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はじめて人をあやめたのは、いくつのときだっただろう。 自分は騎士を目指していたのだし、長く戦争の続いたあの時代、人の命などそれこそ毎日のように消えていた。 それでも、みずからの手で他者の命を奪うことは、決して拭えぬ記憶となって彼の心に染みついていった。 そして。 数えることも億劫なほどに長い時は過ぎ、すべては遠くあいまいなものになっていった。けれど鮮烈なあの色だけはいまも、くっきりとまぶたの裏へこびりついている。 あの、強烈な、赤色。 「……そりゃまた随分な言い訳ね?」 生涯ただ一度だけ愛した女は、そういってケラケラと笑った。 「で・も!だからってこのわたしが精魂込めて作った愛情料理を無下にする気ィ?」 そうしてひとしきり笑ったあとは、形のよい眉を片方跳ね上げて見せた。 『赤いもの』
目の前の皿にでんと置かれたその物体と、にらめっこすること数十分。少年の根気は、もはやつきかけて久しい。 「……なー、せんせー」 「ロイド。好き嫌いするんじゃありません」 「ロイド、がんばれ!」 「いや、がんばれったって……」 もう勘弁してくれとばかりに弱りきった顔で、少年の視線は目の前の皿と、真正面に座って鋭い視線を投げ掛ける教師と、妙に楽しげに応援(?)する神子との間を彷徨うばかり。卓の上に置かれた右手は鉛のように重く、持ち上げることすら億劫なのだろう。 「もう、ロイド!そのくらいちゃっちゃと食べちゃってよ。ロイドのだけ、少なめにしてあるんだよ?」 「……これでか?」 食事当番を担当した教師の弟が、まるで年下に言い聞かせるような口調で言う。確かに彼の言うとおり、少年の皿に乗せられた「それ」は、他のものの皿に乗せられているものよりやや少ない。といっても、三切れが二切れになっているだけの違いなのだが。 たったひときれを飲み込むことすらつらいこともある。鳶色の髪の傭兵は、長くたれた前髪の奥からその光景を眺め―――ひそやかに場を離れた。 「あれー?」 神子ののんびりとした声が上がる。 「クラトスさんも、トマト残してますー」 うわあっさりバレた。 胸中の驚愕と悔恨をかみ締めてしかし、傭兵は動揺のかけらも見せず、すみやかに姿を消した。 「あ、ほんとだ……って逃げたー!?」 「ずりーぞ!俺だって逃げちゃるー!!」 「あっ!こらロイドー!待ちなさい!!」 「よーするに、ただ単に嫌いなだけでしょーが」 今ではただ彼の記憶の中にのみ住む女が、軽くこめかみを押さえながら「ホント子供なんだから」と呟いていたのを思い出す。 背後ではじまった騒々しい会話を聞き流しながら、傭兵はひとり胸中でごちた。 やっぱり、嫌いなものは嫌いだ。
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