追いつかれる!そう思った時には、その物に追い越されていた。
ぴょんぴょん飛んでいく白いその物を、あかねは音もなく見送った。
(うさぎさんだったんだ・・・・よかったぁ)
力が抜け、その場に座り込んだ。
(怖かったぁ・・)
念の為、後ろを振り返る。何もいない。
ほっとして前を向いた途端、あかねを照らしていた月の光が「人」の影に遮られた。
2度目の恐怖に、脚が動かない。
(泰明さん・・・!)
目を瞑り、最愛の人の名を念じた。
「神子!」
夢を見ているかと思った。
・・・麗美の顔立ち、艶やかで長い髪、細身だけれど何よりも存在感のある「その人」が、こちらに走ってくる。
月の祝福を纏っている神々しさと美しさに、あかねは強く肩を掴まれるまで、我を忘れた。
「神子!大事ないか?!・・気は乱れているが、傷はないようだな。・・良かった・・」
他の人には見せない安堵の笑みを向け、「その人」安倍泰明は少し強めにあかねを抱きしめる。
あかねは、少し靄のかかった頭で呆然と考えた。
(走ってきてくれたんだ。)
菊花に混じって、泰明の匂いが広がる。
(鼓動が聞こえる・・・・・)
先程の恐怖は跡形もなく消え、安堵感が広がる。
「泰明、神子は大丈夫と言ったじゃろう。そんなに強く抱きしめると、神子が苦しいぞ。」
「天狗さん?」
北山に棲む天狗の声が響く。
「すまぬ。苦しかったか?」
正直に天狗の言葉を聞き、泰明はあかねを心配そうに覗き込む。
「お主がそのように人を心配するとは。そしてあの乱れよう・・・。全て神子のお陰じゃな。」
少しからかう響きがある。
「黙れ」
「やれやれ。そういう所は変わらんのう。・・神子は泰明を探しに来たのか?ならば儂は退散しよう。神子よ、またな。」
微かな羽ばたきの音の後、気配が消えた。