気がついたら、もう捕われていた。 日増しに強くなってゆく好奇心に、形をなしてゆく憧憬。 いつか、この小さな『王国』と飛び出してやろうと。 ずっと、胸に抱いていた。 ● The power of Fright. ●
「ここなら、歌ってもいいんだって」 聞こえてきた彼女の声は、私には少し哀しそうに聞こえた。 私が、草で出来た巨大な鳥篭を後にしたのは、まだ日が暮れる少し前のことだった。 それでも、私がいつも旅のベースに使っている町へ着く頃には、太陽は西の大地に消えて、 月がビロードの空を登り始めていた。 まだ凍える季節ではなかったけれど、ふいに開けた窓から吹き込んできた夜風が思ったよりも冷たくて、 私はくたびれたマントを身体に巻き付けた。 「ねぇ、ファーヴニル」 私は、部屋の片隅で蹲っている、蒼い飛竜に話し掛けた。 「もし初めから空を知らなかったなら、空を飛ぼうとは思わなかったのかな」 飛竜――ファーヴニルは、何を言っているのか判らない、と言ったように首を傾げた。 私は腕を伸ばし、ファーヴニルを抱き上げた。 翼を畳んだその体躯は、成体となったそれより随分と小さいものだけれど、私の腕にはずしりと重たい。 「私が空を飛ぼうとしたら、アナタは私を笑う?」 ファーヴニルは反応しない。首を翼の間に埋め、うとうとと船を漕いでいる。 人が真剣に悩んでいるのにね。 余分に用意してもらった毛布の上に、眠りの国へ飛び立とうとしている小さな飛竜を横たえる。 その寝顔は本当に穏やかなもので、まるで愁いとは無縁に思えてしまう。 「私、ね、ファーヴニル」 聞いていないとは判っているけど。聞いても、応えてくれないと判っているけれど。 「旅に出なければ、私はずっとあの小さな世界しか知らなかった。 前はそれで当たり前だと思っていたのに、 今は旅をしている自分の方がずっと当たり前のような気がするの」 飛竜の背を撫でる。硬質な輝きを持つウロコは冷たいと思っていたけれど、触ってみると結構温かい。 「だから、今なら言えるわ。この世界を知らなくても、きっと私はこの世界に恋焦がれていた」  ベッドに腰掛けて、窓の向こうの空を仰ぐ。  たったそれだけでも、自然と笑みが浮かんでくる。  私の家のベッドからは、窓の外を見ることが出来ないから。  私は、この世界にいるのだと実感出来て。 「明日、もう一度行ってみたいの」  植物で固められた、静謐な鳥篭へ。  その中で、命の歌を紡ぐ人のことを思う。  鳥篭の中で、何を思っているの? どうして、この広い空を諦めてしまったの?  本当に、この世界を捨ててしまったの?  この世界は、こんなにも色彩で溢れているのに。  だから、訊きたい。アナタの気持ち。何者にも縛られない、アナタの本当の想いを。  そして。 「お友達になれたらいいよね。きっと、もっと楽しくなるわ」  手を伸ばして、棚に置かれたランプを消す。  一つ。二つ。  部屋は、闇に包まれる。 「おやすみなさい」  もうとっくに眠ったと思っていたファーヴニルのしっぽが、一度、ぽたりと動いた。
始まりは、ほんの少しの好奇心。 外へ向かいだした気持ちは、いつしか大きな翼になって。 だから、私たちは飛んでゆける。 そのための力は、もう『ここ』にあるから。
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