初めての敗北

「尼さん。オラもうこれ以上は進めねぇよ。」
「弱音をはかないの。あなたの案内がなければ玄室までいけないのよ。」
「したども。オラ冒険者でもなんでもねえし。一回戻って州都に伺いを出して…」
「爺さんしっかりしろ。今日中にあの化け物やっつけねば、こんどは人死が出るぞ。」
「したども、人死がでても、ほれ、ここに尼さんもおるし…」
「バカなことは言わないの。次の犠牲者はあなたの家族かもしれないのよ。」
「わかったよ。玄室までは案内しますから。そこからはオラは許してくれろ。な。」

 この山間の小さな村に吸血鬼がでたのは2週間ほど前のことだという。
 血を吸われた人は10数人に登る。衰弱が激しく昏睡状態に陥ったものも数人。
 私は、パーティーの解散を期に一人で行く当てもなく旅をしていたのだが、偶然この村を通りかかり、調査を依頼された。
 こんな山奥だが、昔はある寺院があってかなりにぎわっていたらしい。その名残で、大きな地下墓地もいくつかある。
 さっきから泣き言を言っているのはその墓地のひとつの管理人トム爺さん。
 実は責任者が留守の時に届いた赤い棺を、依頼のとおり奥の玄室にしまったというのだ。
 被害が出たのがその日の夜から、絶対にこの棺はあやしい。
 正直に言い出したのは感心だが、恐怖のあまり(まあ、普通は怖いだろう。吸血鬼だものね)腰が引けまくっている。

「とにかく、この中は入り組んでいて、爺様がいなけりゃ話にならんのだ。頼むよ。」

 この若い男はきこりのペーター。
 彼の二人の子供は、今回の事件の犠牲者で、二人とも重態だ。
 今回の話を聞き助っ人を買って出てくれたのはありがたいが…一応斧に魔発はかけてもらったとはいえ、いざとなったら逃げるようには言ってある。
 今回は調査だけだし。下手に手を出すのはよくない。
 そして…

「ここがそうですから。ここにオラが、赤い棺を入れました。間違いねえ…ですから。」
「行くわよ。」

 玄室の扉が開く。日はまだ高いはず。闇の貴族は活動できない時間…

「ひぃぃ。オラもうだめだ、許してくれろぉ」
「あ、こら。爺様」
「待って!トム爺さん!」

 トム爺さんは暗がりの中走って逃げていってしまった。

「あの爺ぃ」
「いいわ、ペーター。夜行キノコを撒いてきたから、帰り道の目安はつく。それより、確認だけしちゃいましょう。」
「そうだな…あっ」
「どうしたの。」
「トネリコの杭がない。爺様の袋の中だ!」
「…いいわ、確認だけなら杭はいらない。明かりを持っているあなたがいなくなるんじゃなくてよかったわ。」
「杭を打っ立ててやりゃ解決するのに…」
「罪のない死体を無闇に辱めることはできないわ。まずは確認よ、それから杭を取りに行っても十分間に合うわ。」
「…わかったよ。」

 私たちは玄室に足を踏み入れた。
 目的の赤い棺は奥の床に無造作に置いてある。

「あれね。」

 私たちがその棺に近づいたその時

「な、なんだ。」

 棺のふたが独りでに開き始めた。

「ペーター、逃げなさい。」
「奴か、そうなんだな」
「ふっふっふっふ」

 感にさわる笑い声が響いたあと、

   "餓断ッ!"

 棺の蓋が落ち、そこに

「奴かとはまた失敬な。下郎が」

 青白い顔、赤い目、きれいな金髪の若い男がそこに立っていた。
 色は悪いが線の細いハンサムな男だ、ただ、牙が出ている…
 私は、聖シンボルを握りしめた。

「おまえが、ショコラとガム坊を襲ったんだな!」

 ペーターの問いに奴は答えようともしない。

「どうなんだ!」
「うるさいな、おまえは、」
「俺のショコラと…」
「おまえは、バカだな。」
「なに?」
「おまえが昨日食べたウサギ。ウサギの世界では名前があったのかもしれんぞ。おまえはその名前を知っているかね?」
「なにを…てめぇ」
「ペーター!」

 私が止めるまもなくペーターはその男に突進する。しかし、闇の貴族の力は大きい。ペーターは貴族に触れる事もできずに吹き飛ぶ。玄室の壁まで吹き飛ばされて、彼は動かなくなった、松明の火が消える。私の持つカンテラだけでは辺りは薄暗い。
「ふっふっふっふ。ようやく二人きりになれましたな、シスター」
「あなたは、闇の貴族といわれる者ね」
「これはシスター。口は悪いが質問の仕方は知っているようだな。いかにも。私は闇の貴族と呼ばれるものだよ」
「この数日間、村人を襲ったのはあなたね」
「そのとおり、闇の貴族は嘘はつかないよ。それは私の快挙だ。」
「闇の貴族が何でこんな時間に活動できるの!」
「不眠症なんだよ」

 奴の癇に障る笑い声がまた響く。

「なぜ、無差別に村人を襲ったの?あなたがたの吸血行動は本来、愛の証であったはず…」
「だまれっ!」

 奴が声を荒げる。

「愛の証?人間をかね?ばかばかしい。どうして私たち闇の貴族が、おまえら虫けらを愛さねばならんのだ?ああ?あ、いや待てよ?…ふぅん。シスター。愛でるというならそうかも知れぬな、これを見るがいい。」

 奴はマントを広げた。
 そこに並んでいたものは…

「きれいだろう。これなどどうだ、この赤い爪。山岳部にすむジプシーの踊り子のものだよ。こっちはルシアールの小さな町で評判だった針子だ。この大きな指輪は…そうそうハランの魔法戦士のものだよ。なかなか手ごわかったので敬意を表して…」

 手、手、手、手、手。
 肘のあたりから斬り取られた人間の腕、腕、腕。

「やめなさい!」
「まあそういうなシスター。君たちの世界でもちょっとした領主の家に行けば鹿の頭の一つや二つ飾ってあるだろう。あれと同じことだよ。
 この村にはあまりいい獲物はいなかったが、ちょうどいい、美しいシスター。君を私のコレクションに加えることにしよう。」

 いつのまにか奴は棺から降り立つと、すべるように私に近づいてきた。

「止まりなさい!」

 私はホーリーシンボルを掲げた。

「ぬっ。卑怯者め、おまえ達はいつもそうだ。」
「わが信仰の名において命じる、それより近づいてはなりません。」
「自分の力では戦わずに、神の力とやらにすがりおる。」
「ペーター。ペェータァー。」
「どうかなぁ、もう死んでいるのではないかな。」
「貴様、どういうつもりだ!」
「ん?何がだね、シスター」
「その…腕…」
「もう答えは出ている気がするのだが、それにも気がつかないほど愚かなのかな、あなたは。」

 闇の貴族と呼ばれる吸血鬼たちは、基本的には不死だ。ものを食べる必要はない。餓えて死ぬことはないからだ。
 彼らの吸血は食事ではない。己が好意を持ったものの血を吸わずにはいられないというその性から来る。
 しかし、こいつは…狩でもするかのようだ。いや、これは楽しい狩なのだろう。
 しかも…

「君達だって美しい毛並みの動物や、自分をてこずらせた獲物をトロフィーにしているじゃないか?同じことだよ。」
「だったらあなたも、死に物狂いの獲物に逆に襲われるってこともあるわよね。」
「もちろん。だからこそのトロフィーなのだよ。さっきの魔法戦士などは、よい…」
「…ウ、ウゥ…」
ペーターは少しうめき声を上げる。よかった死んではいないようだ。
「ペーター、大丈夫」
「…」
「ふっふっふ、生きてはいるが、意識は戻らないようだね。どうするかね、シスター。このまま彼の意識が戻るのを待つかね。そうして彼に杭を取りにいってもらえば、あなた方の勝ちだ。
 だが、どうかな?…その男の意識はいつ戻るだろう?杭を取りにいったあとでここに戻ってきてくれるかな?保障はあるかね?
 それよりも大切なことがある。真夜中になれば、ほんの僅かだか、神のシンボルもきかない時間があるのだよ。ほんの短い時間なのだが、あなたに近づいてその血を吸うくらいのことは十分にできる。」

 それは私も聞いたことがある。真夜中のほんの一時、ある種の貴族達には神の力が及ばないということを。

「私としてはそれを待っていてもいいのだが…どうだろう、ここで一つゲームでもしてみようじゃないか。」

 パチン。奴の指が鳴る。その時、私のカンテラが消えた。

「あっ。」

 辺りは一面の闇。

「私は光がなくてもものを見ることができるが、君にはできまい。そこで…」

 奴の指がもう一度鳴る。
 闇の中に奴と私の体が夜光虫のように浮かび上がった。

「とりあえずあなたにも見えるように、二人の力関係を光にしてみたよ。
 面白いだろう、今はあなたのほうが勝っているから、あなたの光が強い。」

 確かに、私から発せられる光のほうが、奴よりはやや明るい。

「せっかく真っ暗にしたって言うのに、自分から光ったんじゃあなたの場所は丸わかりよ。」
「そうだね。だが、話を聞きたまえ。
 私の言いたいことはただ一つ。どうして君達と神のシンボルが違う砂漠の民や草原の騎馬民族は、私の同朋に襲われないのだろう?」
「?」
「あるいはこうも言える、君の持つシンボルは正確には十字架ではないね。」

 そう、私の持つシンボルはケルトクロス、正確にはジューダス教の十字架ではない。

「それが?」
「愛しい人よ、おかしいと思ったことはないかい?私たちは何が怖いのだろう?十字架かね?君の持つその丸いシンボルかね?アンクが私たちに効き目のあることくらい知っているだろう?
 神のシンボルそのものが怖いのだろうか。だとしたら神のシンボルを持たない草原の民などは私たちに最後の一人まで血を吸われて今ごろは滅びていると思わないかね。」
「そ、それは…」
「可能性はいくつかあるだろう。私たちはそんなに長い距離を移動することができない、とかね。
 また、こういうことも考えられる。私たちが血を吸うのは誰でもよいわけではないのだ、砂漠や草原の民、または氷と雪の国や密林の人々の血は体に合わない…あるいはそういう気候の場所では吸血できないのかもしれない。
 しかし、それらはみんな正しくはない。ではなぜか?白状しようじゃないか。
 私たちは神のシンボルが怖いのではない、それをもつおまえ達人間の信仰心そのものが怖いのだ。何かを頑なに信じるというその意志の力には私達は逆らうことができないだけなのだ…と。彼の地の人々は、純朴なだけに信仰心が厚い。だから、私たちは近づけないのだよ。
 さて、シスター。ここからがあなたと私の勝負だ。
 本当に私を縫い止めているものがあなたの信仰心であれば、そのシンボルを投げ捨ててもかまわないということだよね。
 あなたの信仰はあなたの中にこそあって、シンボルそのものが信仰ではない。そうだろう。
 …シスター。その聖なるシンボルを捨ててみないかね。」
「…な」
「かまわないだろう?シンボルなぞなくても君の信仰は揺るがないはずじゃないか?
 また、逆に…シンボルに頼っているということは、君の信仰はその程度だったということだ。シンボルに頼っていれば実際には神なぞ信じなくてもよいということなんだろうね。
 だとしたら、私は君の言葉に縛られることはなくなるのだよ。私は自由に動くことができるようになる。夜まで待つことはない、今すぐあなたの血をいただくことにするよ。
 さあ、自分の信仰を信じて、そのシンボルを捨ててみたまえ。」

 なんだ、これは。奴は何を言っているんだ?
 確かに、草原や砂漠の民のほうが彼らに襲われやすいということは聞かない。
 逆にそれらの地域では彼らの話を聞かないことも多いという。
 だとしたら、単純に彼らの血や気候が合わないということではないのか?
 いや、だが…
 密林の民などは祈りと生活がほとんどいっしょという話も聞く。だとすれば、祈りが形骸化している私たちより、より信仰に密着しているということか?
だとすれば、奴の言うことも納得がいく。もし、私の信仰が奴を押さえ込んでいるのだとすれば…
 いや、だがそれはこのシンボルそのものを否定することになりはしないか?

「さあ、どうしたねシスター。」

 いや、奴はこのままではジリ貧だ。これは私にホーリーシンボルを捨てさせるための作戦だ。間違いない。

「ペーター。起きて、ペーター」
「おいおい、それはないだろう。これはあなたと私の勝負なんだよ。それに、まだ気がつかないかな。明かりを消すことぐらいできる…ということは、彼の心臓を止めることくらいできるんだよ。
 はっはっは。だが、それではもし君が勝ったときの賞品がないからね。そのために彼は生かしてあるんだ。
 まあ、彼を起こそうというのならそれはそれでかまわない。それはあなたが自分の信仰を信じられないということだからね。」

 ブラフだ、決まっている。
 そんなことは子供でも知っているじゃないか。吸血鬼は十字架に弱い。十字架に弱い。十字架に弱いのだ。
 だが、私の持っているのは十字架ではない。なぜ奴は動けない?
 本当に信仰心が奴を抑えているのか?

「君が聖職者として、己の信仰心に自信を持っているのであれば。今すぐそのシンボルを捨てるべきじゃないかね。それとも君は自分の命が惜しいがためにそのシンボルをずっと掲げ持つつもりかね。」

 ではこの聖なるシンボルとは何なのだ。
 いやブラフだ。これを離してはいけない。
 だとしたら奴らは何を恐れているのだ?ホーリーシンボルなら、聖なるシンボルなら効き目があるというのだろうか。聖なるものは全て奴らを抑えることができるのだろうか。

「さあ、決断したまえ。」

 だとしたらワインでも、聖餅でもいいのでは、お札だっていいはず。
 は、やはり信心か?
 あ、ルシアールの大司教が吸血鬼に襲われたことがあったが、それは…いや、間違いないブラフだ。だまされてはいけない。これを捨てては、私は…

「…ター。シスター。」

 私は呼びかけられではっとする。当然呼びかけたのは奴。まるで恋人を迎えるかのように両手を横に広げ、にこやかに笑っている。

「残念だよ。シスター。」

 私は気がつく、いまや光っているのは奴だけ、私の体は光をはなっていない。

「君はとうとう、自分の信仰を信じることができなかったね。」

 奴が静かに近寄ってくる。
 私はシンボルを目の前に突き出した。

「終わりだよ、シスター。自分の信仰を貫き通すことができなかった者の持つシンボルなぞ、ホーリーでもなんでもない。」

 奴は手を伸ばすと私のシンボルを奪い去り、握りつぶした。
 乾いた音をたててシンボルが砕け散る。

「こんなもの、契約書に書くサインと同じなのだよ、シスター。
 君達は友人との約束を守る時に契約書やサインを取り交すかい?そんなことはしないだろう。
 そこだよ。私達闇の貴族のわからない所は。そこにお互いを信じるという気持ちがあればサインはなくとも契約は成立する。
 それは私たちにはない概念なのだよ。だからこそ、そのパワーを前にして、私たちは無力なのだ。
 あぁ。本当に残念だ、シスター。」

 奴の目が赤く光る。

「…んっ…っくッ…」
「君はもう動くことはできない。他の犠牲者と同じだ。」
「…っあっ…」

 私の頬を涙がつたう。悔恨の涙だ。
 私はとうとう自分の信仰心を信じとおすことができなかった。
 何が僧侶だ。何がパラディンだ。自ら信じるもののために命をかけられないのなら、奴らと同じではないか。
 いや、そのことに気がついていなかっただけ、血をすするものにも劣る。

「所詮、この程度だったか。もう少し楽しめるかと思ったが…」。

 彼が私の背後に回りこむ。彼の指が私の髪を掻き分ける。

「失礼。女性はこちらからいただく事にしているのでね。」

 彼の冷たい舌が私の首筋をなぞる。私の息だけが熱い。

「さようなら、シスター」

 私の負けだ。私は目を閉じ、彼の牙が首に突き立てられるのを待った。
 その時。

「ふりゃぁっ!」

 "ドカッ!"

「何ィ!」

 奴の手が離れる。
 だが私は相変わらず動けない。言い争う声だけが耳に入る。

「オラぁ、神様を信じる。神様を信じるだっ。」
「貴様、虫けらの分際で!」
「オラ、ただの墓守だ。気も弱いし、学もねぇ。だどもオラ神様は信じるだ。」
「ふざけるな!やめろ!」
「ここには月に何人もの仏さんが来る。そりゃいろんな神様を信じている仏さんたちだ。だども、みんな最後はそれぞれの神様の所に行く。」
「や…やめろ」
「どの神様がいいとか、どの神様が間違ってるとかじゃねぇ。その人が信じるから、神様が答えてくれるんだ。」
「…や…メろ…」
「オラ神様を信じる、神様は絶対にいるだ!」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ…」
「オラは信じるだーっ」
「ギャぁーーーーーーっ」

 一瞬部屋がまばゆく光ったかと思うと呪縛が切れた。
 カンテラの光がほの暗い。
 呪縛が取れた。
 私は後ろを振り向く。その目に映ったものは…

「あ、尼さん…こ、こりゃぁ、いったい…オラの体が光ったかと思ったら…あいつが…」

 一本の杭の刺さっている塩の山と、トム爺さんだった。


「尼さん、オラ、やっぱり逃げたのが恥ずかしくなってよ。」
 ペーターに回復を施しているとトム爺さんが言った。
「で、戻ってみたらおまえ様となんか光った奴が何か信じる信じねえとかで争ってるじゃねぇか。
 オラ、赤い棺の仏さんをここに納めるときに顔を見ただ。間違いね、あの男だったよ。
 いったん仏になった人間は生き返るもんじゃねぇ。だもんで、あんたも危なそうだったし、無我夢中で…」
「トム爺さん。」
「オ、あ、あれ。い、いや〜こんな若い娘さんに抱きつかれんのは、久しぶりだ…」

 その後、私達は村に戻った。
 衰弱していた人たちも、血を吸うものがいなければ後は普通の治療で徐々に回復していくことだろう。
 村長にだけは顛末を話したが、吸血鬼は私が倒したことになった。
 それというのもトム爺さんが。

「オラ、勇者とかそういう器じゃねえし。吸血鬼を退治したとなりゃ、これから、尼さんの評判にもなるだろうね。それにオラ、あん時おまえ様の尻をなでさせてもらっただけで十分だ。」

 彼がそう言うならここではそうしておこう。村人もトム爺さんが倒したと聞けば疑るだろうし、本当に貴族が死んだのかと不安がるだろう。
 もっとも…外でこれを私の手柄にするつもりはない。たとえそれによって闇の貴族達の真実を一つ葬ることになったとしても、私が感じた事実を公表することはできない。
 それは私自身の敗北を世に知らしめることになるからではない。この事実を公表すれば、無意識に信心で勝っていた者たちの心に迷いを生じさせることになるからだ。実際あの場所では私も迷いから信仰を見失っていた。

 私の信仰を取り戻すために、一旦キルシュバルトに戻ることにしよう。
 最初から修行のやり直しになるかもしれないが、それはしかたがない。とにかく、義母にだけは正直に打ち明けてみよう。

 明日からは祝いの宴が催されるそうだ。
 私は朝になる前に村を出ようと思った。

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