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「アンジェ、アンジェ!!聞いてちょうだい!!」
それは午後のうららかな、ある日のこと。
女王候補アンジェリークが部屋でくつろいでいた時。
ライバルで親友のロザリアが、彼女にしては珍しく大声を上げて乱暴にドアを開けたことから始まった。
「どうしたのぉ?・・・あ、今お茶淹れるね。ちょっと待ってて。」
「あら、ありがと・・・じゃなくて!!とんでもないことなんですわ!!」
ヒートアップするロザリア。 そんな彼女を見ながら、あくまでものほほんと自分のペースでいるアンジェリーク。
「とんでもないことなんだったら尚更。お茶飲んで、それからお話して。ロザリアが慌てるだけでもびっくりしてるんだから。」
コポコポコポ・・・。
ポットから注がれる紅茶の音に、ロザリアも落ち着きを取り戻し、椅子に座った。
「・・・いい紅茶ね・・・。」
「ロザリア、確かロイヤルミルクティーと、ローズヒップティーがすきって言ってたでしょ?」
「あら、覚えていてくれましたの?」
「だって、ロザリアだって私が好きなもの覚えていてくれてるじゃない。」
そんなの当たり前よ、とアンジェリークは屈託なしに笑う。 今までの人間関係において、こういった付き合いをしてこなかったロザリアには、改めて彼女が大切な存在だと気付く。
「・・・あ、そうそう。ロザリア、とんでもないことって・・・?」
「それが・・・。」
「えー!!守護聖様、ホ○疑惑!?」
アンジェリークのどでかい声をロザリアが慌てて制する。
「シー!!声が大きくてよ、アンジェ!!」
「ご・・ごめんなさい。だって、あんまりにも突拍子もないことを、まさかロザリアが言うなんて思ってもみなかったから・・・。」
「このわたくしだって驚いたのよ。・・・まさか、と思ったわ。」
言いながら気分を落ち着けるため、ミルクティーを口に運ぶ、二人。 しばしの沈黙 。
それを破ったのはアンジェリークだった。
「で、どなたとどなたなの?」
瞳をきらきらさせて訴えるアンジェリークに、ロザリアは一瞬言葉が出なかった。
「どなたと、どなた、って・・・?」
「やだぁ、決まってるじゃない。おひとりでホ○、なんて出来ないもん。」
一体そんなことをどこで覚えたのか、アンジェリーク・・・。
「・・・そうね、わたくしとしたことが、迂闊でしたわ・・・。」
「で、どこで、どなたが、何をしてるのを知ってるの?ロザリア?」
さらに身をのり出して尋ねる金の天使。
何で、そこまでこだわるのか、この娘は・・・。
「確かオスカー様と、オリヴィエ様だったと思うわ。・・・昨日、私が育成のお願いに行った時のことですわ。オスカー様の執務室から何か声がしましたの・・・。」
そこまで言うと、ロザリアはいったん言葉を切った。
「まさか、『うっ』とか、『ああ』とか・・・?」
恐る恐る尋ねるアンジェリーク。手に持っているカップがかすかに震えているのは仕方ないだろう。
「よく分かりますのね・・・。そのとおりですわ。中から『ああ、いいわ・・・。』とか『上手いな、オリヴィエ。』とか聞こえましたの。」
「でも、ロザリア。どうしてホ○って分かったの?」
いきなり話が変わる、変わる。
しかし、親友の突拍子もない行動や発言に慣れている彼女は、動じることもない。
「その後、『堪らないわ、オスカー。』って仰るオリヴィエ様に、オスカー様が『俺ももう我慢できない・・・。』ですって・・・。」
「それをホ○といわないで・・・。」
なんと言うのか・・・。と言わんばかりの二人。
「・・・ロザリア、もう一杯飲む?」
「頂くわ。」
「今度はココアでいい?」
「じゃあ、わたくしはシャルロットポワールを準備しますわ。」
どうやら二人は現実逃避に走った模様。 再び沈黙が訪れた。
「ねえ、かなりまずい状況だと思わない?」
「何故ですの?」
アンジェリークがまた沈黙を打開した。
「だってロザリア、オリヴィエ様がすきなんでしょ?」
「なっ・・・。」
「違う?」
重ねて聞くアンジェリークに、ロザリアは観念した。
「・・・認めますわ。でもアンジェだってオスカー様に想いを寄せてるじゃない。」
「えっ・・・。あ、えっとぉ・・・。その・・・。」
ボンっと、火を噴いたように赤くなるアンジェリークの表情は、言葉よりもはるかに雄弁だ、とロザリアは感じた。
「で、何がまずいんですの?」
このままでは埒があかないと冷静に判断した紫紺の天使は、わざと話を変えた。
「あ、そうよね。・・・だって、オリヴィエ様って、女性の気持ちが分かる、男性でしょ?」
「ええ、確かに。」
「お綺麗だし。・・・ロザリアももちろん美人だけど。」
「あら、当たり前じゃない。この、完璧な女王候補であるわたくしが。」
自信たっぷりに言い放つロザリア。
これが彼女以外の人間だったら傲慢にしか聞こえないが、不思議とロザリアにはそう思わせない雰囲気があった。
「分かってるもん。だ・か・ら!!大変なんだもん。」
「ですから、どうして?」
「アンジェの恋のライバルがオリヴィエ様よ?・・・勝てっこないもん・・・。お綺麗で、大人で、アンジェにも優しくしてくれて・・・。」
そこまでいうとアンジェリークの瞳に、みるみるうちに涙が溢れてきた。
「まあ、お綺麗なのは確かだし。大人でらっしゃるわね。」
「そんな人がライバルよ!?」
さっきまで瞳をうるませていた(はずの)アンジェリークだったが、なぜか怒りに燃えている。
「あんたには、かなり不利ですわね・・・。ですが、わたくしには有利ですわ。」
胸を張っているロザリアに、アンジェリークが呆れたように言う。
「何言ってんの?ロザリアだって、大変だよ?」
「へ・・・?」
彼女にしては珍しい間抜けな声に、自分自身で慌ててごまかすロザリア。
「あ、いえ、ですから。・・・どうしてわたくしも、なんですの?」
「だって、オスカー様って、あの、女性の扱いに手慣れてる方でしょ?」
こういって話し始めるときは、彼女にとっての前振りでしかない。
「そうですわね。」
ロザリアもこの意見には同調する。
「・・・もし、宗旨替えなさったら、同性なんだし、いいところを一番ご存知なんじゃ・・・。」
・・・・・・・・・。
しばしの沈黙の後・・・。
「しゅ、宗旨替え、ですってぇぇぇぇ!!!」
ロザリアの絶叫が部屋にこだました。
「し―――!!し・ず・か・に!!!」
今度はアンジェリークが珍しくロザリアを諌めた。
「あ、わたくしとしたことが・・・。」
さすがにロザリアはすぐに冷静さを取り戻し、椅子に座りなおした。
「そういう可能性が全くありえない、とは言い切れませんものね・・・。仮にオスカー様が、その、宗旨替えなさったと仮定した場合は。」
「そうなると、ロザリア大変だよ。『ライバルは宇宙一のプレイボーイ』って。」
「・・・ねえ、アンジェ。あんたオスカー様に想いを寄せているはずなのに、よくもまあそんな事言えるわね。」
突然しみじみ言い出したロザリアだが、アンジェリークはそんなことには全く動じない。
「だってオスカー様のことだったら、何でも知りたいし、ちゃんと今の事を見ておかなきゃ、でしょ?だって、・・・好きだから。」
さすがに最後は恥ずかしかったのだろう、アンジェリークは蚊のなくような声で言った。
「まあ、状況を冷静に判断することは必要ね。最後の言葉はなかったことにしても。・・・でも、アンジェ、本当にお二方がそういう関係かどうか、確証はないのよ。わたくしも聞いただけだし。見たわけじゃないわ。」
本音は『そんな事信じたくないわああああ』ではあるのだが、さすが完璧な女王候補だけあってそのそぶりはかけらも見せない。
「私もあんまり信じられないの。だってあのオスカー様が宗旨替えされるって事は、宇宙がひっくり返るくらいの出来事だと思うし。」
さすがに素直なアンジェリークは思ったことを口にする。
「・・・確かめなきゃ。」
「え?」
「確かめなきゃ、って言ったの。本当にオスカー様とオリヴィエ様がホ○かどうか。」
かくして、アンジェ・ロザリア協同同盟発足「オリヴィエ・オスカーホ○疑惑解明作戦」が実施されることとなった。
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