それは、アンジェリークが補佐官として聖地にとどまり、オスカーと共に暮らすようになって、しばらくしてからのことである。
 

 ことの始まりは、ゼフェルのこんな一言だった。
「なーんか・・・面白くねぇ・・。」
 ここは、女王執務室。
 なぜかここの住人と意気投合したゼフェル(理由は言わずもがな)は、自分専用のミネラルウォーターを飲みながら、ぼそっとつぶやいた。
「アンジェでしょ?僕もなんだかつまんないよ。・・・こんなはずじゃなかったのになぁ・・・。」
 答えたのはマルセル。彼もなぜか自分用のココアを飲んでいる。
「うーん・・・。でも、アンジェが幸せそうだし・・・。」
 コーラの瓶を額の上にのせながら(バランスとって、どーすんじゃぁぁぁ)言ったのは、ランディ。が、しかし 、
「ランディはいいの!!」
 と、マルセルに一喝されて、おとなしくコーラをいっきのみする。
「そうですよねぇ・・・。オスカーばかり、アンジェを独り占めするのは・・・。」
「うむ。平等を重んじる我々守護聖としては・・・。」
「・・・気に入らぬ・・・。」
  それぞれ手には緑茶、エスプレッソ、アイリッシュ・カフェを持っており、これまた同時に、ずずず、っと、すする。
「とは、言ってもさぁ?アンジェってば、オスカーにベタぼれじゃない。下手になんかして、あの子が泣いたりすんのは嫌だからね、アタシは・・・。あ、リュミちゃん、このハーブティ、いい味してる。後でウチに届けてくれない?1ダースでいいわ。」
「分かりました。・・・ああ・・・。あのようなけだものに彼女を渡すなんて、ま・さ・に、言語道断ですが、致し方ないですね・・・。しかし、あの愛らしい笑顔、潤んだ瞳、桜色の唇・・・。本当にアンジェリークは天使のようです。」
「よう、ではなくて、天使ですわ。リュミエール、肝心なところを間違えてはいけなくてよ。」
「そうでしたね。天使のよう、と、天使そのもの、は似ていて異なるものでした。・・・申し訳ありません、陛下。」
  トロピカルフルーツをつまみながら答えるド派手な麗人と、サラダをフォークで突き刺しながら答える、水を司るお方。更に、宇宙を統べる、崇高な存在の女王陛下、である。
「あんな、歩く万年発情期、有害指定人物だ・け・が、わたくしたちのアンジェを独占、というのが・・・。」
「「「「気に入らないんだよねぇぇぇ。」」」」
  ロザリア陛下の後に、皆さん、素晴らしくハモる。(本来こんなしゃべり方をしない者もいるのだが、この際そんなことはどうでもいいらしい。)
と、そこへ、

「なぁんだ。みなさん、こんなところにいらっしゃったの?」
 

  扉が開いて入ってきたのは、うわさの女王補佐官、アンジェリーク。その愛らしい性格でここにいるすべての人物の心をわしづかみにして離さない、金髪の天使、の降臨である。
「あら、アンジェ。どうしたの?」
 言いながら、彼女の手を取り自分の隣へと連れてくる女王様。
「あ、ロザリア。ありがとぉ。」
  とてとてと歩きながら、守護聖たちに向かってアンジェリークは笑う。
                 にこっ。
 この笑顔に全員(女王を含め)がノックダウン。
 更に思うのである。
 (か・・・かわいい・・・。)
「・・・ところで、どうしたの?視察は?」
  そんなことなど全くどうでもいいくせに、ロザリアは平然とアンジェリークに聞き返す。
「うん、終わったの。それでね、ゼフェルを探してたんだけど・・・。」
 言いながら、守護聖たちを振り返る。
「あ。ゼフェルだー。」
 のんきにゼフェルの元へ駆け寄る、補佐官様。
 優越感に浸るゼフェルと、そんな彼をじとぉぉっと見つめる、その他大勢。
(何故、ゼフェルなのですか。わたくしの方があんな子供よりよっぽど・・・。)
(いっつもゼフェル、だよねぇ・・・。ずるいなぁ、僕だって・・・。)
(何故、ゼフェルなのだ?首座の守護聖は私だ。)
  特に彼ら3人の後ろには、見えないブリザード(光水緑製の)が渦巻いている。リュミエールの後ろにはプラス、水竜巻(別名、リュミ竜巻)が沸きあがってくる。
「ゼフェルゥ。」
 しかし、アンジェリークのかわいい声に、あっという間にブリザードはやんだ。水竜巻も収まった。恐るべし、鶴の一声。
「んだよ。つまんねぇことじゃ、ねえだろうなぁ?」
 ぶっきらぼうに答えながらも、心の中では、
(何でもいいけどよぉ。つまんねぇことでも。)
と、思ったりしているのだから、手におえない。
「あのね。オスカー様なんだけど・・・。」
 続いた言葉に、一同、がっくりと肩を落とす。(もちろん、アンジェには分からないように、全員、細心の注意を払うが。)
  しかし、なんでもないかのように尋ねることのできるゼフェルは、比較的冷静なほうだ。後ろを向いて涙をこらえるブリザード組や、はたまた水晶球を取り出して、なにやらつぶやく闇様、なんてことはしょっちゅうだから。
「オスカーがなんかやらかしたのか?プレイボーイ復活、とか・・・?」
 言った瞬間、慌てて口をふさぐゼフェルと、その頭をハリセン(どっから持ってきたのか)で、スパーンとどつくオリヴィエ。
「馬鹿!?あんた、そんなこと言ったら・・・。」
  小声で注意するも、時、既に遅し。 水の麗人が地を這うような声でうめく。
「プレイボーイ・・・。」
 その瞬間、かのお人の背後に、再び水竜巻が巻き上がる。
「違いますよぉ。そんなだったら、アンジェ、別れるもん。」
 アンジェリークには、それが見えていなかったようで(見えていたらたぶん一瞬うろたえるだろう)、のほほんと返事を返す。
  再び収まる水竜巻。
『部屋の中で溺死しなくてよかったぁ・・・。』や、『クリーニング代、たすかったぁ。』や、『きょうの掃除当番、俺だったんだぁ。良かったよ。』など、それぞれ思うところは違うにせよ、リュミ竜巻の犠牲にならずに済んだので、守護聖一同、ほっと胸をなでおろす。
  と同時に、アンジェリークから死角にいたマルセル、ルヴァ、クラヴィスの三人がリュミエールをはたき倒す。(もちろん、ロザリアの指令がとんだから、ではあるが。いいのか?クラヴィス。)

「アンジェね、オスカー様の愛の言葉集、作りたいのぉ。」
  しーん・・・。
 全員、絶句・・・。
「「「あ・・・愛の・・・言葉集????」」」
 ゼフェルとマルセル、オリヴィエの三人が前につんのめり、ジュリアス、ルヴァとランディが後頭部をうった。
 顎の外れかかったロザリアではあったが、さすが女王陛下。親友の爆弾発言にはいささかの免疫があったのだろう、顎を擦りながらも椅子に座りなおし(もちろん椅子はランディが引く)、毅然とした態度ではあるものの、優しく自分の補佐官に話し掛けた。
「愛の言葉集(言ってて恥ずかしいわ・・・。)をつくりたい、というのはわかりました。で、それと、ゼフェルとどういう関係があるのかしら?」
  アンジェリークの話は以下のとおりである。

 

                    つぎ