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オスカーの首筋に、必死でしがみ付くアンジェリークがいた。
「い…痛いですぅ…オスカーさまぁ…。」
涙目で彼を見上げ、訴える少女。
「すまない…だが、止めるわけにはいかないんだ。分かるだろ…?お嬢ちゃん。」
そう言って動きを止めないオスカーを見つめたアンジェリークの頬を、一筋の涙が伝った。
そんな恋人の姿に、炎の騎士は動きを止めると、アンジェリークを優しく抱き締めてその頬と唇に軽くキスを落とした。
「オスカーさまぁ…。」
潤んだ翡翠色の瞳と、痛みからか紅潮した頬に、オスカーは暫しの間見とれてしまった。
「…お嬢ちゃん…。」
「痛いです、オスカー様…うっ…ひっく…。」
泣きじゃくりながら痛みを訴えるアンジェリーク。
「ああ、すぐに楽にしてやるからな。さあ、力を抜いて…そう、いい子だ…。」
少しでも気を紛らわしてやろうと、オスカーはここぞとばかりに甘い声でアンジェリークの耳元に囁く。その声の甘さに愛らしい天使の身体から、少し力が抜けた。
――――――その瞬間――――――
オスカーが一気に力を込めたのだ。
「ひあっ!!」
いきなり与えられた痛みに、アンジェリークは思わず仰け反った。
「うっ…くっ…。」
さっきまで止まっていた涙が、柔らかな瞳から再び溢れ出した。
「大丈夫だ。もう少しだからがんばれるな…?俺のお嬢ちゃん…?」
なだめているオスカーも、相当我慢しているのだろう、かなり辛い表情をしている。
「お嬢ちゃんに苦しい思いをさせるのは、俺にとって最も耐えがたいことなんだ…。だがここで止めてしまえば一生辛いままでいることになる。…このままでいいのか…?」
「このまま…?」
アンジェリークは彼の言葉を繰り返し、自分の状況を考えた。
(このままなんて…嫌!!)
「痛くて、苦しいけど、でも、このままなんて…。」
その言葉にオスカーは微笑むと、柔らかく抱き締めた恋人に囁いた。
「もう少しだけ我慢してくれるか…?そうしたら終わるからな…。」
言うが早いがオスカーは動きを早めた。
じりじりと焼け付くような痛みに必死で耐える恋人を早く楽にしてやりたい、その思いがアンジェリークにも伝わったのだろうか、もう痛みを訴えることはなかった。
「あっ…!!」
軽い痛みが走った後、アンジェリークは苦痛から解放された。
「…終わったぜ、お嬢ちゃん。よく頑張ったな…。」
言いながら、彼女の髪を優しくなでるオスカーの仕草に、アンジェリークは思わず涙がこぼれた。
「…ごめんなさい…私…。」
「いや、気にしなくていい。誰だって痛いだろうからな。…それにしてもなんだって…。」
オスカーの手に握られていたもの、それはハエトリ紙、だった…。
「ごめんなさい。オスカー様に作っていただいたお夕飯、ハエに盗られちゃうの、嫌だったの…。」
その言葉に大変上機嫌になった彼は、項垂れた恋人に甘い口付けを贈ると、
「君が望むことはなんだって叶えてやるぜ…?ただ、今日みたいなのは勘弁してくれよ?『髪にくっついたハエトリ紙を取って下さい』なんて、な。」 と、ウインクした。
その後アンジェリークの髪に大した影響はなく、オスカーは髪にくっついてもすぐ取れるハエトリ紙を作らせ、それは世の主婦たちの間で大流行したそうだが、彼にとってはそんなことはどうでもいいことであって。
こうしてやっぱりラブラブな二人なのでした。
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