slowly * slowly




      「──何やってるのよ?」

      ロザリアはへっぴり腰でドアの隙間から外を窺っているライバルの姿を認め、口を開いた。

      ここは女王候補特別寮。彼女達が生活する場所である。

      「あ、あはは…。おはよう、ロザリア」

      ぎくん、と一瞬身体を強ばらせて、そしてゆっくりとアンジェリークが振り返る。

      エントランス脇に置いてある大きな花瓶に活けられた薔薇がその拍子に少し揺れた。

      切ったばかりらしいそれは気品に満ちた芳香を放ち、ドアの隙間から差し込む光に朝露が反射してきらきらと輝いた。

      「誰かいるの?」

      足音を響かせて隣に並ぶと、彼女は困ったように笑う。

      「えーと、その、わかんない。…ロザリア、ちょっと見てくれる?」

      「何なのよ一体?」

      さっぱり、わけがわからない。首を傾げつつ一応外を見てみるが、誰かがいるような感じではない。

      ロザリアがそう告げると彼女は安堵の息を漏らした。

      「さては…あんた、居留守を使ったのでしょう?」

      半眼で睨みつつ、胸の前で腕を組む。

      するとアンジェリークは、ちらりと上目遣いでこちらを見て、それから渋々といった風に頷いた。

      「苦手な方?」

      「ううん。違うの。…ただ、ちょっと今日は、ね」

      曖昧に言葉を濁す彼女の頬が朱に染まる。それを冷静に観察しながら、ロザリアはずばりと言う。

      「ルヴァ様、ね」

      「な、何でっ?!」

      頬だけでなく、耳まで赤くしたアンジェリークは驚愕の表情を浮かべた。

      「何でもなにも。少し考えればすぐ解るわよ。──それで?」

      「それでって…。別に、何も…ないわよ」

      しどろもどろに答える彼女の額を指先で突く。

      「嘘が下手ね」

      「…嘘ってわけじゃ、ないもん。何かあったわけじゃないんだもん。…ただ」

      「ただ?」

      「な、ないしょ」

      「そこまで言っておいて内緒はないでしょう?!気になるじゃない!夜、眠れなくなってしまうかもしれなくってよ?!

      そうしたら試験に支障が生じるでしょう?!そんなわけなのだから、言ってしまいなさい!」

      腰に手を当てて言い放つと、アンジェリークは叱られた子犬のような目でロザリアを見上げた。

      「ロザリアってたまーに無茶苦茶言う…」

      じろりと一睨みすると、彼女は肩を窄める。そして、ぽつりと言った。

      「手、繋いだの」

      「ふぅん。それで?」

      「…それだけ。」

      「………へぇ」

      呆れたようにロザリアがアンジェリークを見遣ると、彼女は頬をふくらませる。

      「だから、何かあったわけじゃないって言ったじゃない〜」

      「でも、それだけだったら、何で避けるのよ?」

      「だって。意識し過ぎちゃって、きっと私、変な態度になっちゃうから」

      両手で顔を覆うと、彼女は息を吐き出した。

      「…もう、自分でもどうしようもないぐらい好きなんだもん」

      「──聞いてるこっちが恥ずかしくなるわ」

      ロザリアは肩をすくめると、ドアに手を掛ける。

      「ほら、行くわよ」

      「あ、うん。…って何処に?」

      「わたくしはオスカー様の所に育成をお願いしに。そして、あんたはルヴァ様の所」

      言って、アンジェリークの手を引き、歩き出す。彼女が狼狽えた声を上げているのを無視して。

      「全く。世話が焼けるんだから」

      ロザリアは呟くと空を見上げた。にやけてしまう顔を誤魔化すように。


end



みずかみあまねさまのサイト『drop of rain』さまのサイトオープン4周年記念で
フリーになっていた創作を頂いて参りました。

初々しいアンジェも可愛いし
ロザリアとのLOVE*LOVEっぷりもたまりません。
拝読して、直ぐに誘拐しました。

素敵な創作を頂けて幸せです♪
あまねさま、ありがとうございました。