◆契約◆
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ガシャンガシャンと何かの交わる音が響く暗闇 そこに小さな…ほんの数ミリしか開いてない位の小さな穴が見える 僕は必死にその穴を覗き込もうとする 何度も何度もそれを覗くけれど、僕の目には何も映らない ただ眩しい…そんな感覚 暫くするとその穴は更に小さくなって消えた 慌しい、耳障りな音は消え去り 静寂に包まれて暗闇は僕に安らぎをくれる 闇に溶け込んでいく感じ それがこんなに心地よいものだなんて…言っていなかったなぁ… あの人意外 『コレで君も一緒に行けるね……ちて…一緒に…お…て』 「なりません…」 言葉が辺りに響いた 言葉が紡がれた先を見ると 目が眩むほどの光に溢れ、その姿を確認する事は出来ない 「新しき翼達よ…惑わされてはいけない…それだけがここで生きていく全て」 僕は自分の周りを確認する 幾人もの僕と同じ姿をした人達が溢れていた 『新しき翼達』 とは僕達の事を言っているんだ…僕はどうしてここに居るんだろう… 「…っ!!」 背中に激痛が走った… 「迷いを持ってはいけない…貴方達は…天使」 僕は見透かされたかの様にその言葉を胸に受けた 「天に使えるのです…惑わしに心強く持ち、迷いは貴方達の中に無い…」 「そして、闇に影に入ってはなりません」 何故…? 僕は再度激痛に襲われた…けれどその想いは拭えなかった 「さぁ…往きなさい、神の御心のままに…」 痛みを隠しながら…その場から流れ始めた波にのり 僕もこの場から去った 外に出ると建物やその他のもの全てが眩しい位白く、清らか…という言葉を連想させた が所々に影が差し込み闇が出来ている… さっきの人やあの話はなんだったのだろう… また少し背が疼いたが、なんとか大丈夫の様だ トンッ 後ろから肩を叩かれて、僕はフワッと振り返った 不思議な感覚だった…僕は、天使か…翼が身体を支えていた 振り返ったソコには男…?が立ってる 「それは不適切だね…でも嘘でもない」 心を読まれてる…そう思うしかなかった 「読んではいないよ…聞こえるんだ」 彼…そう呼んでも支障はないだろう 彼は珍しい者を見るかの様に僕を見ている 「貴方は…なに?」 別に口にしなくてもよかったかも…と思いながらも 一応問いかけてみた 「苦しそうだったから…気になってね」 「でもちゃんと飛べる様だし大丈夫みたいだね」 ニコッと笑った彼をじっくりと見つめる 見るからの佇まいでは結構偉い人なのかもしれない… そう、思わせた 「ちょっと話をしないかい?…新しき翼と話をしてみたいんだ」 変わった奴だ…と思った 偉い奴って言うのは下の者とは関わりたくないものじゃぁ… 「それは人の世界では大多数を占めるね」 また心を読まれた…いや聞いたのか 「君は珍しいよ…過去の記憶がある…そして自我もね」 「正直に言うと、君と話がしたいんだよ」 またニコッと笑う…不思議な人・・・いや、天使だ 「話をすると言っても…何を話せばいいのか…」 『大丈夫』 そう言うと、彼は僕の手を引いて歩きだした 彼の背中を歩く僕は 彼の翼を見つめていた…大きくて…微かに香りがした 確かどこかで嗅いだ事のある香り…思い出せない ッ!! 背中が軋んだ…何なんだ、僕の身体は ニコニコとした彼は僕の手を引いたまま、かなり歩いた そして日陰を見つけると そこに腰掛けて僕もそれに倣った 「ここなら涼しいし…ユックリ話せるよね」 「いい所だと思う…けど誰もいないな」 僕は素直に思った事を言った というか…こういう雰囲気がなんだか苦手だ 「フフ…まぁいいじゃないか」 この男は不思議だ…そればかりが頭を巡った 日陰に入って落ち着くと 僕は彼の顔を見た 影が落ちたその顔はどこか怪しげで美しかった… 「ありがとう…フフッ、君も可愛いよ?」 !!…僕は思わず真っ赤になってしまった なんなんだ…この変な会話は 「ははは…正直な気持ちさ」 そう言うと彼はウィンクを投げた 僕は顔の火照りが気になりうずくまった 「色々質問してもいいかな?…話がしたいって言ってここまで連れてきたんだしね」 コクンと僕は頷いて、彼の言葉を待った 「君はいつ気が付いた?」 質問の内容が掴めなかった いつ気が付いた…とは何に対してだろう 「フフ…君はやっぱり」 彼はそう言うと後ろ手に自らの羽を一つ引き抜いた それを僕の前に差し出すと 「君の瞳にコレはどう映るだろう」 さっきから彼の言っている事がわからなかった けれどやはり彼の事が美しいと思った 「今から君の瞳に映るものは真実かな?」 そう言うと彼は手にしていた羽を僕の手のひらに載せ それを僕に強く握らすと 握った手に口付けをした 手に生暖かい…ヌルッとした感触が伝わる 僕はその感触を楽しんでいた 目の前の彼は僕の握った手から溢れ流れる何かを 僕の指と共に舐めている 「ワタシは思うんだよ…君はここに居るべきじゃないって」 そう言うと ニヤッと笑って僕の背中に手を伸ばした 翼を探り当てると 彼はそれを強く引っ張った 「い・・・ったい」 「痛いよね…でも君にはこれは似合わない」 その時、僕の瞳に映った彼の翼は真紅とも漆黒とも見える翼だった 彼は僕の翼から手を離すと 次に僕の髪を後ろへ掴み僕の顔を上にする 「あんた…は、きれいだよ」 僕は自分の置かれている状況の把握より 今はコレを伝えなくてはと思った… 本当に綺麗だ…僕は…ぼくは 「君もさ…ワタシの目に狂いはないね」 フフっと笑うと 彼は僕の顔に覆いかぶさり瞳を舐め上げた ヌルッとした不思議な感覚に ゾクッとした…けれどなんどもされる内に快感になる 僕は彼の腕にしがみ付いた 「綺麗な瞳だ…」 僕の意識は朦朧としてその言葉もまともになど聴いていない 「契約をしよう…ワタシと君はこれからずっと一緒だ…」 「君にはワタシが必要なんだ…ワタシ無しでは生きられないよ」 その言葉が僕に染み渡る… 「必要ないものは取り去ろう…そして君はワタシと堕ちるんだ」 「ワタシと一緒に…堕ちていく」 その言葉と同時にブチッと何かかが切れる音がした 彼の舌が僕の瞳を這っていて…それから… そして僕の瞳は光を失った 不思議だった…苦しくもなくただそこに 彼の温もりが広がっていて それが暗闇で…心地よくて 背中の痛みもなくて…そして彼の香りが… そう…凝り固まった血液の…濃厚な香り それに包まれて僕は堕ちていった… そして彼の言葉 『契約成立…だね』 END |