「剣の翼と魔の翼の話」 ―――ここは天界 山よりも 雲よりも高い場所にある もう一つの世界 そこは 背に翼のある人達が住む すなわち神の国でした そして そこに一人の翼人の少女がいました このお話は その少女にまつわる 悲しい物語です・・・ 少女は名を『アメリア』といいました 彼女は明るく 面倒見がよく さらに予知夢をたまに見ることができ 大人にも 子供達にも慕われる少女だったのです 「アメリアお姉ちゃん お話しして〜」 「アメリアお姉ちゃん お花の冠つくって〜」 「アメリアお姉ちゃん 一緒にかくれんぼしよ〜」 彼女は街の真ん中にある公園で 子供達の世話をするのが日課でした 人気者の彼女は 子供達のいろんな催促で引っ張りだこです でも 彼女はそんな子供達のことを 決して疎ましがったりはしませんでした 彼女は  とても優しい少女だったのです そんなある日 少女は夢を見ました それはとても恐ろしい夢です 少女は夢の中で――― 怪物になりました 夜の街を 怪物は滑るように動きます 後ろから聞こえてくるのは 街を守る自警団の叫び 「逃がすなっ!」 とか 「回り込めっ!」 など たくさんの叫びが聞こえます 怪物は それを聞いてニヤリ と笑います 怪物は決して捕まりません 大事に抱えているのは 先ほどつかまえたばかりの獲物 捕まえるときにすでに殺しておいたので 暴れもせず 逃げる邪魔にもなりません ――追っ手も完全に撒き 怪物はようやく動きを止めました そして 抱えている今日の獲物をよく見ます 子供でした 目を完全に見開き 舌をだらんと だらしなく垂らして死んでいます その子供の顔には 見覚えがありました 少女は叫びました ですが “中"でいくら叫んでも 怪物は止まりません 口を大きく開け 子供を頭から・・・ ――長い悪夢が終わり 少女は目覚めました 時は早朝 朝日が窓から射し込んできます 少女は汗にまみれた体を拭こうともせず ただ中空を眺めていました その日 少女はいつも通り公園へ行きました そして いつも通り子供達と一緒に遊びます いつも通りの光景・・・ ですが 少女はいつもより違和感を感じました いつも遊んでいる子供の数が 一人だけ 足りません いつも少女や同じ歳の子供を困らせ はしゃぎ回っているやんちゃ坊主が 一人だけ――― 少女は 子供達に尋ねました 「クリス君は・・・どうしたの?」 女の子が答えます 「さそったんだけど いなかったの」 他の男の子が言います 「クリスの家に行ったらね お母さんが泣いてたの」 他の女の子が言います 「どうしていなくなっちゃったの・・・って 泣いてた」 少女の顔が みるみるうちに青ざめていきます 昨晩の夢が 頭の中をよぎりました 少女の明らかな異変に 子供達が心配そうに声をかけます 少女は子供達の頭をなでながら 言いました 「大丈夫よ うん・・・ 大丈夫」 その日の夕方 少女は恋人の家に行きました 少女の恋人は 街の自警団員をやっています 彼なら もし街に何か異変が起こっているのなら 知っているはずでした 「昨日・・・ 街で何か起こったの?」 来るなりそんな質問をぶつけてくる少女に 恋人は驚きました 最初は黙っていた恋人でしたが 少女がすがるように何度も聞いてくるので しぶしぶそれを口にしました 「街に・・・ 化け物がでたんだ」 「被害者は幼い子供だった 父親との外出の帰りの夜 その子供は父親の目の前でさらわれた 後になって発見された時には 無惨な姿になっていた・・・」 そこでいったん言葉を切り 少女の様子をチラと見て また語り始めました 「父親は眼球をえぐりとばされている 幸い命に別状はなかったが まだ話ができる状態じゃない・・・ 偶然近くで目撃した男性によると 一瞬の出来事で 姿形ははっきりと見えなかったそうだ」 恋人は淡々と語ります 少女は口を挟まず 黙って恋人の話を聞いていました 「でも 子供をあんな殺し方ができるのは化け物しかいない・・・ 君も 一人歩きをするときは十分に気をつけてくれよ」 少女は 終始黙ったままでした その晩 少女はまた 夢を見ました その日も怪物になった少女は 追っ手に追われながら夜の街を走り抜けます 腕の中の獲物が動きました 今日はまだ 殺していません 生きたまま・・・するのは どんな感じだろうと思ったからです 怪物は走りに走り 街の十字路にでました 十字路の真ん中に立った怪物が 月明かりに照らされます 腕の中の獲物が動き 怪物の姿を見ました 月明かりに照らされた怪物を見た獲物は こう言いました 「アメリア・・・お姉ちゃん」 怪物はふと動きを止め しばし考えました 聞いたことがある気がする・・・ 誰の名前だろう? と その時 後ろで声があがりました 「見つけたぞっ!化け物め!」 その声にも 聞き覚えがありました 「その子を・・・放せぇぇぇっ!」 ――身体を冷たい物が通り抜けました 一瞬小さく 何かが壊れた音が響き その何かが地面に落ちました 怪物は獲物を地面に落とします 獲物は小さく「キャッ!」と叫びました 怪物は自分の胸を見ます 胸から 剣の先が飛び出していました イタイ・・・ そう感じた瞬間  怪物の胸と背中から赤い物が たくさん たくさん 飛び出しました 胸から飛び出した赤い物は 地面を汚し  背中からでた赤い物は 怪物の背に生える翼を真っ赤に染め上げました 怪物は 逃げました ふと気づけば 見覚えのある家にいました 見覚えのある椅子 見覚えのある壁掛け 見覚えのある――鏡 そこに映った自分の姿を 見ました 見覚えのある少女の姿が そこにありました ――怪物ではありませんでした  でも 剣が突き刺さっていました 夢なんかでは・・・ なかったのです 次の日 恋人は少女の家を訪れました 少女の家の玄関の扉を 勢いよく開けます 「聞いてくれアメリア!俺 怪物を撃退したんだ!街を守ったんだ!」 廊下を突き進み 第二の扉を開けます 「自警団長からほめられてさ! 明日には勲章も届くんだぜ! すごいだろ!?」 ダイニングルームをわたり 少女の寝室の扉を開けます 「・・・・・・・・・・アメリア?」 恋人は しばらく“それ"を眺めて ようやく異変に気づきました 少女は ベットに抱きつくように寝ていました 背中に剣を突き立てて 真っ白だった翼を真っ赤に染めて・・・ まるで 全てが夢だったことを願うように それにすがるように  恋人は 少女の背中に刺さっている剣に 見覚えがありました そして 昨晩から目に焼き付いて離れない 真っ赤に染まった翼の後ろ姿が 少女のそれと重なりました 「・・・・・・うそ・・・だろ? アメリ・・・ア?」 恋人がベットに駆け寄ります  しかし 少女はすでに冷たくなっていました 「そんな・・・うそだ・・・・うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 恋人の叫びは いつまでもその部屋にこだましました あるところに 科学者がいました その科学者は  付けた者の狂気を解放させて 破壊欲にだけ突き動かされる戦闘マシーンに仕立て上げる 小さな機械を発明しました そしてその小さな機械を 神である翼人に付けて 実験台にしようとした・・・というのは また別のお話です その小さな機械が 少女の翼の付け根についていたかどうかは 定かではありません 狂気に取り憑かれた科学者の愚行は果てしなく それに巻き込まれる犠牲者達もまた 終わりがありません 終