◆本当の「ホタル」◆
++第五話++
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今宵襲われた商人の屋敷に役人が何人も上り込む そこには無残に腹を裂かれ…人と辛うじて分かる遺体が横たわっていた… その裂かれた腹には小太刀を突き立てて... 見た目に反して軽がるとその体は宙を舞っていた 少年と共に役人の前から飛び出した男は ストン、ストンと旨く家々の屋根を移動している 役人が吹いた笛と「ホタル」の言葉による 追いかけっこは少し前に男の勝利で終えていた まだ月は真上で暗闇が男を包んでいる 少年は男が飛び立ったその時から 彼の胸に顔お埋めてピクリとも動かなかった… 「ホタル?」 男は少年に向かってそう言葉を投げかける 少年は「ホタル」という言葉にピクリと反応した しかし一向に何かを伝えたり行動したりはしなかった まるで先ほどまでが嘘のように… 流石に男もこの少年の様子と 体力の消耗に、ある目的地に向かおうと考えたようだ 彼の向かう先は川辺にひっそりと建っている 決して小さい事のない屋敷へと向かっていく 屋敷の前に付くと男はその足で玄関と思われる戸を乱暴に開ける この屋敷は遠くから見ればかなり古く汚そうに見えるが 屋敷の中はちゃんと整理も掃除もされているようだった 中へ入ると男は ドタドタと上がり込み奥へ奥へと進んでゆく その間も少年はモゾモゾとする事はあっても派手に暴れたり 男に向かって言葉を投げる事も無かった 路地での彼が炎が消えたかの様に今では見る事が出来ない 少しして、ぼんやりと明かりが灯った部屋の前で男はピタッと止まった はぁ〜と深く息を付くと 姫抱っこの様な形で抱いていた少年を 「よいしょ」と声を出して肩へ担ぎ上げた 流石に少年もこれにはびっくりして 男の背中をギュッとつかんだ 「どうしたんだ?突然大人しくなったな…ホタルよぉ」 男はそう言いながら担いだ少年のお尻をバフバフと叩く 「やっ!!やめろよ、変態ヒゲ!!!も…もぉ降ろせよ…」 やっと口を開いた少年だったがやはりどこか元気がなかった 男は無言で明かりが漏れる部屋の中へと少年を担いだまま入っていく …とそこは男の寝床の様で、明かりは床の上に点けられた照明細工によるものだった この状況はいわゆるナニな雰囲気を思い起こさせる… もちろんこの少年もそれを感じずにはいられないようだ 男は床に近づくとそこで自分の上半身を下へ折り曲げて バフッと少年を落とした 布団で衝撃はないものの、担がれていた状態のまま 放り投げられた少年は体勢を崩した 少年は体勢を整えムクッと起き上がると 目の前には男の顔があった 「な…なんなんだよ…そ、その…あの」 少年は男の顔を見てすぐあたふたとやっと言葉をついた 男はそんな少年のオデコをつんと人差し指でつつく 「なんなんだは俺の台詞だろ?突然ムッツリして何にも言わないし」 「挙句の果てにそんな顔しちゃって;;俺を誘ってんのか?!ホタルちゃん…」 男は冗談そうにそう少年に言うとドカッと仰向けに寝転んだ 少年はというとまた黙りこんでしまった… 男はそれをチラッと片目で確認すると 少年の着物の裾をグイッと引っ張る そのお陰で少年は男の方へと引き寄せられた ゴンッ!!! 『ヴッ…』 二人は動じに同じ言葉を発していた 男はどうやら少年にまた悪戯しようとして少年の頭に顔をぶつけられ 少年は男の顎で額を打った 少しの間そのままの格好で二人は大人しかった 少しして少年が口をつく 「アキトだよ」 ボソッとした声だった そう言った少年は真剣な眼差しをしていた 「アキト?」 男は何の事?と言わんばかりにおどけている 少年はムクッと起き上がると今度は男に向かってハッキリと言った 「オレの名前だ!!アキト!!!オレはホタルなんかじゃない!!!アキトなんだよ」 ちょっと半切れの少年<アキト> 男はニカッと笑うと自分も状態を起こしてアキトの頭を抱き寄せた 「アキトか…それで?アキはホタルじゃないのか?」 抱き寄せられ…そう男に言葉をもらった少年… アキトは目一杯に涙を浮かべて男にしがみついた 男は少年の事はすべて知っているかの様に優しく包み込んでいる アキトは涙を堪えながら…ツラツラと言葉を発し始める 「オレは確かにホタルだった…」 男は少年の頭を優しく撫でながら彼の語る事をしっかり聞いていた 「でも違うんだ…違うんだよ…」 ポタポタとアキトの瞳から大きな粒が零れ落ちる 男は抱きしめている腕の力を更に強めてしっかりと受け止めてやった 「オレじゃないんだ…小太刀が光ってた…見たんだ!!あんなのって!!」 相当のショックを受けたのか アキトは旨く言葉を伝える事が出来ていなかった 「アキ…聞いてなかったか?」 男はアキトの涙を着物で拭ってやり自分の方へ顔を向けた 「オレはホタルを追ってたんだ…会いたかった…ず〜っと前から知ってるホタルに」 少し前にも聞いた言葉だった…が 男の言っている事はアキトを更に混乱へと導いてしまった 頭を激しく振って男の言っている事が理解できないといった感じ… 「アキは覚えてないのか…」 寂しそうに男がそう呟くと アキトを優しく宥めた 「アキト」 何度かそう名前を読んでやるとアキトは落ち着きをもどした それと同時にアキトからは力が抜ける…そう疲れきったと体中が言った感じ それを受けて、男は彼の体を自らの布団へと横にする 「陣内だ…アキト」 自らの事を<陣内>と名乗り アキトの額に唇を寄せて男は彼を眠りへと誘った 第六話へ |