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No.89 浅月 哀様より
クラトス・アウリオンとゼロス・ワイルダーは、仲間たちが深い眠りについた頃、
雨の降る夜空を見上げていた。
「クラトスさんよぉ?」
ゼロスが声をかけた。
「……なんだ?」
振り向かずに答える。赤髪のテセアラの神子は少し躊躇い、再び口を開いた。
「あいつに…ロイドにしっかり言わなくていいのか?父さんよぉ?」
先ほどのユアンとの出来事について言っているのだろう。振り向きざまに言う。
「…今はそれを言うべき時ではなかろう。その時が来たら…いずれこの口から言うつもりだ」
「へぇ」
雨に濡れた髪の間から覗く、ゼロスの瞳には何かが宿っているような光が走ったのをクラトスは見逃さなかった。
「その時が…来なかったら?」
「………」
先ほどと違い、真剣な眼差しで、真剣な声色でなげかけてきた言葉に、彼は答えなかった。
(来なかったら…?さて…どうするのだろうか)
自問して、彼は苦笑した。そんなことも考えていなかったのか。自分は。
「俺様はもう寝かせてもらうゼ。じゃぁな」
髪をかきあげながら、ゼロスは去った。
雨の中、クラトスは1人、立ち尽くしていた。
「私はもう行かせてもらう」
一時的にシルヴァラントの神子達と一緒にいたクラトスは、そういい残し立ち去うと歩き出した。
自分の息子、シルヴァラントの神子、ハーフエルフ…顔に覚えのある者達が道を開ける。
少女、ミズホの民、囚人…そして最後にこの男、ゼロス・ワイルダー。神子という肩書きに苦しんでいた男。
その男はかるく笑い、道を開けた。
その男の横を通り過ぎる。と同時―
「その時が来なかったら……ロイドを頼むぞ」
彼にしか聞こえない声で呟く。彼の顔を覗くと、彼はクラトスにしかわからないような笑顔をつくってこう言った。
「まかせろって」
そのままクラトスは歩き続けた。笑顔で。
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