逮捕しちゃおっかなっ?
「き〜っ!!くやしいい〜っまた逃げられてしまいましたわっ!!」
今日も極上のシルクのハンカチをキリキリと歯噛みしながら、蒼紫色の縦ロールが乱れるのもお構い無しに口惜しがっているのは、敏腕刑事の名も高いロザリア・デ・カタルヘナ。
「はい、お茶淹れたわよっ・・そんなにカリカリしてたらお肌に良くないわ、・・ねっ?」
同僚の婦人警官アンジェリーク・リモージュは
宥めるようにロザリア好みに淹れた紅茶とシャルロット・ポワールを狙い済ましたようなタイミングですっと差し出す。
少々の事ならこれでなんとか持ち直してくれる。
だが、彼女の癇癪はそんな事位では今回、納まってはくれなかった。
ロザリアの連戦連勝の検挙率に思いっきり“けち”を付け続けている男、その名はルヴァ。
完璧主義の彼女にとって何より許せない事は
“予告状”などと言う警察をコバカにしきった物を被害者宅へ送り付けられて
厳重に警戒態勢を執ったにも係らず、その事如くが裏目に出て、完膚なきまでにしてやられてしまうことだ。
おまけにご丁寧にも名入りの“完了状”まで残していく。その手口の小憎らしいこと!!
・・・という訳である。
狙うのは専ら、憎憎しくは思っていても庶民が、手の出せない私腹を肥やし放題にしている腹黒い官僚や、悪徳高利貸しなどばかりなので、
協力者を募っても効果は残念ながら芳しくない。
この頃は、メディアさえも[怪盗ルヴァ]と面白がって持て囃すものだからますますもって始末に負えない。
「今までだって目撃者だっていないんだもの、
しょうがないわよっ。
それに今度のターゲットだって裏金を沢山貰ってた・・ってうわさの大臣だったんでしょ?
ふふっ、いい気味よ。」
いささか、警察官にあるまじき言葉をしゃらっと言っても、憎まれないところがまぁ・・彼女の得なトコロ。
だが、
「アンジェ〜〜?あの男が、わたくしの輝かしいキャリアに傷を付けてくれた恨みっ!まさか忘れたっていうんじゃないでしょうねぇ〜?」
う〜んと低い不機嫌な声は、『これ以上藪を突付いてごらんなさい!蛇をダース単位で出して差し上げますわよ。』と暗に匂わせていたので、
アンジェは、こっそり一つ溜息をつくとしかたなく曖昧に笑って
「巡回に出掛けてくるね」と署を後にした。
鬱々としたを気を入れ替えるようにう〜んと伸びをすると清々しい空気を胸いっぱいに吸込んだ。
「ああ〜やっぱり外は気持ちがいいわぁ♪
ロザリアには悪いけど・・なんか、カッコ良いいかも♪怪盗ルヴァって・・きゃっvv
焦らなくってもそのうち逢えると思うんだけど・・っていうか、逢えると良いな〜。」
・・・その願いは、意外と早く叶う事になった。
―――――〜〜〜〜―――――
ここは、新たにターゲットになったとある邸宅・・
【今宵、蒼月の刻、ピンク・サファイア〔エンジェル・ハート〕を頂戴に参上致します・・ルヴァ。】
送られた予告状に向ってロザリアが吠える。
「さあ!御覧なさい!
蟻一匹逃せないこの警備を!!
今夜こそっ、ひっ捕まえてさしあげますわ!」
余程自信があるのだろう、みなぎる闘志はそのままオーラとなって見る者を寄せ付けない効果を存分に発揮している。
「アンジェ、今日こそはあの生意気な男に手錠を嵌める瞬間を見せて上げますわ。
いいこと?非番だからなどと言ってここを抜け出す事は許しませんわよっ?」
『そもそも、非番なんだからココに来てロザリアに付き合う必要が無いんじゃないの?』
と言い返したかったけれどこんなに燃え上がっている彼女にそんな無謀な事を言うのは、はっきりきっぱり命取りなのは解り切っているので言うにいえない。
んもう!私だって非番の時には、やりたい事が一杯あるんだからね〜っ、
・・隙を見て抜け出そっと・・・。
コッソリ決心するアンジェなのだった。
そして、だんだんと予告の刻限が迫ってきた・・
緊張感が辺りに漂い始めた頃、
アンジェが見回りに出ると言い出した(勿論、そのまま抜け出す魂胆なのだ)
「とうとう、アンタもルヴァを捕まえる気になったのねっ、しっかり見回りをするのよ!」
ロザリアは、ぺったりとターゲットに張り付きながら、やる気を見せたアンジェに大喜びで許可を出した。
〜〜〜*******〜〜〜
「ふう〜、いちおー見回りはしたからもういーよね?・・・さ〜帰ろっと♪」
キョロキョロと辺りを見廻す。
さすがにココまでくれば警備も手薄になってきている。
人影もないことだし・・
―――ごめんねっロザリア、この埋め合わせはまた今度するからね。―――
心の中で手を合わせてアンジェは、とんずらを決めこむ事にした。
「でも、怪盗ルヴァってどんな人なんだろうな〜?
きっと、知的な瞳をしたカッコイイヒトだと思うのよねvv」
ひとりごちたアンジェの声に応えがあったのはその時。
「お褒め頂いて光栄ですよー、アンジェリーク・リモージュ。」
「誰っ?!」
声のした方を見上げれば、屋根の上には
蒼く冴え冴えとした月の光を背に受けてくっきりと切り取られた漆黒のシルエット。
そして、まるで羽でも背に生やしているかのように軽やかに空を切ると、とん。
とアンジェの直ぐそばに着地した。
「こんばんわ。私はルヴァ。貴女方がやっきになって捜している者ですよ。」
「こんばんわ。えっと、どうして私をご存知なんですか?」
こんばんわと言われてつい挨拶を返しちゃうあたり、ロザリアがここにいなくて正解だったかもしれない・・(汗)
「まあ、一応貴女も私の仕事に係りのある人ですからねー。ふふふ・・業務上の必須な基礎知識ってところでしょうかねぇ。」
「どうしてここに?」
「帰り道でふと出逢った月の光に煌めく貴女の瞳に誘われて・・とでも言っておきましょうか。」
「帰り道?じゃあもう盗っちゃったの?」
「ええまあ、そーいうことになりますねぇ。」
まるで、『お散歩の途中です』ってな感じで話し掛けられて・・あんまりそれが自然なようすだったからうっかりこっちも乗せられてしまったけれど、このヒトってば、そうよ!犯罪者だったんだっだわ。
逮捕しなくっちゃ!!(今更・・でしょうけど(笑))
「本当に?」
「ええ、済みました。」
「じゃぁ証拠に見せてくれないかしら?」
にっこり、笑って無邪気におねだりなんかしてみせる・・このヒトに通じればいいんだけど。・・無理・・だよね・・普通。(汗)
ところが、解っているんだか居ないんだか・・
ルヴァもにっこり頷くとあっさり懐から例の物を取り出したのだ。
「はい。コレが証拠ですよ、信じて頂けましたかー?」
カシャン!
差し出された手に手錠を嵌めたのはその時。
のほほんが売りのアンジェだって、一応婦警さん。
――やったわ!!私が捕まえちゃったのよっ、!!――
頬が薄く上気して、キラキラと瞳が輝いたりしている・・世間を騒がす怪盗を捕まえて嬉しくない訳がない。
それなのに捕まったルヴァの方は、そんなアンジェをニコニコしながら見ていて、いたって平気そうだったりする。
「ああーこれは困りましたねー」
ちっとも実感が篭っていない・・まるで、わざと捕まったような言い方だ。
アンジェが何だかちょっとムカっとしたのもしょうがない。
「さあ、逃げられないでしょ?甘く見ないでよねっ、観念してくれなくっちゃいけないわ。」
「それは、どうでしょうか?」
くすりと笑った顔がまたアンジェの勘に障る
「むう〜、こっちには手錠だってあるのよ!どんなテがあるっていうの!」
ムカムカ・・段々と苛立っていく表情をとても楽しそうに見詰めているルヴァ。
く〜っ!!ますます面白くないっ!!
「ええと、こんなテが、ありますよ」
極上の笑みを浮かべて、言うが早いかグイッと繋がった手を思い切り引いた。
当然体勢が崩れたアンジェがふらついたところを流れるような仕種でルヴァに抱きしめられ・・唇を奪われた。
・・これが、ただの『ご挨拶』程度なら、アンジェだって引っ叩くなり、大声をあげるなり、適当な対処のしようがあったのだ。
だが・・ルヴァのKissは、そんな可愛いもんじゃなかった・・完全に恋人同士で交されるべきソレ。
しかも、アンジェが、惚けてしまう程、永かった。
唇が離されると同時にスルリと手も鎖から抜ける。
念のため、アンジェの目の前で軽く振ってみせるが完全にイッてるようで、何の反応もなかった。
「ちょっと、貴女には刺激が強すぎたようですねー。
でも、貴女は私のハートを盗ってしまったんですから・・、これはおあいこなんですよー。」
そして、クスリと笑って戦利品の宝石をそっとアンジェの手の平に乗せると今度は額に軽く唇を押し付けた。
「今日は、こんな物より素敵なものを頂きましたから・・これはお返ししますね・・
貴女だけが私を捕まえられますから。
忘れないで・・・追い掛けて下さいね。
また、お逢いしましょう・・・私の天使・・・。」
鮮やかに身を翻す姿を見ていたのは月光のみ。
道にぺたりんと座ったままで、アンジェは惚けていた。
心配になって探し回っていたロザリアに発見されるまで・・
「此処にいたのねアンジェ。心配したのよ、まったくもう・・しょうのない子ねぇ」
見つかったんだから良しとしましょうか・・
さあ、行くわよ・・とアンジェの肩を叩いた瞬間、しっかりと握られていた訳ではないのでコロリとピンク・サファイアが転がり出た。
「・・まあっ!!・・それはっ、エンジェル・ハート?!一体どうしたの??」
「はぇ・・?」
ロザリアに乱暴に揺さ振られて段々意識が戻ってきたアンジェが一等最初にした事。
「人非人(ひとでなし)〜!!私のファーストだったのに〜っ!!返せ〜っ!!ぜっとぉわいっつっかまえてやるうううう〜〜〜っ(絶対捕まえてやる)!!!」
アンジェから噴出されているのは、ゴウゴウと燃え盛る音さえ聞けそうなオーラ。
ロザリアのオーラがキャンプファイヤーだとすると、こっちはたぶん山火事かもしれない・・(笑)
・・・・・かくして、
世にもはた迷惑な恋の追いかけっこはその火蓋を切って落とされたのだった♪♪
FIN

キリバンを踏んでくれたまちこです。さまにヘボ絵を差し上げたのですが
その絵に『なにか文をつけてください〜』というわたしのワガママを
太っ腹なまちこです。さまが快く聞いて下さり、こんなに素敵なお話を書いてくれました!!!
あのヘボ絵から生まれたとは思えない素敵ッぷり、どうですか〜!!!
読んだ瞬間からもう、もうモエモエですよっ!!
期待を遥かに超えた素敵な作品をありがとうございますっ!!
感謝してもしきれません!
それにしてもワガママはいってみるものですね〜。うふふ。
