その洞窟を見つけたのはまったくの偶然のことだった。
 その日、にわかにあつく垂れ込める雲が増えたかと思うと、すぐに大粒の激しい雨が地表を叩いた。世界再生の任を負う一行は、急な雨に見舞われて、一時の宿りを求めて小さな洞穴に辿りついた。
 周囲の地形に紛れるようにして空いた空洞の入り口は小さく、天井は屈んで歩かねばならぬほど低かった。横幅は人一人通るのが精一杯で、いくら雨宿りのための一時しのぎをするだけと言っても、やはり少々窮屈だった。
 仕方なく、彼等はもう少し奥へ進んでみることにした。多少でもくつろげるような広い空間があればよし、ないならないで諦めるものとして、明かりを手に暗闇の奥へと歩き始めた。
 暫く進むと、圧迫感をもたらす低い天井は、一行の中で一番上背のある傭兵が手を伸ばしても届かぬほどに高くなった。それにつれて通路の幅も広がり、大人数人が余裕で並んで歩けるほどになっていった。このあたりまでくると、通路の壁や床には、あきらかに人の手によって岩を削って平らにならされた跡が見られるようになり、遺跡マニアの教師の目が妖しく輝き始めていた。

 また先生の悪い癖が出たかと、教え子たちは諦め半分、呆れ半分で、それぞれにため息をつく。一休みするだけならそれなりの広さがあるのだし、これ以上先に進む必要もないが、さて彼女がこうなってしまっては、自分たちが何を言っても聞き入れはしないだろう。
 腰につるした双剣の柄に手を置いて、少年は振り向いた。一行のしんがりを務めていた傭兵は、暗い色の双眸をじっと教師に注いでいる。遺跡モードにシフトした教師に呆れてでもいるのだろうか。だが、今のところ当初の目的を綺麗さっぱり忘れきっているだろう彼女をたしなめられるのは、間違いなく彼だけだろう。まあそれも、自分たちが言うよりは多少まし、といった程度のものでしかないのだが。
 声をかけようとしてふと、彼の視線の先が気になった。その瞳が写しているものは、通路に遺された痕跡を、異様に楽しそうな笑顔を浮かべて仔細に調べ始めた教師の横顔では、なかった。

 傭兵の胸にあったのは、ひたひたとその内を埋めていく暗い予感だった。恐らくそれがあまり大きく外れてもいまいと、彼は確信していた。わけもなく。

 案の定、教師はさらに奥を調べようと強硬に言い張った。それは提案というよりもきっぱりと命令に等しかったのだが、教え子の少年たちにとって意外だったのは、反対するだろうと思われた傭兵があっさりとその案…もとい命令を受け入れたことだった。
 驚く彼等を尻目に早速暗闇の奥へ向かう教師の後を追おうとしかけて、彼女の弟は背後の傭兵を見やった。世界再生を目指す旅の妨げになるような行動を、彼が容認したのがどうにも納得いかなかったのだ。
 銀髪エルフの少年の視線を受けても、傭兵はいつもの無表情を崩さなかった。エルフはすぐに姉の名を呼び駆けていったので、その瞳が複雑な色に揺れていることまでは気付かなかった。


 洞窟の終着駅に到るには、そこからかなりの時間を要した。




next