「オスカー様!!」
「よう、ランディか。」
 虚空の城の麓にある村に着いたオスカーを真っ先に出迎えたのは、彼を敬愛している後輩だった。
「もう、本当に驚いたんですよ、俺。いきなりオスカー様が戻ってしまわれるし・・・。」
「いや、悪かったな。」
「ジュリアス様には『オスカーはどうしたのだ?』とかって聞かれるし。」
 忘れていた・・・。
 忠誠心に厚いジュリアスのことだ。突然隊列を離れたオスカーを叱責するのは当然だろう。
「忘れてらっしゃいましたね・・・。」
 地を這うようなランディの声に、苦笑いするしかないオスカー。
「いや、その、まあ、何だ・・・。」
「俺ひとりじゃどうしようもなかったですけど、オリヴィエ様が口添えしてくださって、ジュリアス様も納得してくださったんです。コレットも『オスカー様が逃げたりなんかしない』って言ったのもあるんですけど。」
「オリヴィエが・・・?」
 腑に落ちないといったオスカーに気付くことなく、ランディは話を続ける。
「オリヴィエ様がおっしゃったんです。『オスカーには戦士のカンがある』って。今までそれにしたがって行動したことで間違いはなかったって、ジュリアス様が納得されたんです。ただ、今日は休憩するとおっしゃってました。『やみくもに突き進んでも勝利は得られないから』って。」
 どこかうれしそうに、でも真剣なランディがオスカーを見上げた。
「俺、上手く言えないんですけど、すごいなって思いました。ジュリアス様とオスカー様の関係って。それをきちんと知っていらしたオリヴィエ様も。」
 そこまで言うとランディは、あっと軽い驚きの声をあげた。
「どうした・・・?」
「いけない。俺、オリヴィエ様からオスカー様にことづてがあったんです。『これが終わったら、ワイン用意しといてよ。』だそうです。・・・俺、行きますね。休める時に休んでおくのが戦いの基本、ですよね?」
 言うだけ言うとランディは走っていってしまった。
「戦いの基本、か・・・。俺も休んでおくか。あいつに心配されるようじゃ剣の稽古をつけてはやれないからな。」
 ひとり呟いたオスカーもランディの後を追って、他の守護聖たちの待つ場所へと向かった。


「ご苦労だったわね、皆さん。」
 全てが終わったときに出迎えてくれたロザリアの側には・・・。いるはずの補佐官アンジェリークの姿はなかった。
「恐れながら、陛下・・・。」
「分かっているわ。アンジェリークのことですわね。」
 ジュリアスの言葉をさえぎったロザリアが発した言葉に、一同は驚きを禁じえなかった。
「あの子は・・・。あの子の受けた傷は、本当はかなり深くて、みんなに心配かけまいとして無理したせいで・・・。今は主星の病院にいます。」
・・・・・・。
 あまりといえばあまりの答えに、その場にいた全員が絶句していた。
「アンジェ様、の、具合は、そんなにおわるいんですか・・・?」
「そういうわけではないわ。ただ、念には念を入れて、というだけよ。」
 だが、誰もその言葉をそのまま信用してはいなかった。聖地にも病院はあるので、そこでだって治療は出来る。主星の病院ということは、アンジェリークの具合はかなり悪いのだとは、誰だってわかることなのだ。
 わかっていながら、ロザリアはあえてそこには触れなかった。
「そういうわけで、パーティーの準備が出来なかったのよ、ごめんなさいね。コレット。」
「い、いえ、そんな・・・。」
 申し訳なさそうに頭を下げる女王に、慌てるコレット。
「パーティーなら、いつでも出来ますし、その・・・。」
 彼女が心配していたのは・・・。
「・・・陛下が心配ないと仰るなら、そのとおりだ。」
 黙っていたオスカーが突然言った。
「アンタ、そういうけどさ・・・。」
「お前は陛下が俺たちに嘘をつかれるとでも思っているのか?オリヴィエ。」
「あるわけないじゃん、そんなこと。」
 オスカーの言葉に、慌ててオリヴィエが否定する。
「じゃあ、アイツが帰ってきたら改めて、っつー事なんだよな?」
「あ、そうでしたー。レイチェルも呼びましょうねー。」
 ゼフェルが確認をとった後のルヴァの言葉に、リュミエールが続けた。
「彼女も大変だったでしょうし、そうですね。コレット、いったんあちらに戻ってはいかがですか?」
「・・・そうですね。レイチェルにも話さなくっちゃ。」
 コレットは本当は補佐官の容態が気になった。自分と同じ名前の、女王補佐官という立場の特別な人。自分と同じように普通の家庭で育ち、同じスモルニィの生徒だった。そんな彼女も今では至高の存在から絶対の信頼を勝ち得ており、なおかつ守護聖全員から慕われる、天使。自分もこういう風になりたいと願っていた。
 ただ、気になったとしても自分がこの地に残ったところで出来ることは何もない。そう判断した彼女は、リュミエールの提案に従ったのである。
「では、落ち着いたら連絡する。・・・案ずる事はない。」
 ジュリアスの言葉にコレットは頷き、自分の宇宙に戻ったのである。

 

まえに        つづく