、触ってみてもいい?」
「あんた人の話聞いてんの?」
ルッツは人の話など聞いちゃいない。
「ね、いい?」
「って、答える前に触るなっ!」
ばっ、と。ルッツの手から拳銃を取りかえす。
そのまま、こめかみにばっちりと米マークを浮かび上がらせたまま、それを布で拭き始めた。
「これは、まだ改造途中なんだから。暴発しても知らないよ」
と言う割には大胆な手付きで触っているシェリル。
「へえ。けっこう難しいもんなんだ」
「まあね」
失敗したらアウトだし。と、彼女は続ける。
「ただ合成すればいい、何て物じゃないの。大事なのはやっぱりどの部分を強化するか、て事。そのためには普段からどの銃のどのパーツが扱い易いかって事を理解していなきゃ」
やけに熱っぽく語り始めてしまった。
「今回のこの銃は攻撃力重視! きっと物凄くいい物が出来る筈だ」
「へえ」
ルッツの視線は既に明後日の方を向いている。が、それにも気付かず、シェリルは語る。
「これが完成したら・・・そうだね、あんたに一番に見せてあげてもいいよ。あでもどうだろ。ルッツじゃなくてアレクに先に見せちゃうかもな」
言って、笑う。
その笑顔が、かすかに上気している事に気付けたのは、おそらくルッツだけだっただろう。
「シェリル、あのさ」
ルッツはいきなり呼び掛けた。
「え?」
「あのさ、」
とは言うものの、なかなか次の言葉が出てこない。
「何だよ」
「あのさ・・・シェリルにとって『銃の改造』って、どのくらい大事な事なんだ?」
「は?」
唐突にそんな事を(しかも真顔で)言われ、シェリルはうろたえた。
「急に何言ってんの? あんた頭大丈夫?」
心外だとばかりに、ルッツは顔をしかめてみせた。
「いーか、オレは真面目に聞ーてんだっ! いーからちゃんと答えてくれよっ!」
「はあ・・・分かったよ」
よくは分からなかったが、何となく真剣に答えてほしそうだったので、気は進まなかったがそうしてやる事にした。
「何でか、って、言われてもねえ・・・」
シェリルにしてみれば、それ程深い理由がある訳ではないのだが。
・・・と、彼女は、一つピンとくる事が合った。
「あ、分かった。・・・それ、多分、あんたがアイテム集めに夢中になるのとほとんど一緒の理由じゃないのかな」
「オレ?」
思ってもみない答えに、ルッツは眉を寄せた。
「何でオレが?」
「だからさ」と、シェリルは自分の考えを説明しだした。
「あたしの銃の改造好きってのはさ。今に始まった事じゃないんだよね。ずっと、ずーっと昔から『それが何で好きなのか』って事が分からなくなるぐらいの昔から好きで。あたしの生き方。あたしの半身。・・・格好いい言葉で言ったら、そんなふうになるのかな」
ここまで言って。
シェリルはふっと微笑んだ。
ルッツはそのシェリルと目が合い、訳もなく恥ずかしくなり、そっぽを向いた。
・・・何故だかいやに顔が火照る。
「あんたもそうなんじゃないの? あんたも、やっぱり、昔っからアイテム集めが好きで、それでクレッタさんに怒られたりとかさ」
「え、何で分かるの?!」
「え? それってマジな訳? 嘘! あんたってば、昔っから分かりやすーい性格してたんだ!」
「悪かったな!」
殴る仕草をすると、シェリルは「馬ー鹿」と言ってそれをよけた。
「でさ、『オレに手に入れられないアイテムはない!』とかさ、『オレに作れないアイテムはない!』とか訳分かんない主張とかしてた、とか?」
図星だったので、こう言い返してやった。
「それなら、シェリルだってどうせ『あたしに扱えないガンはない!』とか『あたしに作れないガンはない!』とか。言ってたんだろ?」
「あんたって本当ムカつく!」
図星だったらしい。
しかし、こうしてみると・・・この二人の、何と似ている事。
ルッツはシェリルに見られない様にごく小さくため息をついた。
(手に入れられない物がない、だなんて・・・)
「でもさ」
シェリルが視線をどこかにさまよわせたまま、言った。
「ルッツがそういう事言ってたぐらいの時って、まだアレクはサシャ村に来てないんだよね」
シェリルの視線の先は。おそらく。
(アレク)
途端。
ひどく嫌な感情が体の中を駆け巡った、気がした。
「ああ、まあな」
ぶっきらぼうに返事を返すと、途端にシェリルは眉をひそめた。
「何?」
「何が」
「何か急に機嫌悪い」
「べっつに」
「あ、滅茶苦茶機嫌悪いんじゃん」
「うるさいな放っとけよ」
「何で? あたし何かカンに触る事言った?」
「別に−」
「うっわ。ムカつく言い方」
「別に、シェリルがさ・・・」
「は? あたしが何?」
シェリルが顔を近付けながら聞いてくる。
心臓がどぎまぎする。
・・・何故だろう。
「何でもっ・・・ねーよ!」
すると。
「何なの、もういーよ!」
と突然怒り出した。
(しまった・・・オレ、馬鹿かも・・・)
気付いた後では遅い物で。
シェリルは、やおらばっと立つと、言った。
「アレクの所に行ってる。・・・やっぱりあんた、最低でムカつくわ」
凄まじく怒っている様だ。
(調子に、のり過ぎた・・・逆ギレされるなんて、オレ、マジで最低かも・・・)
そして、言うが早いかシェリルの姿はもう既にそこにはなかった。
「・・・」
ルッツは一人きりになり、ぼんやりと黙り込んだ。
(・・・)
今頃、シェリルはアレクと楽しく話している頃だろうか。
(オレは、その輪には入れない)
それはシェリルと喧嘩しているからとかそういう理由からではなくて。
(ずっと前から、知ってたんだ)
シェリルが密かに考えている事に。
シェリルが密かに想っている事に。
そしてそれは。
(オレじゃなくて、あいつなんだって事)
・・・ずっと前から、気付いてたんだ。
だから。
(オレは、あの輪の中には入れない・・・)
鈍感なアレクはいつまでたっても気付かないけれど。
気付いてくれないけれど。
(オレは、分かってた・・・)
結果、邪魔は出来ない。だけど。
(それだけじゃ、駄目なんだ・・・)
邪魔は出来ないって気持ちだけじゃ、駄目なんだ。
でもそんなんじゃ意味がないって事も分かってる。
だからせめて。いつまでも一緒にいられたらいいと、思ったんだ。
ずっと、そばに。いられたらいいと思ったんだ。
けれどこの旅も、もうすぐ終わる。
そうしたらこのパーティーのみんなとは?
当然、お別れだ。
年に何回かは会う事も出来るかもしれないが、それでは仕方ない。
(でも。それでもやっぱりオレは・・・どうする事も出来ないんだ)
身動き取れない。
どんなふうに行動を起こしたとしても、待つのは醒めない悪夢だけだと。
知っているから。
だからオレは。ただひたすら、想うしかない。
ずっと、そばに。いられたらと、思った。
| 書き上げて。もう一度読み返してみたら。 ・・・誰だ、これ・・・ ・・・。そういう訳で。ルッツのはずがどうも上手くルッツになり切れていない物が出来上がってしまいました。シェリルも微妙にシェリルじゃないし。ゲーム自体最近遊んでなかったもので(言い訳)。こういう事で。「ずっと、そばに」でした。 それにしても。私は妙にバッドエンディングの物が好きらしいです。書いてると、こういう物ばかりだし。人の物を読んだりしてる時はハッピーじゃないと嫌なんですけどね(わがまま・・・)。それで、ですね。何でこんな話になってしまったのか、と言うとですね。 何だこれわーッ!シェリルッツばかりじゃないかーッッ! という主張から始まってるんですけどね。ええと、何かって言うと、色んな人のHPに遊びに行ったのですが。あまりにもシェリルッツが多すぎて・・・アレシェリ(シェリアレでも可。というか大抵そっち)派な私としては辛すぎる・・・そう思いました。思った後は、速かったです。 ここは一つ・・・私がシェリアレ(アレシェリ)小説を書くっきゃない! そういう訳だったのですよ。そういう訳で、私の書くアーク小説はシェリアレばかりです。多分これからも。ところで今、夜中ですんごいきつい(眠い)ので、この辺でお終いにさせて頂きますね。この出来損ないアーク小説を読んでくれたあなた、どうもありがとうございました!そしておやすみなさい。 2001/4/1 |