「悪かったな、わざわざ・・・。」
「いいえ、気になさらないで下さい。」
 リュミエールの執務室にオスカーがやってきました。
「ですが、どうしたのですか?」
「ああ、お前の館について聞こうと思ってな。」
 とってもあっさりしたオスカーの答えに、リュミエールは戸惑いました。
「あの、それは一体・・・。」
 リュミエール様の疑問も最もです。
「ん?・・・ああ、警備上、お前の館を把握しておく必要があるからだが・・・。」
「ああ、そうでしたか・・・。」
 何か他の意図もあるのか、と危惧したリュミエールではありましたが、オスカーは、
「別に詳細な見取り図を出してくれ、って訳じゃない。いくらなんでもプライバシーを侵害する権利は俺にはないからな。」
と、言うのです。
「屋敷の中ではなくて、外観ですか・・・?」
「ああ、できれば窓の位置や高さは把握しておきたい。万一のことがあったら困るからな。」
 リュミエールはほっとしました。いくら警備のためとはいえ、屋敷の中まで出したくはなかったからです。ですが、それは当たり前でしょう。
 リュミエールは言われたとおり、館の地図を取り出しました。
「窓はこことここに二ヶ所あります。テラスがここで・・・。」
「足場になりそうなものは?」
 さすがオスカー。そういった判断は速攻です。
「いいえ、ありません。」
「玄関はここか・・・?」
「ええ、そうです。ポーチがありまして、噴水は、ここです。」
「ふむ。・・・プライベートゾーンに入る必要はないって事だな。」
 淡々と会話が進んでいきます。
「ここから先に入ろうとする奴は問答無用で止めていいんだな?」
「ええ。」
「わかった・・・。ああ、当日の警備の件なんだが、警備兵には一応礼服を着せておく。」
 オスカーが言いました。
「え?礼服・・・?」
 流石にリュミエールも驚きました。
「いかにも、って人間がうろつくのはどうかと思ってな。ボーイ兼警備兵なら人手も最低限で押さえられるし、警備の奴なら俺が全員把握している。まあ、身分の保証はしっかりしてるって事だ。」
 そんな事まで考えてたんですか、オスカー様。伊達に王立派遣軍最高司令官ではありません。ただの軟派ヤローではなかったんですねぇ。
「流石ですね・・・。」
 リュミエールも心から感心しました。


「・・・という訳なんです。」
「へぇ・・・。オスカーってばすごいじゃん。」
「ただのおっさんじゃなかったんだな・・・。」
「ゼフェル!それってオスカー様に失礼だよ!・・・でもすごいなぁ、オスカー様。」
 いつものお茶会でリュミエールはさっきのことをその場にいた、オリヴィエとゼフェル、マルセルに話しました。
「・・・って事は当日はオスカーはマジで警備に専念するんだ・・・。」
「だと思います。」
「へーかが来るからだろ?おっさん、守護聖だなぁ・・・。」
「ゼフェル・・・。」
 マルセルはそれ以上言えませんでした。ゼフェルはあんまりにもオスカーに対して失礼ですねぇ。まあ、過去の悪行が祟ってるんで、致し方ないんですが。
 そして、その場にいた全員が、オスカーの不参加をにんまりと笑って(勿論心の中で。)受け入れたのでした。ライバルは少ないに越したことはありません。ましてオスカーですから。

「あの者の忠誠心は賛美に値する。」
「オスカーは本当に軍人気質ですねぇ・・・。」
「そうね、その点はわたくしも認めますわ。」
 少し離れたところで、ジュリアス、ルヴァ、ロザリアがやっぱりお茶していました。リュミエールの声はここまで聞こえたみたいです。
「楽しみですねぇ・・・。私もリュミエールの館の噴水を見たことがなかったんですよー。」
 そんなルヴァの相変わらずのほほんとした様子に、残った二人も笑いました。ここでもオスカーの不参加は好意的に受け取られたようです。


 そうこうしているうちに、金の曜日の夜になりました。
「明日、皆さんにお祝いしていただけるなんて・・・。」
 とっても健気でとってもおにぶちゃんなアンジェリークは、窓辺でそっと外を見ています。
「・・・オフィシャル設定がないのって、よくよく考えると、どうしてなんだろう・・・?」
 なんつー事を考えておるんでしょう、この子は。
「・・・・・様・・・・・。」

 アンジェリークが呟いたのは、一体どなたの名前なんでしょうか・・・。


 土の曜日になりました。
「う・・・・ん・・・・。」
 アンジェリークは目を覚ましました。
「あ・・・・朝・・・・。」
 鈍いっす・・・。
「あ、えっと、午前は執務で、午後はリュミエール様のお屋敷で、お誕生会を開いてくださる、って・・・。嬉しいな・・・・。」
 この場に誰かがいたら、きっとアンジェちゃん速攻で押し倒されているでしょう。それっ位可愛く微笑みました。
「あれ・・・?」
 テーブルの上に、何かが置いてあります。
 アンジェリークはそれを見ると、頬を真っ赤に染めて、そっと窓を開けます。


 そしてアンジェリークが後にした部屋には・・・。
――― 一輪の花が、静かに風を受けてそよいでいました―――。

 

 

まえに     つづく