No.89 浅月 哀様より





神子達は舞い落ちる雪の中、フラノールを後にしようとしていた。
「ゼロス…信じてるからな」
テセアラの神子―ゼロス・ワイルダーにロイド・アーヴィングがかけた一言。
その言葉は、彼の胸に深く、深く突き刺さった。
(くっ………)
しかし、彼はいつも通り言葉を返した。ただ、少し…ほんの少し、いつもの彼と違っ
た。

夜―ゼロスは眠れなかった。
外に出る。そして、空を見上げた。
星が、とても綺麗だった。彼の心とはうらはらに。
「けっ……」
―信じてるからな―
あの言葉が響く。
彼はバンダナを巻こうと、手にとった。
そこへポタッとしずくがおちる。
静かに、そのしずくはおちた。
「―っ……」
彼は静かに涙を流した。
そんな彼を、星が、たくさんの星が、静かに見守っていた。


「ゼロス!お前裏切ってたのかよ!」
あの時の声はゼロスの耳には届いていなかった。
あの時、何を言ったか、彼にはわからない。
あの時、彼の前にいた、いつもなら惹かれていくような女性さえも彼の瞳には映って
いなかった。
彼の瞳には、あの時の少年の姿が。
彼の耳には、あの時の言葉が、響いていた。
―信じてるからな―という、あの言葉が。

「信じる」ということ。彼にはよくわからないことだった。
誰を信じていいのか。
誰が自分を信じてくれているのか。
「信じる」と言う事を彼は知りたかった。

「ロイド行って!コレットを救えるのはロイドだけなんだよっ!」
まだ幼い、少年が言った。恐くて恐くて、立っていられるのもやっとだろう。なのに
なぜ、そんな事が言えるんだ?

その時、彼にはわかった。
ロイドを信じているからなのだと。
このことに気づかなければ、一生信じる事を知ることができなかった、ゼロスは、少
年―ジーニアスを助けた。
「ゼロス…?なんで…?」
「俺を信じろっ!」
自分に不似合いだと思いながらも、初めて口にしたこの言葉。言いたくても、言えな
かった、この言葉。
「……うん。ありがと、ゼロス…」




彼は見た。
彼は知った。
信じるということを。

「ありがとう!ゼロス!!」
仲間の声に、彼は再び涙を流した。
しかし、今度は笑顔で、仲間に、信じている仲間に支えられながら…。