一行の冒険 世界を救いに行こう!番外編 「SEKIRYU and AMERIA」 うららかな昼下がり 日は今や 今日一番高い場所に登り ほぼ真上から一行を見下ろしている 一行は 今とある遺跡の前にいた 森に隠れるように建つ遺跡 ツタやこけが周りにびっしりと巻きつき 生えており 遠目からはまず発見されないだろうという外見だった。 築300年くらいだろうか? 遺跡の扉は閉じられていた 重く 頑強そうな扉が 一行の前に立ちふさがっている 扉には謎の文字がびっしりと書き連ねられており 封印でも施されているかのようだった ワル零「・・・押しても引いても開かないな」 キザノ「どうする?壊してみる?」 扉の前で悪戦苦闘しているキザノが、スピキンに向かって言う スピキン「ふむ・・・しかし無理にこじ開けるというのは・・・」 スピキンが考えようとしたその時 一行の後ろから声が聞こえた ―――こら・・・おいたしちゃダメよ――― 透きとおるような 女性の声だった。 一行はすぐさま振り返る。 そして 硬直した  そこには・・・少女がいた 真っ白なワンピース 背中から生える同色の翼 対照的な黒く長い髪 そして・・・ 胸から突き出た 刃の切っ先 ―――そこは私のお家 悪いけど 壊さないでくれる?――― 少女がにこやかにそう言った。 そのまぶしいくらいの笑顔が 刃を余計に痛々しく感じさせる 少女は低空をふよふよと飛び 一行の前を通り過ぎた 横から見ると、その刃の正体が剣であることが分かった 背中から胸まで、完全に貫通している。 しかし 血の跡は見られない スピキン「ま、待って下さい!」 頑強な扉をすり抜けようとした少女を ようやく我に返ったスピキンが慌てて止める ―――・・・? 何か?――― スピキン「いえ・・・あの・・・ 失礼ですが あなたは一体何者でしょうか?――― 一瞬 仲間の内で 「人様にいったいなんて聞き方してんだよアンタ」 という空気が広がったが スピキンはあえて無視した ―――あなた方 ここがどういう場所なのか 知らないの?――― スピキン「ええ・・・ 私達は偶然ここに来て 遺跡を発見したんです。で、せっかくだから中を調べてみようということになりまして・・・」 これは本当のことだ 半ば迷い込むようにして入った森で やっぱり迷ってしまい 出口を探すために右往左往している内に ここまでたどり着いたのだ ―――ここは “時を紡ぐ者"の神殿  わたしはここで 時を司る者として暮らしているんです――― ミルシィ「ということは・・・ あなたは 時の聖獣王様でしょうか?」 ミルシィが前に進み出ていった。しかし少女はきょとんとした顔で ―――聖獣王というのは 存在する八つの属性を司る生物で それぞれ最も強いものに与えられる称号のこと・・・ 時は属性ではありませんよ――― 少女は微笑みながらそう言った。 実にもっともだと思う ―――それじゃ――― と言って 再び扉を通り抜けようとした少女を、またしてもスピキンが「待って下さい!」と言って止めた スピキン「私達と 一緒に来てもらえませんか?」 ここでまた 仲間の内で「急に何言いだすんだよアンタ」という空気が広がったが スピキンはまたしても無視した ―――・・・はい?――― 少女の方も よくわからないといった風で 聞き返してくる スピキン「私達は今 世界を救う旅をしているのです・・・」 スピキン「・・・という訳なんです」 今まで何をやって来たかを熱心に話すスピキンに 少女は ―――・・・はぁ――― といった感じで相づちを打っている ―――それで 何故私を・・・?――― スピキン「今この場所にはいませんが 私達の仲間には『カレア』という 時魔法を使う女性がいるのです」 ―――え・・・・・・――― スピキン「できれば 彼女に会っていただき あなたの時に関する知識を 彼女に教えて欲しいです」 仲間の内で 「ああ なるほどそういう訳か」と漏らす者が居た ―――確かに・・・ 彼女にとってそれは有益なことになるかもしれませんが・・・――― スピキン「それに・・・私達の本職は戦うことです。カレア以外にも 時の魔法を使う者がでるかもしれない・・・」 スピキンの話は さらに続いた スピキン「あなたが来てくれれば そういった敵にも対処しうるのです 御願いできませんか?」 少女は 少し迷う素振りを見せ しばらくして 顔を上げて言った ―――では私に “もしかしたら必要になるかもしれないから"程度の理由で ついてこいと?――― その言葉に スピキンは何か言いかけたが すぐに口をつぐんだ 確かに事実だったからだ ―――そんな理由では・・・・・・と言いたいところですけど――― スピキン「え・・・?」 ―――あなた方の言う“世界を救う旅に"少し興味がわきました。 ですから・・・――― 少女が手を叩いて ―――おいで わんわん――― と言った その瞬間 上空から 落下物があった。 一行はとっさに散らばってその落下物との激突を避ける 落下してきた“それ"は 巨大な狼だった ―――世界を救うというのは、並大抵の強さではできない所行。生半可な実力でそれをやろうとすれば どこかで必ず誰かが悲しむことになる・・・――― 巨大な狼が唸り始めた 少女はふよふよと上空に上がる ―――だから 私が試します。あなた方がそれを為すに相応しい実力かどうかを・・・ このコに勝つことができれば 私はあなた方について行くなり何なりとしましょう――― 言い終わった瞬間 巨大な狼が猛然と飛びかかってきた 一行は瞬時に戦闘態勢をとる・・・ 長い戦いは終わり 巨大な狼はおとなしくなって 尻尾を股に挟んで小さくなった 狼は所々ケガをしているが 致命傷になるような傷は一つも受けていない ―――このコを殺そうとは しなかったのですね――― 少女が ふよふよと降りてきた スピキン「『勝つことができれば』と言われただけで 『殺すことができれば』とは言われてませんからね」 少女は黙ってうつむいた 心なしか 笑っているようにも見えた ―――合格です。 約束通り あなた方と“契約"します――― 顔を上げ 少女が言った ・・・やさしく まぶしい笑顔だった ここはミルシィの“中" ミルシィと契約を結んだ召喚獣達が待機している場所 周りは薄いピンク色のヴェールがかかったような光景で 何もないが どこか心地よい 今までに契約した召喚獣達で賑わうその場所に 新たな仲間が訪れた 少女の名は『アメリア』というらしい 以前は神の国にすむ翼人だったそうだ いろんな召喚獣に囲まれ 自己紹介をしている少女を 遠くから眺めている者が居た 巨大な体に それに見合う巨大な翼を持つ竜 赤竜である 少女に話しかけるでもなく ボーっと眺めている赤竜に 水の聖獣王ヴァレイラルが近づいてきた ―――・・・ドウシタ?奴ガソンナニ気ニナルカ・・・?――― ―――いや・・・――― それだけ言うと、赤竜は少女から視線を外した ―――神も 変わった巡り合わせをするものだ・・・と思っただけだ――― 赤竜は歩き出して、ヴァレイラルから離れていった 残されたヴァレイラルは 頭に?マークを浮かべて ―――ヨクワカラン奴ダ――― と漏らした それから数ヶ月 月日はあっという間に過ぎ 今日は決戦前夜となっていた 一行は明日の朝 蒼古なる魔導師のいる城へと飛び込む 生きて帰れるかどうか 正直わからない 敵はあまりにも強大だ 故に 悔いの残らぬようにしておく必要がある 赤竜は ミルシィに頼み アメリアと二人っきりになれる場所を設けてもらった 赤竜が言うには ―――大事な話がある――― との事だった 場所は崖の上 眼下には森が広がり 満月には少々足りないいびつな月がそれを見下ろしている 星が輝く 美しい夜だった ―――話って・・・?――― 少女が言った。 赤竜は少女を見ず 崖の上から月を見ている ―――お前の恋人・・・ “クレイド"といったか――― 唐突に、赤竜はそう言った 少女の目が驚きに見開かれる ―――どうして・・・その名を・・・?――― ―――・・・・・・・話しておこう。 その男について 私が知っている 全てを――― 時は 気の遠くなるような昔の話 アメリアの恋人 クレイドは自責の念に押しつぶされそうだった 彼は 恋人のアメリアを 殺してしまった・・・ それは あまりにも非道い 事故だったとしか言いようがない 彼は自警団員として当然の事をしたに過ぎない 街に怪物が現れ 彼はそれを殺した。 怪物の正体は 謎の理由で発狂したアメリアだった ただ・・・それだけのこと しかし 自らの恋人を その手で殺してしまったというのは まぎれもない事実 彼女を救いたい・・・ それだけが クレイドの願いだった 自らの願いを本物にするために クレイドは竜のもとを訪ねた 竜の力は凄まじい その力は 時として神をも越えると言われている クレイドは 竜の前にいた 目の前に横たわり眠っているのは まぎれもないこの世界最強の竜 当時の火の聖獣王 名を“焔竜(えんりゅう)"といった クレイド「焔竜よ!そなたに 俺の願いを叶えてもらいたい!聞いてはもらえないか!」 若者は叫んだ。 焔竜はゆっくりとその長い首を上げる ―――翼人の若者・・・ いったいこのワシに何用か――― 貫禄のある 渋めの声が竜の巣の中に響いた その声色だけで 圧倒されそうになる クレイド「俺の恋人・・・アメリアを生き返してもらいたい」 ―――若者よ 翼人とは死んでもまた転生できるということを 知らぬのか?――― 翼人・・・すなわち神は 肉体が死に至るような傷を受けても 魂は消えず  霊界に行き 生前の罪を償えば またこの世に転生することができる それは普通の人間も同じ事だが 人間はまた別の生き物に転生する。 翼人は 生前の姿形そのままで転生するのだ クレイド「それは知っている・・・ だが 霊界で罪を償うのは 地獄の責め苦と聞いている・・・  彼女は俺のせいで死んでしまった・・・ それなのに さらに地獄の責め苦を味わうというのは あまりに酷すぎる!」 ―――子供を殺し その肉を喰らうという行為は 地獄の責め苦を受けるに値するほどのことだと思うが?――― その言葉に、クレイドは絶句する。 一つは焔竜が彼女のしたことを知っていたことに対して もう一つは彼女がそのようなことをしていたという事実を 改めて突きつけられたことに対して・・・ クレイド「・・・あれは何かの間違いなんだ! 彼女は優しい・・・優しすぎる・・・ そんなアメリアが あんな事をできるはずが・・・」 ―――・・・・・・・・・・――― クレイド「・・・・・おねがいだ・・・ 彼女を助けてやってくれ 俺の身は どうなってもかまわない・・・ たのむ・・・」 焔竜の眉が 少し動いた ―――アメリアとやらを助けるために お前のその身が どうなってもかまわない・・と?――― クレイドは頷く その目は一点の曇りもなく まるで少年のように澄んでいた それは 何の迷いも持っていない者の証明 ―――・・・いいだろう 助けるというのは アメリアに責め苦を受けることなく すぐさま転生させるということでよいのか?――― クレイドの表情が輝いた その目には 涙すら浮かんでいる 焔竜が吼えた その身体が光り輝き 一つの光体がそこからでていく・・・ その小さな光体は 光の帯を残して 一瞬のうちにどこかへ飛び去ってしまった 光が治まる・・・ そこに焔竜はいた ―――これで お前の願いは成就された。 代わりに・・・――― クレイドは覚悟を決めていた。 言うなれば 男の言葉に二言はないといった決意の表情だ 願いは成就された。 ならば もう悔いはない たとえ この身がどうなろうとも・・・   ―――ワシの我侭(わがまま)を 聞いてくれ・・・――― 今度は クレイドの身体が光り出した あまりのまぶしさに目をつぶってしまうほどの光が クレイドの身体をすっぽりと包んでしまう 光は徐々に大きくなり 一つの形を作っていった 人間ではなかった。 光が作るその形は 巨大だった 最後にひとしきり輝いた後 光が徐々に治まる 目を開けると クレイドは自らの身体を見て驚嘆した 赤い身体だった。 目の前の焔竜と同じように 鳥のそれとは違う コウモリのような翼になっていた。 目の前の焔竜と同じように 鋭い牙と爪が生えていた。 目の前の焔竜と同じように 長い尻尾があった。 目の前の焔竜と同じように ―――実を言うと ワシはもう長くはない・・・ だが ワシの跡取りはいないのだ・・・――― 焔竜は大きく息を吐いた。 その姿には 確かに若々しさは感じられない ―――竜には 使命がある。 その力を持って 神々の勝手な横暴を許さぬよう 見張る必要があるのだ・・・ 竜はそのため 強大な力を持っている――― そして 目の前の赤き竜に向かって 言った ―――クレイドよ お前にはワシの代わりを果たしてもらいたい 最強の竜として 新たな火の聖獣王として この世に君臨してもらいたい――― クレイドは ただ呆然と焔竜の話を聞いていた。 自らの運命を見つめ直すことも忘れ ただ聞き入っていた ―――お前は これから“赤竜"と名乗るのだ・・・――― ―――私・・・いや“俺"はその後 何百年 何千年と生きてきた クレイドではなく 『赤竜』として・・・――― 少女は 赤竜が淡々と話すその様を 黙って聞いていた ―――信じてくれとは・・・言わないが――― 赤竜は小さく言う。 しかし 彼女の答えは意外なものだった ―――・・・信じない理由なんて・・・ないわ――― 少女が ゆっくり ゆっくりと歩いてきた そして・・・ ―――あ・・・・・・・――― 少女は気づいた。 赤竜も気づいた。 どうしようもない事実に 越えられない巨大な壁の存在に・・・ ―――私には・・・愛しい者をその手に確かめることすら・・・できない・・・――― 少女の胸には 今だ鈍い光沢を放つ剣が あった もし このまま抱きしめようとしたら その結果どうなってしまうだろう? その剣は 転生してもなお 少女が自分の罪を悔やんできた証し ―――私の犯した罪は・・・ これほど重いものだったのね・・・――― 少女が自分の罪を確認するため 口に出した言葉は 同時に赤竜の心を酷くえぐっていった その剣を刺したのは まぎれもない自分 遠い昔のことだが 今でもはっきりと思い出せた 貫いた感触 白い翼が赤く染まっていく光景  眠るように死んでいた少女 ―――その剣・・・俺が取り払ってやろう――― 少女がビクッと 顔を上げた ―――竜としての力を使えば・・・その剣を取り除くことも できるはずだ――― しかし 少女は見抜いた ―――そうして・・・ 私を一人にするの?――― ―――・・・!――― 転生してもなお残り続けるほどの傷 それは決して軽いものではない ましてや 少女は霊界で罪を償ってはいない その剣に残る罪は計り知れないほどのものだ たとえ 竜の力を全て使い切ったとしても 消えるかどうかわからない ―――幸せなんかいらない・・・ 私のために 消えないで・・・――― 少女の瞳から 大粒の涙がこぼれた ―――私を・・・孤独にしないで・・・――― しかし 悲しみを訴えるため 抱きつくことも許されぬ ―――貴方さえいてくれれば それでいい・・・ 私は他に 何も望まないから・・・――― 月を見上げる赤き竜に 身を寄せることだけが 少女にできる唯一のこと ―――おねがい・・・――― 嗚咽混じりの 途切れ途切れのそのセリフを 赤竜は黙って聞いていた 彼女の願いを己の心に刻みつけるために 夜は ただ更けていく・・・ ――それから 数年が経った ミルシィが召喚術を使えない身体となってしまい 召喚獣達は自由の身となった ある者は彼女の元へと残り ある者は自らの居場所へと戻っていった・・・ そして 赤竜とアメリアは・・・ 二人は 崖の上にいた 時は夕方 オレンジ色の光が眼下の森を覆い 鳥達は来るべく夜に備えて巣へと戻っていく 場所はまったく違うはずだが そこはいつかの夜と酷似していた・・・ 二人は並んで座り 落ちる夕日をじっと見つめている・・・ ―――貴方は・・・これからどうするの?――― 先に口を開いたのは アメリアだった ―――ん・・・ 竜の谷へと帰るつもりだ。火の聖獣王としての使命もある・・・――― ―――そう・・・・――― 少女は立ち上がった。 黒い髪が美しく揺れる ―――それじゃ・・・   ここでお別れね――― その言葉に 赤竜は驚き 少女を見た 少女は穏やかに微笑んでいる ―――共に・・・来てはくれないのか?――― 少女がそんなことを言うなど 思っても見なかった 故に そう聞かずにはいられなかった 少女は “それ"を口にした ―――私・・・時々生前の後遺症で 怪物になっちゃう時があるでしょ?――― ・・・アメリアは とある事情で時々怪物のような力を発揮し 目にうつる全ての者を攻撃する・・・というある種の発作じみたものを背負っている ミルシィ等は知らないが “中"で時折 いきなり怪物となって暴れ始めることがあった 発作は数時間で治まるが その間のアメリアは恐ろしく強く 召喚獣全員で彼女を取り押さえなければならなかった ―――私ね・・・知ってるんだ。 発作の後 貴方がみんなに責められてるの・・・――― 召喚獣としては対して役にも立たないのに 人一倍皆に迷惑をかける彼女を 疎ましく思うものは決して少なくなかった 彼女を追い出そうと皆が思う前に いつも赤竜は何度も頭を下げて 皆に納得してもらっていたのだ・・・ ―――私がいるせいで・・・貴方まで皆から疎ましがられていた・・・ 私には それはもう我慢できないことなの・・・――― 少女が一歩 後ろへ下がった ―――だからね・・・もうここで・・・お別れ――― 少女が悲しい笑みを見せる 赤竜は胸に重りを入れられたように 急に苦しくなった ―――だから・・・私は消えることにしたの――― ―――なっ・・・ ま まさか! 君は・・・――― 少女はゆっくりと頷く ―――私・・・“消滅"することにした。 貴方を私という鎖から解き放つために――― 消滅・・・ それは 安息を永遠に得ることができない 神々が作った唯一の自由 普通の死とは違い 自ら魂まで消滅させ 文字通りこの世から消えること そうなってしまってはもう どんな魔法を使っても 生き返らせることはできない ―――アッ・・・ アメリアッ!そんなことが・・・許されると思っているのか!?――― 赤竜は声を張り上げる 眼下の森に届くかと思われるほどの音声だ ―――君は俺に言ったじゃないか!ずっと一緒にいてくれと・・・ 君は 自分からそう言っておきながら それを破るのか!?――― ―――ごめんなさい・・・――― 少女の瞳から あの時と同じ 大粒の涙がこぼれた ―――ごめんなさい・・・ でも もう嫌なの・・・ 貴方の側にいて 貴方の迷惑になることが・・・――― ―――迷惑なわけ・・・!――― 言いながら 赤竜は必至に探す 彼女がここにいてもいい 意味を でも 思いつかなかった。 自分の愛しい思いだけが残り 彼女の行為を止めるための決定的な理由が 赤竜には思い浮かばなかった そんな自分に 底知れぬ怒りを感じた時 目の前の少女が ふわ・・っと 飛んだ 赤竜の顔と同じ高さまで上がり 頬に両手を添えて・・・ そっと唇を 重ねた それはほんの一瞬のことだった 気がつけば少女は目の前にいた そして・・・言った ―――ありがとう・・・そして・・・さよなら――― それは感謝の言葉 そして 別れの言葉 ―――私は・・・ いつも貴方の心の中にいます・・・――― 笑顔 その笑顔ほど 赤竜にとって痛いものはなかった 彼女の姿が ぼやけ始める・・・ やがて 足先から光の粒子となって 虚空へと消え始める ゆっくり・・・ ゆっくり・・・と 赤竜は それを見ていた・・・ 見ていることしかできなかった いっそ 一気に消えてしまってくれたら どんなによいだろう 彼女は終始笑顔のまま わずかな余韻さえ残さずに 消えていった 赤竜は 何もない空間を ひたすら凝視している ―――アメリ・・・ア――― 赤竜の心のダムにひびが入り それは一瞬の後 決壊した ―――アメリアァァァァァァァァァァァッ!!!――― 瞳から大粒の涙が溢れる 竜になって数千年 一度たりとも流したことのなかった涙が 遂に流れた 赤竜は叫ぶ 息が続かなくなっても 心の中で叫んだ 彼の求めるただ一人に人はもう いない 彼は・・・孤独だった 彼の悲しみは凄まじいものだった 同時に 自分への怒りは底知れぬものだった しかし 真に悲しきことは 彼が 本当の敵を知らない・・・ということだった 事の始まりは 一人の男にあった その男が起こした愚行により 少女は怪物となり 結果 アメリアは消滅し クレイドは孤独となった 真の敵を知れば それに怒りをぶつけることもできただろう 憎しみを込めることもできただろう だが 彼らは知らなかった 起こった罪を 悔やみながら生きることしかできなかった・・・ しかし その悲しみは いつまでも続かなかったのだ 時はさらに100年経ち 赤竜は 新たな仲間と旅をした そして・・・出会った 暗い部屋 わずかにつけられた照明が 部屋に光を灯そうと努力するが 弱々しい光は 部屋を完全に照らすことなど出来はしなかった 巨大なカプセルが立ち並び その中には異形の生物が浮かべられている ―――貴様が・・・やったというのか――― 赤竜は今や 完全に頭に血が上っていた 自らにしか向けられなかった底知れぬ怒りが 初めて他者へと向けられている ???「アハハ・・・だから言ってるでしょ?『そうだ』って・・・ で? どうするの?」 少年のような外見をした男は 高らかにそう言った ―――二度と私達のような犠牲者がでないように・・・貴様は絶対に・・殺す!――― 赤竜は そう宣言した それは誓いでもあった ???「いいよ 殺せるものなら・・・殺してみるんだな!」 男が小さな注射器を手に取り それを無造作に自分の手に注入した 男の身体がビクンとうねる みるみるうちに 男の身体は異形と化していった 禍々しい角が生えた人狼 そう表現することが一番近い・・・と思われる 戦いは 熾烈を極めた 異形の力は尋常ではなかった 正直 赤竜一人では太刀打ちできなかっただろう 勝負にすら ならなかったかもしれない 赤竜は 一緒に戦っている仲間に感謝した ここまで戦って来れたのも 彼らのおかげだ 彼らのおかげ・・・ ならば その恩に報いねばならない 赤竜は 賭けにでた ―――うおおおおおおおおおお!!!――― 猛然と飛びかかり 異形を羽交い締めにする ???「な・・・なにっ!?は はなせぇっ!」 異形が暴れ狂う しかし 赤竜は絶対に放さない ―――いまだ! 私もろともでかまわん!やれっ!――― 赤竜が仲間に向かって叫んだ しかし 仲間はうろたえるばかり ―――早く・・・しろっ! やらねば・・・私は一生お前を恨むぞ!――― 仲間に捧げたい 勝利 そして 自分の復讐の終結 仲間が叫んだ 意味を為さない叫びを上げながら 仲間は刀を思いっきり振るう それによって 衝撃波が生まれた 飛来した衝撃波は 狙いを過たず 赤竜と異形を貫いた 痛みは 無かった・・・ 気がつくと 花畑にいた 見渡す限りの一面の花 緩やかに流れ 頬をなでるそよ風が心地よい ―――ここは・・・いったい・・・私は・・・確か――― お花畑に ぽつんと立っている自分がいる 何があったか必至に思い出そうとするが 急に疲れを感じた 何があったかなんてもうどうでもいい ただ 休みたかった 身体に疲れが異常に溜まっている 立っていることも辛いので そこに寝転がった そこで 初めて気がついた 自分は 竜ではない と 数千年前に捨てたはずの 見覚えのある姿になっている 尻尾もなければ 牙も爪もない。 コウモリのようだった翼は 鳥のそれに代わっていた “クレイド"に なっていた 寝転がると 青空が見えた 自分の頭より少し高い花々が 自分を取り囲んでいる。 雲が流れていた 気持ちよかった。何がなんだかわからないが それを考えるのもおっくうだったので とりあえず今は寝ることに専念する 眠気は すぐにやってきた 目をつぶっていると いろんな事が駆けめぐってくる いろいろあった。 ありすぎて 忘れてしまった そよ風が 流れた 花々が一斉に首を傾げる。 自分の前髪が 揺れる ―――こんにちは――― その声に クレイドは飛び起きた 上半身だけ起こし 首を巡らせる 声の主が いた 少女だった 白いワンピース それと同色の白い翼 対照的な黒く長い髪 胸には 刃など無かった ・・・その後の行動は 自分でもよくわからなかった 一瞬で立ち上がり 少女の元へと駆け寄り その手に抱きしめた 手の中に 少女を感じる。 少女の吐息が 首筋にかかった 二人はこれから ゆっくりと 時間をかけて取り戻していくだろう 得られるはずだった 当たり前の幸せを 二人を隔てるものはもう 何もないのだから・・・ 終