「ごちそうさまぁ」
「はぁ、あなたが作るものは何でもおいしいですねぇ。」
「いやぁん、ルヴァさまったらぁ。」
  アンジェリークが恥らいながらルヴァの腕に絡みつくと、ルヴァは瞳を細めながら、嬉しそうに笑う。
「ほんとうの事ですよ。毎朝私はあなたの作るおいしい食事を、おなかいっぱいいただけるんですからねぇ。・・・幸せですねぇ、うんうん。」
「そんな・・・私はただ、ルヴァ様が喜んでくださるから、それだけです。」
  真っ赤になってうつむくアンジェリークに、ルヴァはいとおしさがこみ上げてきて、抱きしめて頬に口づける。
  これは、毎朝繰り広げられるルヴァ邸での光景。 隣にいたはずの執事も、始めは主の豹変振りにうろたえ(なにせあの、のほほんで有名な地の守護聖が・・・ですから)、慌てふためいていたが、今ではもう慣れっこになってしまい、気を利かせてとっくに退散してしまっている。
「ねぇ、ルヴァさまぁ」
  甘えた声でアンジェリークがルヴァを見上げる。
「どうしましたかぁ?」
とは言ったものの、この後彼女が何を言おうとしているか、本当はきちんとルヴァには分かっている。
  そう、何か欲しいものがあるのだ。それも、結構なものを、である。
(今度は何でしょうかねぇ。前は、確か、『二人っきりでラブラブデートがしたいですぅ。』でしたねぇ。いやぁ、あの時は大変でしたからねぇ。『陛下を支える守護聖が聖地を私用で離れるなど!!』と言って怒り狂うジュリアスを説き伏せて、陛下に許可を頂いて、主星で一番ゆったりすごせそうな場所をゼフェルに探してもらって・・・。ですが、良かったですねぇ。アンジェの私服姿の愛らしいことと言ったら・・・。)
  そのときのことを思い出しているルヴァの横でアンジェリークも考えていた。ただ、こちらが考えていたのは、別のことではあったのだが。
(大丈夫かしら?こんなことお願いしても。でもでも、いいよね。もしダメって言われたら、そのときは強硬手段に出ればいいし。)
  アンジェリークがふと我にかえると、ルヴァはまだ考え事の真っ最中だった。
「ルヴァさま、ルヴァさまってば。」
「・・・へ?あ、ああ、何ですかぁ?」
  次の瞬間、ルヴァはアンジェリークの言葉に、あっけに取られた。
「あのね、あのね、アンジェね、・・・おなかすいたの。」
「・・・(唖然)」
  無理もない。なにせ、今、たった今朝ごはんを食べ終えたばっかりなんですから。
「・・・アンジェリーク。あのですね、おかわりが欲しいんでしたら、そんなに・・・」
「ちがうのっっっっ」
  アンジェリークが大きく首を横にぶんぶんと振る。どうやらおかわりが欲しいのではないらしい。
  ルヴァはふーむ、と顎に手をやり、しばらく考えた後、分かったと言う風に手をポンと叩いて、言った。
「・・・ああ、そうですか。デザート、ですね?」
「違いますったら。アンジェそんなに食いしんぼじゃ、ないもん。」
  そういうと、アンジェリークはぷいっとそっぽを向いてしまった。
(違うんです!?・・・じゃあ、何でしょうか・・・うーん、わかりませんねぇ。でも、このままじゃ、アンジェが口を利いてくれませんからねぇ。それだけは避けたいですしねぇ・・・)
  どうやら、ルヴァにとっては、何よりも、アンジェリークが口を利いてくれないことが一番辛いらしい。 アンジェリークが何を望んでいるのか、と本気で考え込んでしまった。
 そんな恋人の様子を横目で見ながら彼女はほくそ笑んだ。
(これならうまくいきそう。・・・よし、ファイトよ、アンジェ)
などと、妙に気合の入るアンジェリーク。
「ルヴァさまったら、聞いてらっしゃる?」
  アンジェリークは、まだ思想の世界に浸っているルヴァの服のすそをつかんで引っ張った。
「・・・え!?」
  どうやら、やっと、我に返ったらしい。
「アンジェは、おなかすいたの。」
  アンジェリークは繰り返す。
「それは、分かりましたよ。ですが、あのですね、アンジェリークは何が食べたいんですか?ご飯じゃあ、ないんでしょう?」
「そ、ですよ。」
「もちろん、デザートでもない。」
「当たり前じゃないですか。・・・んー、でも、デザートといわれれば、デザートかも。」
  そういうとアンジェリークはくすくすと笑う。
「はい?」
  ルヴァにはアンジェリークの言いたいことが、全く分からない。
「うふふ。アンジェの欲しいデザートはぁ・・・。」

  そこまで言うと、アンジェリークはルヴァの太ももの内側に手を伸ばし、いきなり触り始めたではないかっっっっ。恐るべし、女王補佐官。
  あまりに突然の出来事にルヴァは声も出ない。
「ねぇ、いいでしょ?ルヴァさまぁ。」
  言いながら、アンジェリークはさらに瞳を潤ませて、愛する恋人に迫る、迫る。
「・・・あ、あ、あ・・・いいわけないでしょう!!!!いいですか、これから、聖殿に、出仕、しないと、いけないん、ですよ。・・・うっ・・。」
  ルヴァの声が途切れがちになってきている。形のいい眉をかすかにひそめ、必死に耐えているようにも、見える。
  アンジェリークは思った。
(もう一息。)
  ルヴァが大きく息をつく。
(そうよ、そのままよ、ルヴァさまぁ。)
  アンジェリークがルヴァを押し倒そうとした瞬間、いきなりルヴァが立ち上がると、慌てて離れ、彼女に乱された服を整えて、言った。
「ああ、仕事、仕事ですよ。早く行かないと・・・。」
  そういうなり彼女をおいて、すたこらさっさと行ってしまった。

(えっ、うそぉぉぉぉ。)
  アンジェリークはショックのあまりしばらく呆然としていたが、はっと我に返り、慌ててルヴァの後を追った。
  そして思った。
(・・・チッ、しくじったか。まあ、いいわ。一日って長いものね。)
・・・あんた、ホントに、女王補佐官かい?

 

            つぎ