「じゃあ、これが台本ね。このとおりやればいいから・・・。」
「何故私がこのようなことを・・・。」
 それぞれに台本を配ったオリヴィエとそれを受け取りながらも、まだこの展開に満足できないジュリアス。
「ここまできたらやるしかないじゃん、ジュリアス〜。それとも首座ともあろうかたが、女王陛下に逆らうっての?」
そのような事があるわけなかろう!
 ジュリアスは女王陛下という言葉に、ひっじょ〜に弱い。それを分かった上でのオリヴィエの発言だけに反論の余地も、ない。
「まあ、あくまでもお芝居、ですからねぇ。」
「そ〜そ〜、別に他意も悪意もねぇんだしよぉ、首・座・さ・ま。」
 ぐっと黙り込んだジュリアスに追い討ちをかけるルヴァとゼフェル。ただ、ルヴァは追い討ちをかけるつもりはなく、反対にゼフェルは嫌味たっぷりではあるが。
「・・・わかった・・・。」


何故私がこのようなことを言わねばならぬ!!
 さっき、わかったといっていたはずだったが、今、彼は憤慨していた。
「畏れながら、ジュリアス様。これはお芝居であって・・・。」
黙っておれ、オスカー!!そなたはアンジェリークといちゃつく役だから、私の苦労がわからぬのだ!!出来れば私とてアンジェリークといちゃつきたいのだ!!
 どさくさ紛れに、つい本音を吐いてしまったジュリアスが、しまったと思っても、時、既に遅し。
 炎のサクリアを背中に背負ったオスカーが、地を這うような低い声で、
「・・・ジュリアス様、いくらあなたでも俺のお嬢ちゃんは渡せません・・・。」
言いながら、ジュリアスにゆっくりと迫ってくる。それも右手にサクリアを溜めながら・・・。
「ま、待てオスカー・・・はやまるな・・・。そなたのアンジェリークに何かする訳ではない・・・。」
遅い!!
 言うが早いかオスカーは、
「か〜め〜○〜め〜・・・波!!!!
 と叫び、ジュリアスへとサクリアをぶっ放した。
「う・・・ぐふ・・・。」
 哀れジュリアスは、鳩尾にそれをまともに受けて、失神してしまった・・・。

おことば キジも鳴かずば撃たれまい。

「どうするのかな、お芝居・・・。ジュリアス様は意地悪継母の役でしょう?ジュリアス様のセリフで、このお芝居始まるのに・・・。」
 マルセルのひと言で、一同考える。ちなみに倒れているジュリアスのことは誰も視界に入っていない、哀れ首座さま。
「折衝案ですが、オリヴィエ、貴方がするのは・・・?」
「え?やぁよ。アンジェいじめる役なんて。」
 リュミエールの提案に、即座に反論するオリヴィエ、だった、が・・・。
「それはわたくしも同じこと。何故あの愛らしい天使を好き好んでいじめなければらならないのですか?役柄上、やむを得ず、です。陛下のお心に背くことは出来ません。」
「僕だってアンジェいじめるのなんて嫌です。でも陛下が楽しんでくださるのだったら、って僕・・・。」
 ウルウルと、みるみるうちに鳶色の瞳に涙を溜める最年少守護聖。
「かわいそうなマルセル・・・。」
「わかってくださるのはリュミエール様だけです・・・。」
 ひしと抱き合う2人を見つめながら、そっと光るものをふき取るアンジェリーク・・・。ああ、友情って、いいものですねぇ・・・。
「・・・決まりだな・・・。」
 クラヴィスのひと言で、オリヴィエの参加、決定。 だった、が・・・。
「私が出来ないのには、れっきとした理由があんの!確かにアンジェいじめる役が嫌ってのはあるけどさ、私だって陛下の御為になら我慢できるよ。・・・じゃなくて!私は総合演出なの。傍から見て色々効果を考えなきゃいけないわけ。照明の色とかドレスの雰囲気とか・・・。だから私が芝居そのものに参加すると、そういったものが完璧に出来ないのよ。どうせやるんだったら納得できるものを陛下に見て頂きたいの!!」
 ぜーぜーと荒い息をはいたオリヴィエが一気にまくし立てた。その剣幕に、事の次第を見守っていた他の守護聖も呆気に取られている。
「そ〜ですねぇ・・・。オリヴィエの言い分も最もですねぇ・・・。」
「で、しょ〜。だから私は継母は、ムリ。」
 ルヴァという味方をつけたオリヴィエ。彼が参加しないことはこの時点で全員(アンジェを除く)がはっきりと認識した・・・。
「それにさ、ジュリアス仕様でドレス作ったんだし、私とジュリアスじゃ体格違いすぎるじゃん。」
 全員がはっとした。
「それって僕にもドレスがあるって事ですか・・・?」
 恐る恐る尋ねるマルセル。
「あったりまえじゃな〜い☆マルちゃんもリュミちゃんもし〜っかり準備してるよん☆」
・・・・・・。
 当然といえば、当然。このお方がこと衣装に関して抜けているはずもなく、というより、衣装が作りたくて参加しているといっても過言ではない方なのです・・・。
「見て見て、これがマルセル仕様で、で、こっちがリュミエールのドレス。我ながら満足いく仕上がりなんだよねっっ!!」
 うきうきと衣装を出してくるオリヴィエを止められるものはもはや皆無でしょう。更にアンジェリークも参加してきたし・・・。
「もう試行錯誤を繰り返したよ。」
 そう言ってオリヴィエが取り出したのは・・・。

 マルセルのドレスは全体が淡いグリーンで、大変可愛らしい、しかし、そこここにドレスとは不似合いの宝石が散りばめられている。裾にはフリルがあしらわれているが脚捌きを乱すように動いている。
 一方、リュミエールのほうは、色調は水色で、タイトなデザインになっている。ドレープを大きくとり、いかにもな宝石が胸の辺りに大きく存在を主張している。
「あの、オリヴィエ・・・。」
「何さ。」
「わたくしのドレスですが、その、少し露出が・・・。」
 リュミエールが戸惑うのも無理はない。彼のドレスはマルセルのそれとは違って、背中が大きく開いていて、腰のラインが丸見えだったからである。
「何いってんの。こんくらいど〜って事ないじゃん。」
「あの、そうはいいましても、わたくしは人様に、その、肌を見せるなどといったことには慣れておりませんし・・・。」
 気恥ずかしさでリュミエールがドレスを脱ごうとした時、
「うわぁ・・・。」
 アンジェリークが彼を見ていたのである。
(ああ、なんということでしょう・・・。アンジェリークにこのような姿を見られてしまいました・・・。わたくしの、一生の不覚です・・・。)
 どうすることも出来ずリュミエールが俯いてしまったが、アンジェリークは、
素敵・・・。
 と、のたまった。
「「「「「「「へ・・・?」」」」」」」」
 全員が今の言葉を信じられずにアンジェリークを見やっていた。しかしアンジェリークはそんな視線を気にする風もなく、リュミエールに近づいて、言った。
「リュミエール様って、お肌がとっても綺麗ですぅ。つるつるで、しっとりしてて・・・。それに背中!!背中ってお手入れがとっても難しくって、だからこそお背中が綺麗って、すごいんですよー。腰のラインもとってもセクシー。色も白くてらっしゃるし、透けるような珠の肌ってリュミエール様のお肌みたいなことを言うんですねっっ!!・・・オリヴィエ様もすごいですよねー。リュミエール様の素敵なとこ、ぜーんぶ見せちゃうほうが魅力的って分かってらっしゃったんですもんね!!」
 瞳をきらきら輝かせながら、リュミエールを褒めちぎり、なおかつデザインしたオリヴィエを賛辞することも忘れない。恐るべし、無敵補佐官。
「ま、ね。」
「アンジェリークがそう仰ってくださるなら、私は申し上げることはありません。」
 二人とも、テンション上昇中。流石補佐官。
「僕は・・・?アンジェはどう思う?」
 すかさずマルセル。
「マルセル様もとってもいいですよ!!マルセル様の、真直ぐで優しくっていつも楽しませてくださるとことか、いっぱい出てますもん!!それにマルセル様、ご自分が女の子っぽい外見、気にしてるって仰ってたけど、それって今だけしかないことですよ。マルセル様が大きくなったら絶対格好いい男の人ですもん。」
「どうしてそんな風に思うの?」
  アンジェリークの自信満々な発言に、思わず口を挟んだオリヴィエ。他の守護聖もうんうんと頷いている。
「マルセル様、ご自分で気がついてらっしゃらないかもしれませんけれど、マルセル様とカティス様、雰囲気同じですもん。」
「「「カティス?!」」」
 アンジェリークの口から思わぬ人物の名が出て、一同驚いた。そりゃそうだ。アンジェリークがカティスを知っているはずがない。
「はい。前に皆さんで撮られたって写真を王立芸術院で見つけたんです。カティス様が聖地をお出になる前に記念で、っていうのを。私、オスカー様とマルセル様の間にいらっしゃる方を存じ上げなくて、オスカー様にお伺いしたら、そのかたは、カティス様って仰って、マルセル様の前の緑の守護聖なんだって。・・・素敵なかただなぁ、って覚えてたんですぅ。」
「僕、カティス様に雰囲気、似てるんだぁ・・・。」
 嬉しそうなマルセル。アンジェリークは彼が、敬愛する前任の守護聖に似てると言われて嬉しくないわけないことは知らない。最強です、補佐官様。
 そんなこんなで、意地悪姉さんその1その2は戦線復帰。・・・単純かも・・・。

「問題はジュリアスなんだよね〜。」
 オリヴィエの一言で、一同再び考え込む。
「わたくしとマルセルは代理という訳にはいきません。」
「同じ場面に出るもんねぇ・・・。私は舞台演出だし。」
「ルヴァのおっさんはどーなんだよ。魔女なんだろ?」
「魔法使いだっての。・・・そっか、ルヴァねぇ・・・。」
 ゼフェルの一言に、にんまりと笑ったオリヴィエ。
「あ〜、わ、私は・・・。」
 後ずさりしたルヴァだったが、
剥いてしまえぇぇぇ!!
「ひえええええええ〜〜〜あ〜れ〜・・・。」
 哀れ、ルヴァ様。合掌。・・・ちーん。

「ムリですよぉ・・・。」
 情けない声でヘルプを出したルヴァ。
「そんな事ないってば。」
  言いながら更衣室を覗き込んだオリヴィエだったが・・・。
「・・・ムリだわ。ごめん、ルヴァ。」
「だから言ったんですよー。」
「おっさんじゃ駄目なのか?」
 普段の執務服に着替えて出てきたルヴァに、ゼフェルが言った。
「サイズが合わない。」
 オリヴィエが至極あっさりと答えた。
「は?」
「だから!ルヴァじゃサイズが合わないのよ。」
「どういうことですか?」
 リュミエールの問いに答えたのはアンジェリークだった。
「ジュリアス様の身長は188cm、体重は70kgです。かたやルヴァ様は177cm、65kg。これはおふたかたとも、アンジェリークスペシャル、スペシャル2、アンジェリークデュエット、天空の鎮魂歌、アンジェリークトロワ、全てにおいて同じです。」
「すげ・・・。」
 思わず、ゼフェル絶句。
「ちなみにクラヴィス様は190cm、73kg。リュミエール様は183cm、67kg。オリヴィエ様は180cm、63kg。オスカー様は189cmの79kgです。皆様全作品において身長、体重ともに変化はありません。」
「ん〜。さすがアンジェ。把握してんねぇ・・・。」
 オリヴィエも感心しきり。
「マルセル様はトロワまでは164cm46kgですが、トロワは170cm52kgですし、ランディ様は174cm61kgが177cm64kg、ゼフェル様は169cm51kgが171cm53kgになってます。」
「ほぅ・・・。見事だな・・・。」
 クラヴィスも感心しきり。
「なので、ジュリアス様とルヴァ様では、お洋服が合いません・・・。ですよね?」
「大正解・・・待ってよ・・・。てことは・・・。」
 再びオリヴィエがにんまりと笑う。そして、
「クラヴィス。あんたがジュリアスの代理に決まり!!」

「何故私が・・・。」
 不本意なクラヴィス。彼は彼なりにアンジェリークとラブラブな関係を夢見ていたのだ。 (私が創りだした満天の星空の下、愛らしい微笑みを湛えた天使がダンスをする・・・。なんという素晴らしいことだ・・・。)
 とまあ、本人以外は全くもって理解できないラブラブを想像していたクラヴィス。
しかし現実は、そうも言っていられなかった。
「まあいいじゃん。ただの代理だし。」
 とっても軽いオリヴィエの言葉で、彼の苦悩は終わりを告げた。
「じゃ、リハーサル、いきまぁす。」
 無邪気なランディの一言で、マルセル、リュミエール、そしてクラヴィスの長い一日は始まった・・・(笑)。

 

 

つづき