「う・・・ん・・・。」
 次に彼女が目を覚ましたのは、ベッドの上。
「気がついたみたいですよー、陛下。」
「アンジェ!・・・具合はどう?どこか痛いところはない?」
 アンジェが横を向くと、そこには、心配そうに自分を覗き込むロザリアと、ポットから何かを注いでいるルヴァの姿があった。
「あ・・・れ・・・?私・・・。」
「倒れたのよ・・・。全く、あまり心配させないでちょうだい。私の心臓がいくらあっても足りなくってよ。」
 あたりを見回してみた。どうやらここは女王のプライベートルームらしい。
「ここ・・・ロザリアの?」
「わたくしの寝室です。あんたの部屋の鍵はオスカーも持っているのでしょう?」
「今のアンジェは混乱していますからねー・・・。」
「私、混乱なんか・・・!」
  アンジェは思い切りルヴァの言葉を否定した。
「気を失う、ということを混乱していないことと認識するほど私も守護聖たちもは甘くはなくってよ。あんた自身が認識できていないだけよ。」
  ロザリアの言葉にルヴァも頷きながら言う。
「今のあなたをオスカーに会わせるのは得策ではない、というジュリアスの判断です。・・・いえ、ジュリアスだけでなく、オスカー自身の意志も含みます。」
「オスカー様の意思?」
 アンジェは納得がいかない。少なくともオスカーは自分と会いたくないなんて言うとは思えない。
(オスカー様、アンジェのことお嫌いになったのかしら・・・。)
 余計なことを考えたせいで、アンジェは沈み込んでしまった。
「オスカーはあんたを気絶させたことに責任を感じたみたいね。あんたがまともな思考回路を復活させるまで、執務に専念するそうよ。」
 と、ロザリアは言ったものの、実際は女王陛下の怒髪天に焦ったオスカーがしぶしぶ

承諾した、というだけであるのだが。

 

 数日後。
 いつものように執務にいそしむ女王はここのところ、実に機嫌が良かった。かわいい補佐官は独占できるし、邪魔者(オスカー)は来ないから、執務は滞りなく進む。お茶会も和やかに進む。ロザリアは実に満足だった、ただ一点を除いては。
 それはかわいい補佐官のこと。普段は変わらない笑顔でいるのだが、一人っきりになると溜め息をつくのだ。
「はあ・・・。本物のオスカー様は・・・。」
 (まただわ。あの子の溜め息って聞いてるの、辛いのよね。)
  崇高なる女王陛下も、さすがにそろそろ限界ではないだろうかと感じていた。

 一方のオスカーは、というと・・・。
 えらいことになっていた。
 執務は普段の二倍のスピードで進む(なにせオスカー2人ですから)。副官の忙しさは目を回すほどだった。その一方、プライベートでは酒の量が2倍。お互いがお互いと顔をあわせるのを極端に嫌がったので(まあ、当然といえば当然)、部屋も両端に置き、世話人も2倍。
  食事に至っては、徹底的に時間を置いた。そのため、執事の忙しさは半端ではなく、あまりの過酷な状況に、アンジェの世話係をしていた乳母が、『このままでは執事様が倒れてしまいます。』と、泣きながらルヴァに訴えるほどだった。

 女王執務室。
「・・・と、いう訳でしてー。そろそろ限界だと思うんですよー。」
「やっぱり、ルヴァもそう思う?・・・ねえ、陛下。いい加減やばいんじゃない?」
「潮時かしら・・・。あの子もそろそろ精神的にまいってきているし・・・。」
 ロザリアを中心に夢様と地様が円陣を組むような格好になっている。
「・・・今度の月の曜日にあの2人に関しての結論を出しましょう。いいわね?・・・じゃ、今日はこれで解散。」
 一応の目安はついたらしい。が、この後とんでもないことが起こる事など、今の時点では誰も予想すらしなかった。

 

まえ             つぎ