◆表と裏と◆
++第八話++
夜な夜な起こる事件は未解決
奉行内でも波紋は広がる
「ホタル」を捕まえなければ…
そう…「ホタル」を


厳つい役人達に囲まれて
その男は広い奉行内の長い縁側を歩いている
その男を取り囲む役人達は皆険しい表情を浮かべ
それは日々の疲れも溢れ出しているようだ
そんな中、男は先ほどまでのユッタリとした時間を
思い起こしていた
舌に残るアノ感触に酔いしれ
そしてその行為と共に漏れる少年の吐息を…
無駄に長いと言ってもいいほどの廊下を程なく行くと
取り囲む男達がある地点でその足を止める
それを感じ取ると男はその地点へ自らを先頭として
乗り込んでいく
そこは入る手前から独特の臭いが漂っていた
男はそれに臆する事は無く先に進んでゆく
が、男達は出来れば入りたくないといった様子
中に入ると
ありったけの布を敷き詰めた様なそんな部屋
そしてそこの中心には
凝り固まった大きな血の塊がアリ
その側に男の知った顔があった

「やぁ〜…最近良く会いますねぇ、水郷さん^^こんなお付き合いが続くとはね」
そこに居た者は男に向かってそう言葉を投げた
「私がこの目だけになった頃からか…御津よ」
フッと笑うと水郷といわれた男は更に部屋の中へと進んだ
御津と言われたその場にいる人物は
一見ではほやんと笑っているかの様な
細い糸目で短くさっぱりした髪の毛
所々に赤を跳ねているが白衣らしき物を身に纏っている
「まだ半日も経ってないので、臭いがキツイでしょ?」
御津が水郷へそう告げると
彼はそうでもないと言った感じで笑ってみせた
それよりも未だに部屋に入って来れて居ない
部下達を目で御津に訴えた
御津はクスクスと笑うと
「水郷さん…彼らは解放してあげたらどうですか?」
かなり異様なこの部屋の中で
御津の雰囲気は何故か和みを帯びていた
彼の言葉は部下達にも届いたらしく
水郷はやれやれと部下達を追い払った

部屋の中に立ち込める臭いは
死臭とも異臭とも取れる臭いで
その中で人が二人普通に居られる事自体が
不思議な光景だ
中央に置かれた塊は
昨夜の被害者…腹を裂かれた商人…
発見された時に刺さっていた小太刀も
共に傍らに置いてあった
「もうナカはご覧になれますけど…どちらさんかは分からないのですが…開いてくれてましたんで」
御津は真剣に…でも少し冗談交じりに水郷へソレを見るように進めた
「御奉行様的にどうでしょう…やはり「ホタル」なのですかね」


「フン…」
水郷は腹を裂かれたその者に目を落とし
それだけ洩らすと小太刀に目を向けた
「水郷さん?」
彼自信気がつかない間かなりその小太刀を見つめていたらしい…
御津は我に返った水郷を確認すると
「縫合をしてもいいですか?」と意見を求める
…と、水郷はただ頷くだけでその事を了承した
御津はテキパキとその準備をして
作業に取り掛かる
それを見守る水郷…
しばらく御津の手際の良さに関心しながら
ある程度まで来て水郷は彼に質問を始めた
「御津…気がついた事を話せ」
御津は薄っすらと掻いた汗を
手ぬぐいで拭いながら
その質問への答えを頭の中で巡らせ
答えを彼へ返した
「そうですね…腹には何もなかったですよ」
「と言っても腸とか内臓はあるんですけど^^;何て言うんですかね…」
「あそこまで派手にしてある割には…何も変わった所は無いっていうか」
う〜んと唸りながら一番分かりやすく通じる様にと
御津はその事を伝えた
水郷はそれを無言で受け止めて
御津からの次を待っているようだった
「フフフ^^聞きたい事とは違いましたか?」
御津は血がこびり付いた白衣を脱ぎながら
身なりを整えて水郷の前に座り笑顔でそう言った
フフっと一緒に笑ってやる水郷…
その事で張り詰めていた空気がフッと軽くなった気がした
「またですね…」
眉を顰めて御津が口をついた
「左の眼球が抜き取られていましたよ」
「…以前からのと同じで、綺麗に…」
以前からの…というのは
今まで「ホタル」に襲われたとされる遺体のモノだろう
御津はその事にため息を洩らして
それから深く息をつく
「すみません^^;ちょっと疲れたみたいです」
その言葉には色々な事が含まれているとも受け止められた
水郷は御津の言葉に満足をしたのか
「わざわざいつもすまないな」というと彼にも開放を言い放った


部屋に御津を残して先にその場を立った水郷
彼はそこから
役人達が屯する方へと歩き出した
そこは役所の中の人という人が集まる場所で
ガヤガヤと五月蝿く溢れていた
そこに水郷は入ると
役人達の中でも頭になる者を呼び
そっと耳打ちをした

「ホタルを見たものよ…ここになおれ…」
そう言い放たれた部屋の中から
一人の男が水郷の前へと現れた
その男はオロオロとした態度で落ち着かないといった感じ
それは元々のモノではなく、水郷という男の前に居る
その為のモノのように思えた
「お前が『ホタル』を見たのだな…」
水郷は低く擦れる声で男に話しかけた
それから男は
その見た「ホタル」の事を根掘り葉掘りと聞かれる事になる

それから少し経ち
奉行所の前には新しい奉行板が立てられた
そこには「ホタル」の
今までの事件の事と
「ホタル」自信の事が書かれていた…
壱百八拾くらいの背丈で結構なガ体
髪は短く闇に溶ける…と


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