『神の両手』


「ロイド君は、神様って信じますかぁ〜?」

 マーテル教会の聖堂。天井のステンドグラスからは、やわらかな午後のひかりが舞っている。
 最奥に置かれた女神像と、それに向き合い整然と並ぶ長椅子にだらしなくもたれこんで、ゼロスはからかうような問いを投げる。

「神様はいるよ」

 両手を差し伸べる女神像を見上げたまま、ロイドはあっさりと即答した。その答えに、ゼロスは思わず呆然と少年の背中をみつめた。

「……なーんて、コレットなら言いそうだけどな」

 しかし振り返った彼の顔には苦笑が浮かんでいて、確かにあの少女ならばそう答えるだろうとつられて苦い笑みを零す。

「で?ハニーはどうなのよ」
「神様、か?そうだな……」

 そうして少年は、もう一度女神を模したとされる石像を見上げる。この世界に広く流布しているマーテル教の女神。だがそれは、人工的に祀り上げられた偽りの神であることを、彼は知っているはずだった。
 だからこそ問うてみたくなったのだ。神を、信じるのかと。


 ―――あの時、彼が何と答えたのか、それに自分が何と返したのか。
 そんなことを今になって、必死に思い出そうと足掻いている。
 ―――今となってはもう、遅いのに。


「コレットちゃんな……ここの地下に、連れてかれたはずだぜ」
「ゼロス…!」

 だから早く行ってやんな、と言葉をつむいだ瞬間、ごぼりと鮮血が喉をふさいだ。馬鹿野郎、と涙混じりの声がすぐ近くでして、笑いかけようとした口元はただかすかに歪んだだけだった。



 もうどれだけ腕を伸ばしても、差し伸べる手に届かない。


END
2004/01/22