はたと気がついたら俺は見たこともないような馬鹿デカい蛇の背に乗って、血塗れの剣を抱えてぼんやりとたちつくしていた。
 俺の足下では、何度か見たことのある一匹の悪魔が血溜まりの中に突っ伏している。もう息をしていないことはわかっていた。
 俺が殺したから。


『上天の光』


 深々とため息をつくと、とたんにぐわんぐわんと激しい頭痛に襲われた。たまりかねて頭を抱えた拍子に、握りしめた手のひらからずるりと剣が滑り落ちた。
 視界の隅をかすめた柄の紋様に見覚えがあるような気がして、転げ落ちていくそれを追いかけようと首をめぐらせた。途端にぐにゃりとたわむその視線の先で、俺は先に答えを見つけてしまった。
 少し離れた場所で、仰向けに倒れたまま動かないもうひとつの死体。俺が握り締めていた剣の、本来の持ち主。
 ああそうか、と理解の色が瞬間脳裏を横切り、ふらふらとおぼつかない足取りでもう一つの死体に近寄った。
 思ったとおり、それはエスカデの変わり果てた姿だった。あれほど激しい色を見せていたはずの双眸は瞼の裏に隠され、その顔はどこか穏やかですらあった。彼が最後に残したはずの言葉を思い出そうとして、ようやく俺は気付いた。

「……なんで俺、ここにいるんだっけ……」

 死体がふたつ。俺が殺したアーウィンとかいう悪魔と、エスカデ。そこまではなんとか理解した。だが問題はその前だ。
 何故奴を殺さねばならなかったのだろう。何故こんなデカイ蛇に乗っているんだ。何故……

「……ギル?」

 聞き覚えのある声が混乱し始めた思考を遮る。巨大な蛇の背中には、ところどころ柱のような突起が規則的に生えていて、声は、その柱の影からのようだった。瑠璃だ。
 ああ、よかった。俺、どうしてこんなことになってるのか、全然思い出せないんだ……
 瑠璃の立っている方へ歩き出そうとしたとき、ビクリと瑠璃の身体が僅かに震えて、2、3歩たたらを踏んだ。
 まるで何かを恐れるように。
 どうしたんだ、と声をかけようとして、ぶり返した頭痛に吐き気がする。この感覚には覚えがある。以前にも、似たようなことがあった。

「あー、やっぱ深酒はいかんな……」

 ここにきてようやく、記憶が途切れる前に、ニキータが持ち込んだシュタインベルガー、とかいう祭事用のお神酒を、少々……というか正直浴びるほど飲んだことを思い出した。先程から間断なく襲い来る頭痛と吐き気の原因は、間違いなくそれだ。

「……ていうかいまの今まで酔っ払っとったんかオマエは!!?」

 何故か、瑠璃が愕然と叫んだ。


END
2004/02/28