◆「ヒゲ」と「ホタル」と京の闇◆
++第三話++
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京が闇にその身を委ねる時が来た 街には闇を裂く如く、御用の提灯に灯が灯る 闇に覆われる京の街、空に光が失われ…再度その墨色に点々と光を灯し始めた頃… アキトは大樹の上に作りつけた寝ぐらでようやくその目を開けた モソッと寝返りをうつと腕を突っ張りその体を起こす 「うぅ〜んぁ;さてと…」 暗闇に慣れている目で作りつけの小屋の隅で丸められた紙束をその場で広げ始める その紙には所々赤くバッテンの印が付いていた バッテンの下に描かれているのは京天殿の城下町地図のようだった ポリッっと頭を一掻きして アキトはツツツと指で紙の上をなぞり 時に顔を歪めて何かに悩んでいた 「絶対おかしい…どこのどいつなんだ…あぁぁぁ〜腹立つなぁ!!」 苛々しながらも地図らしきものをなぞる指を確りとその目は追っていた 一通りなぞり終えたのかフゥと小さく息をつく う〜んと伸びをしてまた紙へ意識を戻す そして再度指を滑らせると ピタっとある地点で指が止まった 「陣よ…おめぇそれはどういう」 「どうって?…俺は正直に答えただけ^^」 そう言うと陣内は席を立ち上がった 「お;オイオイ…まだ話が!!!」 キタさんは慌てて陣内の後を追う様に席をたつ と…陣内は先に勘定をすませキタに向かってこう告げた 「そろそろお時間だろ?キタのおっさん働けよ^^」 何か言いたそうにしたキタを置いて 彼は店の暖簾を潜る キタはというと勘定に思わぬおまけがついていたらしく ドタドタと暴れているようだった 突然目に入り込んできた闇に慣れるまで 陣内はボーっと少し立ち止まると 空に見事に上がった月を仰いだ 少し経ち… 暗闇の中でも何処となく敷居や周りの形が分かるくらい目が慣れ始めると まだ後ろでごちゃごちゃ言っているキタを無視して歩きだす 「こらぁ〜!!陣…また誤魔化すのか!!」 その言葉を貰った陣内はクスッと笑うと後ろ手にキタへ手を振った 「あぁぁぁ」と唸ってキタは頭を抱えノソノソと先に行かせた役人若い衆達を追って歩き出した 「ホタルが出たぞぉ〜!!!!」 ピーと甲高い笛の音を鳴り響かせながら役人の声が町に響き渡った ザザザザザッと幾つもの足音がある一点を追いかけていた それは一見ただの黒い塊の様に見え 役人達もそれを確りと確認する事は容易ではない ただその影と空に架かった見事な月が重なる姿は敵ながら見惚れる事もあった …等とはさすがにお上には伝える事は無かったが… 「ホタル」と呼ばれるその影は軽々と次から次へと屋根を伝って走り抜けていく いくら大勢の役人が必死に追いかけてもその影に追いつく事は出来ない ストッストンと飛んだり跳ねたりする影はあっという間に役人達の前から 姿を消してしまった… こうなると役人達の顔にはもう諦めの色しか現れない その中…後ろの方から大きな声が響く 「おらぁ〜!!!そんなんでヘバッてんやないで!!!見えへんだけで逃がした思たらあかん!!!!」 「見えんだけや!!!どっかにおんねん…隅々まで探すねや!!!!!!!!」 もうバテバテの青年達を他所に 歳とは相応でない元気の良さで、キタはそう声を張り上げた キタの声に体を叩かれ…青年達は蜘蛛の子を散らすように周辺一帯へ散らばっていった 紫煙を燻らせながらゆったりした足取りで陣内は町を徘徊している タバコから流れるその煙… クネクネした動きを楽しみ、綺麗に上がった月を眺め… そして役人達の「ホタル」の声 「ほ〜たるちゃ〜ん」 おどけて声を出してみる がその顔は真剣そのものだ… それから歩きながら何度かそう声をかけてみた、暗闇に向かって まだ役人達が騒いでいる声が聞こえる 陣内はそれを確認するとまた黙ってタバコの煙を楽しんだ 数分が経った頃 役人達の居た方向から五月蝿くキタの声が響く 陣内はそれを聞くなり薄く笑った そして暗闇が周りを覆い尽くす中、耳をすませた ほんの少しの…本来なら気にもしないようなちょっとした音 カツッ… タバコの煙が上へ上へと上がっていく… それを目で追いながら陣内は口を開いた 「ホタルちゃん?」 闇に向かって投げかけた言葉… ズガッ!!!変な音が耳につく、と 上から黒い影が降ってきた …と言うより…落ちてきた;; ドッスン!! 当の本人…陣内自身予想もしていなかった 突然何かが覆いかぶさって来て、バランスを崩し目の前が真っ白になった 体は地面へ押しつぶされていた ズッシリと腹の上に重みを感じる 落ちてきたそれも陣内と同様…思わぬ衝撃を受けているようだった 第四話へ |