オ・ト・ナ・の趣味のお話

「いい料理だったわね。お酒もおいしかったし。」
「…そうだな…。」
 私たちはそう言いながら部屋に入る。
 パーティーの部屋割りは、よほどのことがない限り…つまり私とアリシアが次の日の朝から買い物に行くとか、男の子が二人で飲んで語りたいとかでもない限り、ジェラールとアリシアで一部屋、私とマスター君で一部屋になる。
 誰が言い出したというわけでもないんだけど、私もマスター君もできるだけあの二人の時間を、まあ、せめて町にいるときくらいは持たせてあげたいと思っている訳だ。

 今回、ちょっとした依頼で懐の暖まった私たちは、予定を早めに切り上げ街道沿いの小さな町に泊まることにした。近くの共同浴場でさっぱりとした後、地元の料理で打ち上げ…と、いつもどおりのコースを終えて私たちは宿に帰った。

 部屋の中はマジックライトで照らされている。命令ひとつで明るさは自由自在ってやつだ。
 今日の部屋はツイン。私のベッドは奥のほうだ、荷物はすでに部屋の中にある(街に食事に行くのに、大きな武器とかは持って歩けないでしょ)。それぞれの横に小さなライトと上着掛け。私は上着を脱いでそこに掛けた。
 季節柄、キャミソール風のインナーだけでいても平気なほどに暖かい。
「…今回の依頼は…楽な方だったのか?」
 マスター君が言う。
「うーん。そうね。いつもながらジェラールはいい仕事を持ってきてくれるわ。あれは結構いい儲けなんじゃないかしら。」
「そうかもな…宝箱も手に入ったし…」
「開くかしら。結構レベル高そうよ、あれ。」
 そんなたわいもない話をしながら私はベッドのふちに腰をおろす。
 アルコールのせいだろうか、これから自分が口にしようとする言葉を思うと、ちょっと鼓動が速くなるのが自分でもわかる。
「ねえ、マスター君…」
「…ん、何だ。」
「この間してからしばらくたつでしょ…その…また、しない?」
 まあ、こういう言い様もなんだとは思うが…正直、我慢ができないことってある。それに、彼はパーティーの仲間だし…夜は…長いし…

「大丈夫なのか…少し酔っているようだが。」
「あん。このくらい、酔っているうちに入らないわ。それにちょっとくらいアルコールを入れて、リラックスしないと…ね。」
「…そういうものか…」
 それでも彼は、ため息をつくとマントを壁にかけ、私のところへ来る。私は両腕をひろげてこう言う。

「大丈夫よ。痛くしないから…」

 彼は私のベッドに横たわる。そして私は明かりの調節をしてから、やさしく彼に触れる。

「…ほら…ね…」
「ああ。」
「動かないで…」
「ああ。…あっ…」
「痛かった?」
「いや…大丈夫だ」
「ここは…」
「…大丈夫…」
「じゃぁ…ここは?」
「ッ痛っ…」
「ふっ、ごめんなさい。」

 リラックス、リラックス。下から上へ、上から下へ。
 力を入れないで。やさしく、やさしく。なぞるように、そして時々引掻くようにもしたりすると…

「ほーら。ふふっ、大っきい…」
「…そういうことは…言うものでは…」
「くすっ、ごめんね…」
「…まったく…」

 リラックス、リラックス。下から上へ、上から下へ。
 私は指の動きに集中しながら、言うともなく彼に語りかける。

「ここってねぇ…すごく毛深い人っているじゃない?」
「…そうなのか…」
「私、あれ、ダメなのよねぇ…」
「…そうか…」
「うーん、生理的にね…」
「…そういうものか…」
「匂いとかも…好き嫌いが激しいほうだし…」
「…」
「その点、マスター君はいいわ…色も…ピンクできれいだし。」
「…自分では…わからないが…」
「そりゃ、まあ…ね。さ、もう喋らないで…」

 リラックス、リラックス。下から上へ、上から下へ。
 集中して…余計なことは…考えない。ソフトに、ゆっくりと丹念に。右側も、そして左側も。

「…ッん!…」
「ん?」
「…いや…」
「もう…終わりに、する?」
「…大丈夫…ちょっとその…くすぐったかった…」
「くすっ。おやおや…」

 行為に没頭してどのくらい時間が経ったろう、もう充分かしら…私はマスター君の耳にふっと息を吹きかける。
「…ん?」
「おまじないよ。」

 と、その時ドアがノックされた。

「アリシアですけど、いいですか?」
「いいわよ。」

 ドアが開いてアリシアが入ってくる。

「すいません。ジェラールが宝箱を調べるから、部屋から出てなさいって。あ、またやってたんですか?」
「うん、あなたもどう?」
「うーん。奥のほうは自分じゃわからないんですよねぇ…お願いしようかなぁ…」
「いいわよ、もう終わりだから。はい、マスター君、終了。」
「…ああ、ありがとう…」
「どんな?」
「…うん。さっぱりした。」
「そう、よかった。」
「うわー。取れてますねぇ…」
「久しぶりだったからね。ほらこれとか…」
「きゃー、大ッきい!」
「…だから…そういうことは…」
「ごめん、ごめん。じゃ、アリシア、おいでなさいな。」
 私は自分の腿をポンポンと叩く。
「はーい♪」
 そう返事をすると、アリシアは私のひざを枕にする。
「お願いします。痛くしないでくださいね。」
「喋ったり、動いたりしなければね。」
「あ、それからですね。終わった後の耳に『ふっ』っていうのは…」
「だーめ。あれはおまじないなの。私に耳掃除をしてもらった人は必ず『ふっ』ってされるの。」
「おまじないですかぁ…」
「ねえ、アリシア、今度ジェラールの耳掃除もさせてよ。」
「だめです。ジェラールのは私がするんですから。」
「痛くしてやる〜」
「きゃー♪くすぐったいですよー。」
「…本当に…お前たちは…」
 マスター君が魔道書かなんかを読みながらあきれたように言った。

 ディルディオネ=アレグリア、24歳。
 趣味、人の耳掃除………癖になるんだから。

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