その名はルー

「旅人よ、止まるがよい。」
 私はいきなり声をかけられる。
「この街道を通りたいのなら、謎をといて行けー」
 左手の崖の方か?
 私は武器をかまえながら振り向く、そこにいたのは、人間の顔に獅子の体。鷲の羽根に蠍の尾を持つ…
「マンティコア!」
 …の、子供だ…大きさは、そう小犬程度だろうか…
「スフィンクスだよぉ…」
 マンティコアが不満そうに声をあげる。
「え?」
「だって、ほら人間の顔にぃ…」
「ライオンの体。」
「そうそう。それで鷲の羽。」
「で、蠍の尻尾。」
「尻尾は見ないで!」
 マンティコアは尻尾を脚の間に隠すともじもじと後ずさった。
「だって。君はマンティコアでしょ?」
「スフィンクスなの!」

ちゅんちゅん…ちゅんちゅん…どこかですずめが飛んでいく…

「あのね…」
「ここを通りたくば…」
「こら…」
「余の出す謎を…」
 私はマンティコアの尻尾を掴むとそのまま持ち上げた。
「私は謎なんか聞いてる暇はないんだよ。」
「えええーっ」
 マンティコアは私の目の前でじたばたする。
「僕がマンティコアだから謎を聞いてくれないんだ。」
「残念ね。あなたがマンティコアだろうとスフィンクスだろうとブラウンジェリーだろうと、聞かないものは聞かないの。」
「なんで?なんでだよぉ。」
 マンティコアは口をとんがらせた。
「急いでるのよ。」
 事実、私は急いでいた。
「早く山向こうに下りたいの。わかる?」
「ならば謎をといて行けー」
「おい。」
「この謎をとかないとー」
「おい!」
「この道を通すことわー」
「人の話を聞け!」
「人の話を聞かないのはお姉ちゃんのほうだろ!」

ちゅんちゅん…ちゅんちゅん…

「何でマンティコアがこんな山道で謎かけか!」
「マンティコアじゃない!」
「あんたはマンティコアだから。」
「嫌だ。」
「嫌でもマンティコアな…」
「うぇえぇぇ、えぐっえぐっ…」
「こ、こら。泣くな」
「僕わ…えぐっ…スフィンクスなんだ…」
「いいから、泣きやみな。」
「…すん…すん…」
 私は崖に飛び出た出っ張りに腰をかけるとマンティコアを膝に下ろしてこう聞いた。
「なんで、スフィンクスなの…」
「…好感度の問題。」
「はぁ?」
「じゃぁね、じゃぁね。イメージクーイズ!マンティコアかスフィンクスでお答えください。」
 マンティコアは岩の上にぴょこんと飛び乗るとこういった。
「四本足のモンスターが言いました『はっはっは、われは貴族なりぃ』これどっち?」
「スフィンクス」
「『汝に信託を与えよう』これどっち?」
「スフィンクス」
「モンスターが仲良く暮らしている町が仮にあったとして、そこで舞踏会がありました、出席するのはどっち?」
「スフィンクス」
「ずばり、頭がよさそうなのはどっち?」
「スフィンクス」
「じゃあ、学歴が低そうなのはどっち?」
「マンティコア…あっ…ごめん…」
「いいよ…いつもそうだもん…」

ちゅんちゅん…ちゅんちゅん…

「で、君は…好感度が低いから…スフィンクスになりたいのね?」
 マンティコアはこっくりとうなずく。
「ふぅん。君…友達は?」
「いるよ。ワイバーンのディーディーとドゥードゥーでしょ。ハーピーのエレンちゃんでしょ。後、裏山のワイト君たちは何人いるのかわかんないけど、洞窟のゴーレム君でしょ。それから…」
「マンティコアの友達は?」
「…いないよ。僕達は、えーっと個体数?が少ないんだ。」
「君ねぇ…アー、私はディルド。君は?」
「ルー」
「ルー。君のお父さんは?マンティコアよねぇ?」
「うん」
「情けないお父さんなのね、頭は悪いし、うだつはあがらないし、結局ほかのモンスターとかにこき使われて、一生下働きで終わるだけなんだ?」
「お…お父さんを悪く言うな!」
 不意にルーが噛み付いてくる。私はそれとひょいと摘み上げる。
「お父さんは英雄なんだ。侵略者からこの森を守ったんだぞ!」
「アーラ。運がよかったのね、その侵略者ってひょろひょろのコボルトか何かじゃなかったの?」
「違わい!ドワーフと人間のパーティーで6人もいたんだ。でもお父さんは勇敢に戦って刺し違えてまでこの森を守ったんだ!お父さんを馬鹿にするな!」
「お母さんは?」
「え?」
「お母さんもマンティコアでしょ?」
「…う…うん…」
「お母さんのことなら悪く言ってもいい?」
「………だめ。」
「なーんで?ねえ、ルー。君おかしいよ。」
「おかしくないっ!」
「だってスフィンクスになりたいんでしょ?こんな田舎の山にいるマンティコアのことなんか気にすることないじゃない?」
「うるさい、お姉ちゃんなんか嫌いだ!」
「あら、勇ましいわね…あ、段々スフィンクスに見えてきてよ。」
「…え?…」
「謎も聞いてみようかしら?」
「本当に?」
「うん」
「じゃあ、いくよ。朝は四本足、昼は二本足、夕方は三本足の生き物はなんだ?」
「…朝は四本足?」
「うん」
「昼は二本…足?」
「そうそう」
「それで夕方は三本…」
「ふっふっふ。もしわからなかったらここを通すわけにはいかん。おまえの命を…」
「わかったわ」
「え!」
「シュパーリンの山奥の洞窟にだけ住むと言われている洞窟性無脚トカゲの『メラターデ』よ。」
「え?…違い…」
「なーんだ。ルーったらメラターデの事を知ってるなんて通じゃない。確か夜になると8本足になって出芽分裂して二匹になるのよね。」
「…お、お姉ちゃん…違…」
「ところで知ってる?メラターデには白メラターデと黒メラターデがあって…」
「…違うって…」
「幼生のうちの白をお酒につけ込んだものは、あの辺りの名産物なのよね。」
「い…いや…」
「ま、それはあれとして…」
 私は立ち上がるとルーを摘みあげ、崖っぷちから手をのばし…
「私が答えられたんだから、あなたには死んでもらいましょうか。」
「ええー何で?」
「何でじゃないわよ。謎に答えられたスフィンクスは崖から身を投げて死ぬのよ。」
「…嘘…」
「…本当…」
「いやだ、いやだ、いやだ、いやだ。」
「こら暴れるな!」
 ルーは必死に暴れるが、私にはかなわない。何回か尻尾の針で刺されたが、この大きさでは毒も強くないだろう。私はヘアバンドをはずすとそれでルーの羽を縛った。
「これで飛べなくなっちゃったわねー。さあ、どーんと死んでもらいましょうか!」
「嫌だよ。それにお姉ちゃん、答間違ったじゃないか!」
「何で?」
「答えは人間だよ。」
「おーっほっほっほ。」
 私は高らかに笑った。
「そんなでたらめを言って逃れようと思っても無駄よ。どこに四本足の人間がいるって言うのよ。」
「赤ちゃんは四本足じゃないか」
「はぁ?あなた手と足の区別もつかないの?」
「それは比喩的に足と言う表現をしているんだよ。」
「じゃあ、何で赤ん坊が急に二本足になるの!」
「だから、成長すると二本の足で歩くようになって、年をとると杖をつくから三本足になると言う…」
「赤ん坊が一日で年寄りになるなら今ごろ人間は滅んでるわよ!」
「だから、それは、人の一生を一日に見立てた…」
「うちのおばあ様は杖なんかついてなかったわよ?
 何それ、杖をつくから三本脚ぃ。おなじことをミーシャって言う女剣士に言って鼻の骨を折られた男がいたわよ。さあ、覚悟はいい、ルー。」
「嫌だよ」
「これはスフィンクスとしての運命なのよ。」
「僕は…じゃ…ない…」
「あなたは立派なスフィンクスだったわ。」
「ち…ちが…僕わ…」
「さようなら、あなたとの戦いは忘れないわ。」
「…や、やめて…」
「成仏なさいな。ほれ!」
 私はルーをほおり投げた。
「うわーやだやだ、おねぇちゃん。僕はスフィンクスじゃない。マンティコアだよ。マンティコアがいいんだー。」
 ナイスキャッチ。
「もう一回言ってごらん」
「僕はマンティコアだおぉ。」
「そうだね。」
「お父さんもお母さんもかっこいいよ。僕はお父さんとお母さんと一緒のがいいんだ…」
「そうだね。ルー。」
「ふぇーん、えぐっえぐ…」
「さあ、ルー。じゃあ、ここでイメージクーイズ。迷宮の奥にたくさんの宝がしまわれています。これは誰のもの?」
「…太古の王様…」
「じゃあ、そこに最後の守りとして配備されたのは?」
「マンティコアだ!マンティコアだよ!」
「そこに凶悪な侵入者がやって来ましたそれは誰?」
「人間…あ…ごめんなさい…」
「いいのよ。ルー。
 あなたの中での好感度は低いけど、私は人間をやめようなんて思ったことは一度もないわ。不完全で自分のことしか考えないけど、私は人間として一生懸命生きてる。だから、あなたもマンティコアとして精一杯生きなさい。
 将来、私とあなたとがあったら戦わなきゃならないこともあるのよ。他の種族にあこがれる暇があったら、ちゃんと研鑚をつんでおくのよ。いいわね。」
「…うん…」
 私は彼の羽根のいましめをといてやった。
「あ、そうだ。ちょっと痛いかもしれないけど我慢なさい。」
 そういうと私はルーの耳にピアスをつけてやる。もともと誰のためにというわけでもなく手慰みにに作った物だ。いや、案外ここで彼にあげるために作ったのかもしれない…そんなことを考えながら。
「…つっ」
「もう終わったわ。おやー、格好いいわよぉ。」
「へへへ…」
 そのとき…後ろか叫び声がした…

「いやがったぜ、このアマ!」
「今度は逃がさねぇぞ!」
 まいたと思ってたのに…そこには20人程度の男たちがいた。

「おい、姉さんよ。鍛冶職人の分際で、うちの若旦那を誘惑するとはいい度胸だな。」
「だから、してないって言ってるじゃない。よく考えてごらん。もしあんたが女だったら、あの若旦那に惚れるかい?」
「う、うるせぇ!」
「まあ、いい。とにかく屋敷まで来てもらうぜ。」
「へっへっへ。さっきは不覚はとったが、ここじゃぁ隠れるところもないだろう。」
 確かに、素人とはいえ1人でこの人数はきついものがある。逃げるか…と、私が思ったとき、崖の上から黒い影が降ってきた。
「!」
 それは、男達のほうを向くとこう吼えた。

「おまえ達…私の主に…何の用だい?」

「うっひゃー」
「マンティコアだぁぁぁ」
「助けてー」
 男達はクモの子を散らすように逃げていってしまった。マンティコアが振り向く。次は私の番だ。こいつは成体、私一人じゃたぶん…
「お母さん!」
 ルーがマンティコアに走りよる。
「お母さん。このお姉ちゃんは違うんだよ、許してあげてよ。」
「ああ、わかってるよ。」
 マンティコアはそういうと私にこう言った。
「息子の相手をしてくれてありがとうよ。世話をかけたね。」
「いや…それほどでもないわよ…」
「今のうちに斬っておけば、後々憂いもないだろうに…」
「自分に危害を加えない奴を切る趣味はないわ。」
「いいね。人間にしておくのはもったいないよ。」
「あなたも、にわかベビーシッターを助けようなんて、マンティコアにしておくには惜しいわね。」
「言うね、怖くないのかい?」
「まさか!怖いわよ。」
母マンティコアは歯をむいた。多分…笑っている。
「この子は親の言う事を聞かない子で困ってたんだよ。よりにもよってスフィンクスだなんて。本当に礼を言うよ。
 だが、もう行ったほうがいい。今の悲鳴を聞いてほかのモンスターがくるかもしれない。そうなったら私には止められないからね。」
「ええ、そうね。…じゃあ、ルー。バイバイ。」
「バイバイ、おネェちゃん」
背後から襲われることはなさそうだ。私はそう確信して街道を下った。


後日談その1
 子供とはいえルーの毒はあなどりがたく…私はその後半月もの間、教会のお世話になった。
 
後日談その2
「え、これからあの岩山を超えたい?うーん。いや、止めはせんがね。どうしてもというなら、街道の石畳の上だけを歩くんじゃよ。
 いいかい。左耳にピアスをしたマンティコアが出たら、そいつには逆らうな。あんたがどんな腕自慢でも奴にだけは逆らうなよ。この何十年というもの奴に勝てた冒険者はいないからな。
 奴は一言『この地の静寂を乱すな』…とか言ってくるから『私はこの道を通って向うの街に行きたいだけです』とはっきり言うんじゃぞ。そうすりゃ何事ともなく通してくれる。
 間違っても街道から外れないようにな。ほかのモンスターに会わんよう、祈っとるよ。」

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