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「な・・・なんやて!?歌音が浮気ぃぃぃぃ!?」
「声が大きい!!」
「須藤の言うとおりよ、アンタ声でかすぎ。」
ここは須藤瑞希邸。話があるといって呼び出された姫条は、なぜかそこにいた藤井奈津美に大爆弾発言を聞かされることとなったのである。
「い、いつの話や・・・?」
「こないだの日曜日、歌音、どこで何してた?」
「こないだか・・・?なんや友達と遊ぶ、ゆーてたわ。」
その時のことを姫条は思い出していた。
「日曜、友達と遊ぶの。」
「大学のか?」
「うん。」
「誰や?」
姫条からすれば、大学の友人といえば、葉月や守村、といった面子が出てくる。ちなみに有沢さんもいるんだが・・・。
「うん、ちはるちゃん。」
「ふーん・・・。」
チハルという名前は初耳だ。しかし、屈託のない歌音の笑顔に負けた姫条は、
「気ぃつけて、遊んできーや。」
と、快く送り出したのであった。
「それよ!!」
「浮気するなんて聞いてへんで!!」
「姫条君は甘すぎるわ。ミズキだったら信じられない!!」
「お前が見たんか?」
話を奈津美に振った、姫条。
「見たのは須藤。」
「瑞希ちゃん、そんときのこと、詳しく聞かせてや。」
姫条の余りの迫力に、瑞希もこくこくと頷いた。
「ミズキが車(リモ)で、ショッピングモールに行ったら、歌音さんが男の人と一緒にいたわ。二人で仲良くブティックで洋服見てた。で・・・。」
「で?」
「指輪、選んでた。歌音さんの指に彼が指輪はめてるの、ミズキこの目でしっかり見たし、間違いないわ。」
瑞希の発言に真っ青になる姫条。
「浮気やなくて、本気、っちゅー事か・・・?」
「男が女に指輪贈る理由は、まあ、言わなくても分かるしねー。」
追い討ちをかける奈津美。
「せやけど、歌音、ゆーてたんやで。友だち、って・・・。」
「姫条さぁ、浮気する時に『今から浮気します。』って宣言する奴がどこにいるっての?」
「ミズキだってそう思う。」
高校時代から歌音と仲の良かった二人だ。自分が何かをやらかせば真っ先に食ってかかってくる。とはいえ、彼女達が自分に嘘をつく理由はない。
「せやけど、何で嘘つかなあかんねん。男とやったって、俺はゆーてくれたら別にかまへんって、そんなん、歌音かて、知ってるで。」
「パリィの諺にあるわ。『男は本能で浮気する。女はときめきが欲しくて浮気する』っていうのが。」
神妙な顔つきで瑞希が言う。
「ときめきねぇ・・・。姫条、最近歌音に冷たくしてたんじゃない?」
「そんなん、神に誓ってもあらへん!!」
奈津美の言葉を思いっきり否定する姫条。
「じゃあ、歌音が男と一緒にいるのは何で?」
「友達と遊びにいく、ゆーた。歌音は俺に嘘なんかつかへん。友達は女やで。」
胸を張って言い張る姫条。
「女だって証拠は?」
奈津美が重ねて聞く。
「ちはるちゃんや、って聞いてるんや。誰とあそぶんやって聞いたら、そう言うた。歌音は嘘なんかつかへん。」
「ふーん・・・。ちはるちゃん、かぁ・・・。」
それまで黙っていた瑞希だったが、
「姫条君も名前だけ聞いたら女の子とも思えてよ・・・。」
と、爆弾を落とした。
「確かに。まどか、だもんねぇ・・・。」
「う・・・。せやけど、なんも証拠なんかあらへんで!!」
叫ぶ姫条は必死だ。誰よりも大切で、誰よりも側にいて欲しい恋人が、よりによって浮気、とは・・・。
「確かめたら?」
そう言って奈津美が取り出したのは、携帯だった。
「もしもし、志穂?アタシ、奈津美。」
"奈津美?何か用?"
「チハル、って子、知ってる?」
"チハル?貴方一体何なの?"
有沢が面食らうのも無理はない。彼女は今食堂で遅いランチをとっている真っ最中だったからだ。
「知らないの?」
"ちょっと待って。"
しばらくの後、誰かに代わる気配がした。瑞希も奈津美も姫条も固唾を飲んで見守っている。
"どうした・・・?"
出てきたのは、葉月だった。
「葉月?」
「何で葉月がおんねん!!」
驚いた奈津美と、何故か怒る姫条。
彼が怒るのは理由がある。高校時代、歌音をめぐって密かにライバル関係にあったからだ。しかし歌音が姫条の告白を受け入れてから、表面上は何もなかった。そう表面上は、である。葉月は歌音と同じ大学に通い、姫条はフリーター。共に過ごす時間がかなり減った上、相手の葉月はゼミも一緒(と聞いた)。姫条からすれば、かなり面白くない存在、それが葉月なのだ。
「丁度良かった。葉月さぁ、チハル、って子、知ってる?」
そんな姫条の内心など知らず、奈津美は、彼と話し始めた。
"ああ、知ってる。歌音、仲いいから。"
あっさりと答える葉月。
「詳しく教えて欲しいんだけど。」
"・・・詳しく、ってなんだ?"
「んーと、年齢とか、本名、とか・・・。」
"蒼樹千晴。年齢は、同じだ。"
「そんなん聞いてるんやない!!要は、男か女かっちゅーことや!!」
"なんか、騒がしい・・・。"
「ああ、気にしないで。で、その子、男?女?」
"・・・男・・・。じゃ、俺、仕事。"
そう言うと、電話はぷつっと、切れてしまった。
「決定、だね・・・。」
「Oh,lala・・・」
瑞希の言葉も奈津美の呟きも今の姫条には聞こえない。
「嘘や・・・。歌音はそんなんちゃう・・・。」
顔面蒼白で呟く姫条を流石に二人も可哀相に思い、
「ミズキ、確かめてあげる。」
言うなり、瑞希はギャリソンを呼んだ。
「なんでしょう、瑞希様。」
「車(リモ)を回して。」
「どうするの、須藤?」
奈津美の問いかけに、瑞希は簡単に答えた。
「本人に確かめるの。」
「ギャリソンのルポによると、歌音は今、ここにいるって。」
あっさりと答える瑞希だったが、
「須藤、ギャリソンさんって、探偵やってんの?」
「いいえ。」
かえって来た答えは、単純明快だった。
「もし、ホンマやったら、俺、どないしたらええねん・・・。」
かたや、世界の終わりといったものを背負っている姫条。
「そのときはそのときじゃん。」
「そんなんで納得できるかぁぁぁぁ!!歌音は俺の全てなんや!」
後ろのシートで繰り広げられる漫才(笑)を尻目に、
「お嬢様、歌音様です。」
ギャリソンの一言に全員の意識がそっちへ集中。
――――そこには、仲良く腕を組む、歌音と青年の姿があった・・・。
「てめぇ!俺の歌音に何しやがる!!」
ドアをあけて突進していく姫条に唖然とする二人だったが、
「まどか君、何するの!!」
歌音の悲鳴に我に返り、そこを見やると・・・。
―――姫条が青年に殴りかかろうとし、それを必死で止めている歌音。
「ギャリソン!!」
瑞希の叫びに、
「姫条!!止めなさい!!」
飛んで走っていく奈津美。
「そうだったんですか・・・。」
青年―――蒼樹千晴君から事情を聞いた3人はどうしていいかわからず、途方に暮れていた。
事情は簡単なものである。
千晴君の彼女が歌音の従姉妹で、彼女のために指輪を探していた。ただ、それだけだったのだ。
「なんで、歌音の指にはめたの?」
という、瑞希の問いに彼は、
「指輪のサイズが同じなんです。そう彼女が言ってました。」
従姉妹なら指輪のサイズくらい知っててもおかしくはない。
「じゃあ、ブティックで洋服選んでたのは?」
「ちはるちゃんに、あの子の好きなファッションを教えてあげてただけ・・・。」
俯いたままの歌音。
「・・・まどか君、私のこと疑ってたんだね・・・。」
地を這うような低い声に、4人はギョッとした、が・・・。
「瑞希ちゃん、ちはるちゃんとなつみんを送っていってくれる?」
顔をあげた歌音は静かに言った。
「私、まどか君に話しがあるの・・・。」
誰も歌音に逆らえなかった・・・。
「―――まどか君―――。」
「ご免、ホンマに悪い思てるんや!!疑って、そんなん許してもらわれへんの分かってる!せやけどホンマに、俺、もう・・・。」
「・・・別れようか・・・?」
「え・・・?」
「まどか君、私のこと疑った。すごく悲しかった・・・。私、友達とお買い物行くってちゃんと話したのに、それでも疑った、まどか君・・・。」
姫条は声がでなかった。歌音がはらはらと涙を零していたから。
「別れたいんか・・・?」
自分の声が掠れてることを彼は自覚していた。
「そんな訳ないじゃない!!」
瞳を真っ赤にして泣きじゃくる歌音。
「でも、まどか君は私のことそんな風に思った。」
「違う!!」
「だって・・・。」
「ちゃうんや!!俺は怖かったんや・・・。そうや、怖かったんや。歌音は俺の全部や。何があったってお前以外の女は俺には関係あらへん。けど、歌音はどないなんやろ・・・?俺とおんなし気持ちでおってくれるんやろか?めっちゃ可愛いし、もし他に好きな奴が出来たて言われたら、俺、どないしよう、って思てたんや、ずっと・・・。」
姫条の手が震えていた。それに気付いた歌音は何も言えなかった。
「ヤキモチや・・・。お前が見るもん、おまえが聞くもん、俺以外の全部に妬いてんねん、俺・・・。」
「まどか君・・・。」
「せやから・・・。」
それ以上は言葉にならなかった。歌音が彼の唇を自分ので塞いだからだ。
「私、まどか君が好き。」
笑った歌音を姫条は黙って抱きしめた。
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