一方、オスカーは、というと 、
 ・・・荒れていた・・・。
 当然だろう。彼も愛しい恋人と2人っきりで過ごしたいが為に、激務につぐ激務をこなしていたのだから。
「独りで過ごす部屋が、こんなに味気ないものだったなんて、な・・・。」
 自嘲気味に呟いた彼の独り言が、夜の帳にかき消されていく。 ボトルをつかんで乱暴に注ぐ 。
  飲み干してはまた注いで、を何度繰り返しただろう、そのあまりのハイペースな飲み方に、側に控えていた執事が恐る恐る彼に話し掛けた。
「オスカー様。その・・・差し出がましいのは十分承知しておりますが・・・あの、そろそろ控えられたほうが・・・。」
「分かってる・・・。」
「・・・オスカー様・・・。」
分かってる、と言ってるんだ!!
 自分では無意識だったため、思ったより大きな声が出てしまったのだろう、オスカーは執事に向かって『すまない。』と軽く謝罪の言葉を告げたきり、黙りこんでしまった。
  そんな主の様子に執事はいたたまれなくなって、逃げるようにその場を後にしたのであった。


  数日後・・・。
「困りましたね・・・。」
「ええ、こっちもかなりきてるんです。オスカー様の仕事は全くといって良いほどはかどっておりません。」
「わたくしどもも、途方にくれておりまして・・・。」
 朝日が差し込むすがすがしい宮殿にはおよそ不釣合いな、深刻な顔をして話をしている二人の男。片方は上品な老紳士、オスカーの館の執事であり、もう片方は精悍な顔つきの若者、オスカーの秘書官である。
「・・・お気持ちは分かります。あの方がどれほど補佐官様を大切に思っていらっしゃるか。・・・ですが・・・。」
  秘書官は大きく溜め息をついて執事の言葉を引き継いだ。
「ええ。しかし、このままあのようなご様子が続きますと、仕事に多大な影響が生じます。これまでは何とかして参りましたが、正直・・・。」
「限界、でございますか・・・。」
 執事も大きく溜め息をつく。
「・・・分かりました。オスカー様の執事として、何とかいたしましょう。」
「本当でございますか?!では、私はオスカー様がすぐにでもお仕事を始めていただけるように、万全の準備を致します。・・・よろしくお願いいたします。」
 秘書官は頭を下げると、大急ぎで執務室へと向かっていった。
「さて・・・。どうしましょうか・・・?」
 執事はとある場所へと足を向けた。
(これは、致し方のないことですから、ね。)
 と、思いながら。


「と、いう訳でございまして・・・。」
  なんとオスカーの執事はオリヴィエの館へとやってきたのだ。
「やっぱり、荒れてんのねぇ。」
「はい・・・。それと召し上がるお酒の量が、あの・・・。」
 自分の主人のことを、いくら同僚であるオリヴィエにであれ、言いづらいのだろう、口ごもる執事。
「何?!酒の量が多いわけ?」
「はい・・・。」
「・・・あの、バカ・・・。そんなことしたら、アンジェが悲しむじゃないのさ。あの子だってオスカーと離れて、我慢してるってのに・・・。」
 口惜しそうにしているオリヴィエ。実は彼もアンジェに好意をもっていたのだが、彼女がオスカーに好意を寄せているうえに、更にあの歩く下半身、オスカーも真剣に彼女を想っていることを知り、相談役に徹することにしていたからである。
「・・・ですから、わたくしどもも補佐官様に余計な心配をかけたくはございません。だからと申し上げましても・・・。」
「分かった。このオリヴィエ様が何とかするから、安心してよね。」
 オリヴィエの言葉に、執事は安心したように微笑み、丁寧に頭を下げて帰っていった 。
「わたくしどもだけで何とかできませんでしたことをお許しください・・・。」
 という、恐縮した一言を残して。

 

まえに            つづく