| プロローグ |
|
警察が最後まで言い終わらないうちに、俺は受話器を投げ出して家を飛び出していた。 コートも着ずに外へ出たから、寒くて上手く身体が動かなかったが、 そんなことは大した問題では無い。 ただ走る。学校へ向かって、道順もメチャクチャに。 校庭に何人もの人が集まっていて、何度か呼び止められたが、 全部無視して屋上へ向かう。 一階から四階まで一気に階段を駆け上がったため、 屋上の扉の前につく頃には呼吸なんてろくに出来なくなっていた。 扉に手をかけたが、それを引くのに躊躇してしまう。 この向こうで、彼は俺を待っている。 ……待っているのだろうか。すでにもう、足を踏み出してしまったのではないか。 いや、大丈夫だ。そんなことは無い。 警察は、彼が俺に会いたいと言っていると受話器の向こうで言っていた。 なら、まだここにいるはずだ。 少なくとも俺がこの扉を開けるまでは、彼はここに。この世界に。 そばにいる警察官が、真剣に何かを話している。 自殺志願者への対応と接し方。どうでもいい。そんな言葉ではきっと彼とは話せないだろう。 ドアノブにかけた手に力を込める。 深呼吸しようとして、一度盛大にむせ込んで目じりに涙が滲んだが、構わずに扉を押した。 冷たい風に全身が晒され、思わず細めた視界の中心に、白いコートの裾が舞う。 金網の向こう、今足をつけているコンクリートと、空との境界に、彼は立っていた。 「兄さん」 自分の喉から出た声を他人のもののように遠くで、俺は聞いた。 |
| <<名簿 TOP |