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ぽーん、ぽんぽん!!
盛大な花火で、アンジェリークの誕生パーティーは幕をあけました。
「アンジェリーク、お誕生日おめでとう!!」
マルセルが真っ先に彼女のもとへ駆け寄りました。そして、
「これ、僕からのプレゼント。」
可愛い花のブーケと、頬へのキス。
彼女の隣にいたリュミエールのこめかみがひくつきましたが、いくらなんでも頬へのキス程度で、最年少に無体な真似は出来ません。
(ほんとは違うとこにしようかと思ったんだけど・・・。)
さすがにマルセルもアレが限界だろうとふんでいました。最年少である自分にリュミエールがくってかかってくることはないはずです。そんな事をしたらリュミエールの品性が疑われるからです。だからといってアレ以上何かすれば、今は何もなくても、今後の自分の人生にマイナスになると判断できました。最年少という立場と、自分の欲求に折り合いをつけたマルセル様、なかなかです。
「ありがとうございます。」
頬にとはいえキスをされたアンジェリークは恥ずかしそうに照れています。
その彼女の愛らしさに、一同ノックダウンです。
「どうだった?花火。」
「俺が作ったんだぜ。何でおめーが・・・。」
「打ち上げたのは俺だよ。」
言い争いながらアンジェリークのもとへ来たのはランディとゼフェルです。
「んだと?!おめーがアンジェにやるモンがねーっつーから、俺が打ち上げをやらせてやるって言ったんじゃねーか!!」
「なんだって・・・。そういう言い方するのか?ゼフェル・・・。」
「あの、おふたかたとも・・・。」
アンジェリークが険悪な雰囲気に言葉を入れる間もなく、もうすぐ喧嘩が・・・というときに、不意にリュミエールが言いました。
「私は争い事は嫌いです・・・。」
そしてアンジェリークからは見えない位置で、なおかつ二人にはバッチリ分かるようにあるものをスタンバイさせました。そうです、リュミ様竜巻です。
二人は視界にそれを確認すると、慌てて言いました。
「まあ、なんつうか、いいんだ、そんなことはよー。」
「あはははは・・・俺、なんか大人気なかったな。」
二人は笑いながらあとずさっていきました。
(リュミエール様、俺たちにアレを向かわせる事にためらいとか・・・ないよな・・・。)
(あるわけねーだろ!!アンジェの前で無様に流されんのはごめんだぜ。)
(俺も嫌だよ。)
(リュミエールを敵に回す勇気はねーしな・・・。)
二人は背中を向け、こそこそと相談を始めます。
「「アンジェ、誕生日、おめでとー。これは、俺達二人からのプレゼントだ(ぜ)。」」
とってもなかよくハモりました。
「ランディ様、ゼフェル様、ありがとうございます。」
アンジェリークもにっこり挨拶を返しました。そして思いました。
(なんだ。おふたかたは本当は仲良しなんだわ。)
いいえ違います。休戦協定を結んだだけなんです。最大級の難関を二人で越えただけだったんです。
そして、
「俺はまだやんなきゃいけねー事があるからよ、じゃあな。」
ゼフェルがあっさりとその場を後にし、ランディも、
「あ、待てよゼフェル!!・・・じゃあ、俺も・・・。」
と、すたこらさっさと後を追いかけました。
「・・・なんだかお忙しそうですね。」
「彼らは彼らなりに準備があるのでしょう。」
アンジェリークににっこりと笑みを返したリュミエール様でしたが、
(逃げられましたか・・・。チッ、しくじりましたね。威嚇するより流してしまったほうがわたくしとアンジェの輝かしい未来の障壁は減ったでしょうに・・・。ライバルは、たとえライバル候補の控えでも、少ないほうが良いものでしたのに・・・。)
と、おっそろしい事をお考えでした。命拾いしましたね、ランディとゼフェル。
するといきなり周りが暗くなりました。
「きゃ。」
アンジェリークは怖くなってリュミエールにしがみつきました。
(ああ!!なんと言う事でしょう!!アンジェリークのあたたかな温もりが私の腕に・・・!!)
リュミエール様、鼻血寸前です。彼女を抱きしめようとした瞬間・・・。
―――彼は凍りつきました。背中を冷や汗がだらだらと流れていきます。視線の主は、振り返らずとも分かります。そうです、彼が唯一逆らえない、というか逆らう事すら考えられないあのお方です。
(リュミエール、それ以上はわたくしが黙ってはいなくてよ。)
女王陛下の無言の圧力に、彼もそれ以上は行動を起こしませんでした。
「わあ・・・綺麗・・・。」
アンジェリークのひと言に我に返ったリュミエールは彼女の視線の先を見て、感動しました。
きらきらとライトアップされた噴水です。七色の光を浴びて涼しげに水が流れていきます。夜景に照らし出された幻想的な風景に、その場にいた人々はほぉっと溜め息をついています。
「ゼフェル様、本当に素敵でした!!」
「ええ、本当に感動いたしました。」
アンジェリークとリュミエールの賛美に、ゼフェルは鼻を掻きながら言いました。
「あーいうヤツだったら、おっさんの館にもメーワクはかけねーし、これからも使えるしよー、悪くはねーと思って・・・。」
アンジェリークを喜ばせ、なおかつリュミエールのターゲットから外れるにはどうすればいいか、ゼフェルは真剣に考えました。そして思いついたのです、コレを。
「しかし、クラヴィス様まで参加なさるとは思いませんでした・・・。」
「・・・怯えさせるつもりはなかったのだが・・・。」
リュミエールの言葉に答えたクラヴィスでしたが、
「いいえ。私ビックリしちゃってごめんなさい。クラヴィス様のお力だってすぐに気がついたら、怖くなんかなかったのに・・・。まだまだですね、私。」
はにかむアンジェリークのなんと愛らしい事。
「・・・お前はいつも私を救ってくれるのだな・・・。」
クラヴィスはアンジェリークが怖がったのがかなりショックだったのです。しかし彼女は自分の力なら怖くない、と言ったのです。アンジェリークが闇を恐れないことはクラヴィスには嬉しいことだったのです。
無意識で周りを虜にしてしまう補佐官様、最強です。
「はいはい、今回のメイクアーンド衣装が、私のバースデープレゼントだよ。どぉ?」
パンパンと手を叩いてオリヴィエ様が乱入してきました。
「すっごく可愛いね、アンジェ。」
「・・・フッ・・・。」
「そなたは何を着ても似合うのだな・・・。」
「ええ、本当にアンジェリークは可愛いですねー。うんうん。」
「本当に。」
マルセル、クラヴィス、ジュリアス、ルヴァ、ロザリアが口々に彼女を褒め称えます。
今日のアンジェリークは、オレンジ色のフレアーに同色のオーガンジーを合わせたドレスです。メイクもベビーピンクを基調としていて、彼女の愛らしさを極限まで引き立たせることに焦点を絞ったといっても過言ではありません。
「オリヴィエ様に見立てていただくのって、本当にうれしくって・・・。」
頬を紅潮させてアンジェリークは言いました。女の子ですもの、褒められて嬉しくないはず、ありません。
「本当によく似合うな。」
声のしたほうには、
「オスカー様!」
ランディが声をあげ、
「オスカー。あんたどっから出てきたのさ。」
オスカーが執務服姿のままで立っていました。オリヴィエの言葉を受けて、彼を軽く睨んだオスカーでしたが、
「人をバケモノ扱いするな。・・・それよりお嬢ちゃん。」
と、いきなりアンジェリークに声を掛けました。
「は、はい!!」
突然声を掛けられ驚いたアンジェリークでしたが、
「可愛いな。」
と、オスカーに言われ、頬を赤らめて、
「そんな・・・あ、ありがとうございます・・・。」
と、お礼を言いました。
彼女のそんな姿に、オスカー以外の面々はこめかみをひくつかせます。
(オスカー・・・。この場の主はわたくしです。かってな真似はさせません・・・。)
(オスカー様に、アンジェを持ってかれちゃうなんて、僕が許さないんだから・・・。)
(オスカー・・・。そなたは私の右腕としてふさわしいが、だからといってそれとこれとは別だ・・・。)
リュミエール、マルセル、ジュリアスの背後にサクリアが渦巻いています。それを見たオリヴィエはギクっとなり、ゼフェルとランディは青ざめ、ルヴァは慌てふためいています。
一速即発かという瞬間、
「じゃあ、俺は警備があるからな。お嬢ちゃんが楽しんでくれてよかったぜ。」
と、オスカーはあっさりとその場を後にしたのです。
「「「「「「「・・・・・・・・・・へ????・・・・・・・・・・」」」」」」」
ロザリアと他の守護聖は呆気に取られました。アンジェリークと親密度の一番高いオスカーです。アンジェリークを連れて行くか、掻っ攫うか、云々云々と考えていたものですから、あのオスカーの態度に驚くのも無理はありません。
(オスカー様、アンジェ連れて行かなかったね・・・。)
(おっさんがどーすっか、わかんなかったしな・・・。)
(アイツがただで引き下がるなんて、おかしいねぇ・・・。)
マルセル、ゼフェル、オリヴィエがアンジェリークに気付かれないようにこそこそと話し合います。
(ああ、今回はオスカーは警備に専念すると言ってましたから、だからじゃないですか?)
(陛下の御身の安全を最優先したということか?)
(だと思いますよー。オスカーは軍人ですからねー。)
リュミエール、ジュリアス、ルヴァが話の輪に加わります。
「オスカー様って本当にすごいかただなぁ。俺、もっとオスカー様みたいにならなきゃなー。」
ランディは独りで大きく納得しています。
「・・・みなさま、どうなさったのかな・・・。」
「いろいろあるんでしょうよ。・・・それよりアンジェ。」
守護聖達がひそひそ話に花を咲かせている隙に、ロザリアがアンジェリークの横に陣取りました。
「なあに?」
小首を傾げるアンジェリークの可愛さにロザリアは彼女をむぎゅっと抱きしめたい衝動に駆られましたが、堪えました。宇宙の女王が一般の人の前で品位を損ねる行為をするわけにはいきません。彼らの士気にかかわります。お流石です、女王陛下。
(((((しまった!!)))))
彼らが気がついたときは既に遅く、アンジェリークはロザリアととっても楽しそうに話をしています。女子校ノリに守護聖が入れるはずもなく、
「や〜だ〜。ロザリアってばぁ・・・。」
「うふふふ・・・。」
「おほほほ・・・。」
という会話を、涙をのんで見守るしか術はありませんでした。
(私を甘く見ると、こういうことになるのよ。分かって?)
ロザリアの独り勝ちで、パーティーは幕を下ろしました。
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