Pretty Baby



この日がこなければいいと思っていた。
ほんの些細なこと。
しかし、気になり始めるとどうしようもない。
「おめでとう」と皆は言ってくれるけれど、めでたいと思えない自分がいる。
このまま何年も誕生日なんてこなければいい。
そう思っているのだから・・・。

「お誕生日おめでとうございます。ルヴァさま」

この日をともに祝う為、休暇を取ってくれた恋人は明るい声でそう言った。
今日は二人、ルヴァの私邸で過ごす予定になっている。

「・・・ありがとうございます」

彼女の笑顔につられて微笑を返すが、頬がなんとなく引きつるような感じがする。
今回の誕生日でまた一つ歳を取った。
そんな当たり前のことをと笑うかもしれないが、その事が気になるのには訳がある。
彼女の誕生日まで自分と彼女の年齢差は10才。
9才と一つしか変わらないといえばそれまでだが、なんとなく違う響きに神経が過敏になっている。
最初からわかっていたことだから気にする必要はないのだろうが、日に日に美しくなっていく彼女の姿に一抹の不安を覚えるのだった。
これからどんどん美しくなるであろう彼女。
これからどんどんと老けていく自分。
老けていくというのは大袈裟かもしれないが、元々若々しいという言葉が似合わないと自分でもわかっている。
今から路線変更するわけにも行かず、かと言ってこのままジジくさくなってしまって、彼女に置いていかれるのではないかなどと、具にもつかないようなことを考えてしまっていた。

「ルヴァさま?」

いつの間にか思考の中に沈んでいた。
その姿を不思議そうに見つめる双眸。
気取られてはいけない。
そう思い、咄嗟に席を立った。

「お茶を入れてきますね」

「はい・・・」

真直ぐな瞳で見つめられると、思わず本心がこぼれてしまいそうになる。
こんな情けない思案を彼女に知られるわけにはいかなかった。
でも・・・。
一度回り始めたら、なかなかその思考の洞窟からは抜けられないのがルヴァの欠点。
とことんまで突き詰めて考えてしまう。
答えなどあるはずもないと気付くまでは・・・。

「ルヴァさま?」

お茶を入れるといって出て行ったっきり、一向に戻る気配のないルヴァを探しに、アンジェリークはキッチンまで下りて来ていた。
すぐに声をかけようとしたけれど、いつもと違うルヴァの様子にしばらく傍観することを決めた。
溜息をついては首を振り、また思案顔になると溜息をつく、の繰り返し。
そう言えば、ここ最近何かがおかしかった。
めっきり口数も少なくなり、話し掛けても上の空・・・。
何があったんだろう?
アンジェリークにはルヴァの考えていることが全くわからなかった。
黙って見ていても埒があかないと、声を掛けてみる。

「はい?あ!あっ、あちっ!」

火にかけたままのやかん。
熱くなっているのも気が付かなかったのか、慌てたのか、取っ手を素手で握り、飛び上がる。

「すぐに水で・・・」

駆け寄ると水道の蛇口をひねり、流水にルヴァの指を浸す。
ガスを止め、冷蔵庫から氷を出すとビニール袋にそれらを入れる。

「しばらくそのまま流水で冷やしてくださいね、大丈夫ですか?」

「大丈夫、少し赤くなっている程度です」

「念のために薬を塗りましょうか?お薬は?」

「ああ、私の部屋に・・・もう冷やさなくても、その氷嚢で大丈夫でしょう」

アンジェリークから手渡された俄か氷嚢を指先に当て、自室へ誘う。
冷蔵庫の中にある、誕生日用のご馳走。
いけないと思いつつ、また陥ってしまいそうになる。
とりあえず、誕生日のものからは離れていたかった。


「何を考えていたのですか?」

赤くなった指先に薬を塗りこめながらアンジェリークが尋ねる。
椅子に腰掛けたルヴァの手のひらを人質に、視線を上げる。
力強い瞳の力、嘘は許さないと言っているように見えた。

「いえ、何も・・・たいしたことでは・・・」

それでも白状するのは憚られて、しらを切ってみる。
無言のままじっと見据える碧玉の瞳。
手のひらを握る彼女の力が強くなる。
彼女に嘘をつくことはできないと観念してポツポツと話し始めた。


「そんなことを気にしていたのですか?」

話し終わると半ば呆れ顔で彼女が言った。
そんなこと・・・。
いや、確かにそんなことではあるのだが、自分にとっては結構大問題だったはずなのに、彼女は事も無げにそう言った。

「では、私が少し歳を重ねれば、ルヴァさま気にならなくなりますか?女王陛下にお願いして、私、聖地から離れてみましょうか?聖地と他の惑星では時の流れが違うから、こちらに残るルヴァさまにはほんの数日か数ヶ月だと思います、ルヴァさまに会えないのはとても寂しいですけど、それで悩みが解消されるなら数年くらいなんか我慢できると思います」

「いえ、そんな・・・」

冗談とも思えない彼女の表情。
彼女が目の前からいなくなる!?
今の彼女が!?

「だって、気になるんでしょう?私はぜんぜん気にしてないのに・・・私が好きになったのは今のルヴァさまなのに、今の歳の差、今の二人だからこそ、こういう関係になったんだと思うんです。でも、どうしてもルヴァさまが気になるとおっしゃるなら、私・・・」

決意を帯びた彼女の瞳。
彼女の言葉にはっとする。
歳の差が縮まる。
それは確かにありがたいことだった。
しかし、その間どんどんと美しくなるであろう彼女を見ることができない。
二人一緒の時間を過ごすことができない。
二人の思い出もそこにはない。

何をそんなに気にしていたのだろう。
今の彼女だから、自分は好きになったのだった。
今の自分だから、彼女とこうしていられるのに・・・。
歳の差など関係なく、ただ、お互いを欲した。
何も介在しない、ただ愛しいと言う気持ちだけを信じていたはずだったのに・・・。

「そうでしたね・・・私は大切なことを見失っていたようです。このままずっと側にいてください。あなたと一緒に重ねていく年月でなければ・・・」

ルヴァの言葉に大きく頷くと、アンジェリークはゆっくりとルヴァの腕の中に体を預けた。
首に回されるしなやかな彼女の腕。
ぐいっと腕に力を入れ、顔を引き寄せると微笑んで、彼女は耳元で囁いた。

「でも、そんなことを気にするなんて、やっぱりルヴァさまって、かわいい男性ですね」

かわいい!?
普段言われると、きっと不本意だと思うその一言がなぜだかうれしくて、ぎゅっと彼女を抱きしめると、唇を重ねた。




masanorikoさまのサイト『pinebase』さまのルヴァさまお誕生日企画で
フリー配布されていた創作を誘拐してきました♪

年の差を気にしてしまうルヴァさまが
とっても可愛いです〜。

こんなに素敵なお話をフリーで下さったmasanorikoさまに
感謝感謝です。