日の曜日。
 アンジェは朝からうきうきしながらクローゼットをひっくり返していた。
「あれでもない・・・。ああ、これじゃない・・・。」
「何やってんのよ、アンタ。」
「あれ?ロザリア。なんでここにいるの?」
 アンジェが振り向くと、普段着(とはいってもかなりゴージャスな赤のロングドレス)の親友が立っていた。
「あんたが朝からクローゼットをひっくり返してるって情報が入ったのよ。ねえ。・・・一体、どうしたって言うの?」
「ああ、探し物してるの。」
 言いながらも彼女にしては珍しく、手を休めない。そしてある服を取り出すと、うれしそうに言った。
「ああ、みっつけたー。」
「それは、まさか、あんた・・・。」
 彼女が驚くのも無理はない。アンジェが取り出したのは、なんと、女王候補時代に着ていた、スモルニィの制服だったからである。
「それって・・・。」
「うん。補佐官になっても、はじめの気持ちを忘れないようにって取っておいたの。サイズも調整してるわ。」
「とかなんとか言って。実は着たかっただけでしょう?」
「えへへ。やっぱりロザリアにはバレバレだったわ。」
 といって、舌をぺろっと出すアンジェ。
 そんな親友を見ながら、彼女は久しぶりにアンジェが笑ったことに心の底からうれしかった。しかし、疑問がひとつあった。
「ねえ、アンジェ。なんでスモルニィの制服なんか着るの?」
「え?・・・似合わない?」
「いいえ、そうではなくて・・・。」
 彼女の言いたいことが分かったのだろう、この天使は極上の笑みを浮かべて、言った。
「今日は日の曜日。みんなお休み。だから私も補佐官お休み。・・・私、今日は候補時代に戻ることにしたの。」
 そんなアンジェに、ロザリアは何も言えなかった。

 公園。
 マルセルはいつものように花壇の手入れをしていた。そこへ、彼を弟のようにかわいがっている風の守護聖がやってきた。
「やあ、マルセル。今日もいい天気だよな。」
「あ、おはよう、ランディ。朝から元気だね。」
「ははは。俺はいつだって元気さ。・・・ところでゼフェルを見なかったかい?」
「え?ゼフェル?」
 マルセルがあたりを見回した、とたん。
 彼の動きが止まった。瞳孔が最大限に拡大され、落ちるんじゃないかと思うくらい見開いている 。
 そんな彼の様子にランディは驚き、マルセルの見た方向を見て、止まった。
「アレって・・・?」
「アンジェ、だよね?」
 2人が驚くのも無理はない。そこにはスモルニィの制服を着たアンジェがスキップしながら歩いていたのである。
「あ、マルセル様、ランディ様まで。」
  様!?
「今、アンジェ、様って・・・?」
「うふふ。今日は私、女王候補なんですぅ。」
 マルセルの問いに平然と答えるアンジェ。ランディはあまりのことに口をパクパクさせている。と、そこへ、
「おめぇ、一体・・・。」
「あ、ゼフェル様。おはようございますぅ。」
「お、おう。・・・って、様!?おめぇ、頭おかしくなったんじゃねーのか?」
「違いますってば。私、今日は女王候補なんですぅ。」
「はぁ?」
 ゼフェルも何がなにやらわけがわからない。そんな3人を残して、
「じゃ、私行くところがありますので。これで失礼します。」
 と、去っていってしまった。
 きっかり一分後に公園に、
「うっそーーーーーーー!!」
「・・・・・・(絶句)。」
「まーーーーーーーじかぁぁぁぁぁ!!あいつ何考えてんだぁぁぁぁぁ!!」
 という絶叫がこだましたのは言うまでもない。

 

 うららかな日差しがこぼれる中。
 筆頭守護聖ジュリアスは頭を抱えていた。
 原因は・・・。
「おはようございます、ジュリアス様。」
「今日はこのオスカーと遠乗りの御約束をいただいた日ですが。」
「何を・・・。俺がオスカーだ。」
「ふざけるな。サクリアごときに俺の名を語らせるほど俺は落ちぶれてはいないぜ。」
 と、まあ、こんな様子が続いているからである。
「・・・散歩に行く。」
  彼が言えば、
「ジュリアス様、このオスカーがお供いたします。」
「オスカーは俺だ。・・・ジュリアス様、私がお供いたします。こんな輩はほおって置いて。」
(いい加減にしてくれぬと私の身が持たぬ。)
 空を仰ぎながら彼の頭痛の種は尽きないのであった。

 

  森の湖
 アンジェは一度ここへ来てみたかった。飛空都市にあったそれは、聖地の湖を模したものであることは聞いてはいたが、彼女自身が実際に来て見た事はなかったからである。
「本当にそっくりなんだわ。驚いちゃった。」
 などと独り言を言いながら、靴を脱いで足を水に浸してみる。
「きゃ。冷たい。」
(そういえば、最近こんな風に遊んだりしてなかったっけ。)
 そんなことを思いながら髪を風になびかせたりしてみる。
「アンジェではないか・・・。何をしている?」
 いきなり後ろから声がしたので、慌てて振り向いた彼女の目に
「あ・・・。」
 愛しい恋人が立っていた。(おいおい、声を掛けたジュリアスの立場は・・・?)
「・・・久しぶりだな、アンジェ。」
「会いたかったぜ・・・。」
 オスカー達がそれぞれアンジェの腰に手を回し、耳元で囁く。
「その愛らしい瞳で、俺を見てくれないか・・・?」
「いや、そんな奴は見なくていい。俺だけを見てくれ。」
「何を・・・。」
「貴様に俺のお嬢ちゃんを渡すことは断じて、ない。」
「それをそっくりそのままお前に返してやる。」
 もしこの場に他の誰かがいたら、前のクラヴィスのように燃えていたかもしれない。2人の間には火花がバチバチと散っている。
「止めぬか、アンジェが・・・。」
 ジュリアスが言おうとした時、
「・・・会いたかったです、オスカー様。」
 アンジェが右側にいたオスカーに向かって、にっこりと笑いかけたのである。
 その瞬間。
 まばゆい光が反対側のオスカーを包み込み、深紅のサクリアへと姿を変えていったのである。
『何故、分かったのですか・・・?』
 彼の問いにアンジェは笑いながら答えた。
「一瞬、分からなかったわ。・・・わたしったらあんまりびっくりして、気を失っちゃったみたいだし。」
『では、何故私ではないとお分かりに?』
「私が好きになったのは、見た目だけじゃないもの。・・・もちろんオスカーはかっこいいけど。でもね、そうね・・・。」
 今までに見せたことがないくらい真剣なまなざしで、アンジェが言葉を続ける。
「生まれてきた理由はこの人と出会うため、って思ったの。・・・私、女子校育ちだし、男の人って、パパ以外あんまり知らないけど、でもね。」
 飛び切りの笑顔で言う。
「・・・魂が呼んだの。」
『魂、ですか・・・。貴女を試すような振る舞いをしましたこと、お許しください。』
「気にしないで。私、あなたのことも好きよ。あなたがオスカーに宿っていなければ、わたしたち出会うことすらなかったんだから。」
 アンジェの答えに、彼の者は納得したのだろう、ゆっくりとオスカーに重なって、そして消えていった。
「・・・会いたかった、アンジェ。俺の天使・・・。」
「私もです。・・・淋しかった・・・。」
 どちらからともなく抱き合い、唇を重ねる。そして、ゆっくりと肩を並べながら寄り添って、湖のほとりに腰を下ろしている。
 夕日が優しく二人を包み込んでいる。

 そんな2人をジュリアスは優しい目で見守りながら、そっとその場を後にしたのであった。

 

まえ              つぎ