「光の翼と闇の翼の話」 そこは 古びた城でした かつては兵士などの人で賑わっていた場所ですが 今はその見る影もありません ほこりが積もり 蜘蛛の巣がそこら中に張り付き 音を立てるものは何一つありません しかし その城のとある部屋に 一人の男がいました しりもちをついたような体勢で 一人ずっと座っています いったいどれくらいの時間そうしていたのでしょう 身体にはほこりが積もり 端整だった顔は頬骨が浮くほどやせこけて にごりきった瞳は 何一つ映していません もうすぐ 飢えと乾きで朽ち果てるでしょう そんなことになっていても 男は物音一つ立てず ずっとそこに座っています 心の中すらも 空白で満ちています 何もせず 何も考えず どうして こんな事になってしまったのか 時は 数ヶ月前にさかのぼります 二人の男がいました 二人は 城の兵士を勤めており 一人は隊長 もう一人はその部下でした しかし 二人は幼き頃からの親友で 階級が上も下も何も関係なく ずっと仲良くやってきました 隊長の名はロア 頭がキレて 的確な作戦と判断でどんなことにも冷静に対処します 銀のメガネがまぶしいです 部下の名前はデニス その剣技は目を見はるものがあり 城の中で一番と言われていました 「ロア!先を越されちまったけど いつかは追いついてやるからな!」 「そうかい?じゃあ僕は剣技の方も君を凌駕して 君の存在価値を無くしてやるよ」 「言ったな〜!コイツ〜」 まるで 子犬のように仲良くケンカをします 城では 二人のそんな掛け合いがいつまでも続いていました 誰よりも信頼できる 友 彼らの絆は もはや家族を越えていました あの 恐ろしい二つの事件を迎える・・・までは ある日 ロアは王様にとある遺跡の調査を命じられました その遺跡は ずいぶん前に発見されたのですが 遺跡の近くに猛毒を持つ植物が群生しており 迂闊に近づくことはできなかったのです しかし最近になって その毒植物は夏の間 その毒性を失うことが発見されました これは好機と見て 王様は遺跡の調査命令を出したのです 古くからある遺跡には 価値のある物がたくさん眠っていることが多いので それが発掘できれば 城はますます発展するでしょう ロアも 一緒に行くことになったデニスも その他の部下達も大いにはりきりました しかし 夏は長いようで短い 作業は急がなくてはなりません そこでロアは 兵達を選りすぐって 少数精鋭で行くことにしました 遺跡は 朽ち果てたものも多く 狭くて大人数では調査できないところも多いのです デニス以下 十数名を連れて ロアは遺跡へと出発しました・・・ 照りつける日差しを遺跡の中でやり過ごし 額に汗を輝かせながら発掘すること数週間 調査は大分終了しました 表の馬車には すでに入りきらないほどの金銀財宝が詰め込まれています 「これだけ成果が上がれば きっと王もお喜びになるに違いない!」 子供のようにデニスがはしゃぎます 「ああ これでますます発展するだろう・・・ 迫る戦争に逃げていった町民達が戻ってくる日も近いかもしれないな」 その時 兵士の一人がロアを呼びに来ました 兵士の話では 奥に 何やら奇妙なものがあるとのことでした 遺跡の一番奥にある部屋・・・そこに足を踏み入れてみると 「こ・・・これは・・・」 ロアは 目の前のものに絶句しました 2本の剣が 向かい合うようにして 台座に刺さっていたのです ただの剣ではありません 一本はまるで太陽のように光り輝いて もう一本は黒く 不気味な光を放っていました 「ロア!来てみろ・・・それぞれの台座に何か書いてあるぞ」 言われて ロアは我に返りデニスの元へと急ぎます 台座に近づいてみてみると・・・ 確かに古代文字で何かが書かれていました 「・・・この文字なら何とか読めるかもしれないな・・・少し待て・・・」 ロアは急いで馬車へ戻り しばらくして一冊の本を抱えて戻ってきました 「役に立つかもしれないと思って 古代文献を持ってきてよかったよ・・・ええと・・・」 パラパラとページを送りながら 台座と本を交互に何度も見ます 「“カノモノニハエイエンナルアラソイヲ"・・・ “彼の者には永遠なる争いを"?」 黒く不気味な光を放っている剣が刺さっている台座には そう書かれていました 「こっちはどうだ?」 続いて 光の剣の方の台座を調べます 「“ソノモノニハコドクナルシヲ"・・・“其の者には孤独なる死を"・・・どういうことだ?」 「・・・いっちょ引き抜いてみるか」 「あっ!おい!」 ロアの制止も間に合わず デニスは光り輝く剣を 一気に引き抜きました 引き抜かれた剣は 急速に光を失って 普通の剣のようになってしまいました 「あれ?」 不思議に思ったデニスは 例しに剣を振ってみました すると 軽く振ったその瞬間だけ 剣が光り輝き 剣に光の軌跡を残しました 「おおっ!」 周りで見物していた兵士から歓声が上がります 「おほっ!すごいぞ この剣!」 嬉しくなって デニスは何度も剣を振ります そのたびに剣は光り輝き いくつもの軌跡を残しました 「これは驚いたな・・・ いったい誰がこんなものを・・・ それとも神の産物だろうか?」 「こっちの剣はどうだ?」 右手に光の剣を持ったまま デニスは黒く光剣の柄を持ちました・・・ 「・・・いでっ!」 まるで感電でもしたかのような音が周りに響き デニスは驚いて柄を放しました 左手が ビリビリと痺れます 周りの兵士がどよめきました 「呪いがかかっているのかもしれない 気をつけろ!」 「イチチ・・」と呟いてデニスは左手をおさえます 「・・・あれ?」 見ると 左手は何ともありませんでした 掌はおろか 革の手袋すら傷一つついていません 「・・・僕がやってみよう」 ロアが 黒い剣に近づきました 「・・・大丈夫か?」 「僕の推測通りなら・・・な」 ロアが台座に近づき その柄に手を掛けました 兵士達が息をのみます・・・ しかし 衝撃は襲ってきませんでした 「むっ!」 一息に ロアは剣を引き抜きました 「おおおおっ!」 兵士達からまた歓声が上がりました 引き抜かれた剣は すぐにその黒さを失い 普通の剣になってしまいました しかし 一振りすると やはり黒い軌跡が残ります 「・・・どういうこと?」 デニスが訝しげに訊いてきました 「おそらく・・・そっちの剣はこの剣と相対しているのだろう」 台座が向き合っていたように 剣同士もまた対照的なものだった 光と闇が反発し合うように 光の剣をもつ者は 闇の剣を手にすることはできないのだ・・・ と ロアは結論づけました デニスは難しい話はよくわからなかったので とりあえず納得しておくことにしました 遺跡の調査は全て終了し 調査団は城へと帰り着きました もうすぐ 夏から秋へと移り変わろうという時期でした 王や兵士達は調査団を喜び迎え 彼らを大いに讃えました 王は 褒美として発見した剣を 二人の使うことを許しました 二つの剣は 見た目が派手だけということもなく 鋭さも他の剣を遙かに凌駕していました 二人の剣の腕もみるみる内に上達し 気がつけば二人は城一番と二番の剣の使い手となっていました 珍しい剣を使う二人の凄腕の騎士 この肩書きが周りの国に広がるのも そう遅くはありませんでした たった一つの遺跡の調査で 二人がいる国は一気に繁栄へと向かいました 周りの国にとっては まさに事件だったのです この二つの剣で 二人が騎士となった その後・・・ 二つ目の事件が 起こります・・・ 全てが崩壊する その引き金となる事件が――― ある日 二人が城の入り口付近で話をしている時 それは聞こえました まるで巨大なハンマーで分厚い壁を叩いたような音が周りに響くと共に 地面が一瞬大きく揺れました 多少のざわめきが聞こえていた城が 一瞬で静まりかえります しかしそれもまた一瞬で 今度はその音についてのざわめきが聞こえ始めました 二人は 同時に顔を見合わせ 頷くと 走り出しました 音がしたと思われる 近隣の森へ・・・ 草木をかき分け デニスはどんどん森へ入っていきます 「気をつけろよ!敵国の砲撃部隊がいるのかもしれない!」 少々遅れながら ロアが後ろから叫びます 「了解!」 言いながら 目の前の草木を手で押し広げます 急に 目の前が開けました 森の真ん中に 広場がありました そこだけ森をくりぬいたかのように 木々が生えておらず 空を拝むことができます そして その広場に・・・ 「・・・ロア!来てみろ!面白いものがあるぞ!」 デニスが叫んだ数瞬後 ロアもその広場に姿を現しました 「こ・・・これは・・・」 目の前には 穴がありました 真新しい土が 草をはねのけて覗いています 深さ2メートルはありました 「これがさっきの音・・・の・・・?」 肩についた葉などを落としながら ゆっくりと穴に近づきます 「覗いてみろ」 デニスがしゃがみ込んで言います ロアもそれに倣って穴の近くにしゃがみ込んで中をのぞき込みました 「・・・・・・・!」 そして 息をのみます・・・ しばらくの間 それに見とれてしまいました 穴の底には 真っ白で まるで光のような翼を背に生やした少女が 眠っていたのです 「おい!しっかりしろ!」 デニスが叫びます しかし 少女は穴の底でピクリとも動きません それじゃあ・・・ということで デニスは小さな石ころを手に取り 少女の頭めがけて落としました 「おっ!おいっ!」 ロアの今回の制止も間に合わず デニスの手から離れた石は 重力の法則にきっちりと従い 少女の頭に命中しました 「いたぁっ!」 石が命中した途端 まるでそれがスイッチだったかのように 少女は跳ね起きました 涙目で頭をさする少女に デニスは手を振ります 「よう だいじょうぶか?」 ぬけぬけとよく言う・・・ロアは内心そう思いながら ヒヤヒヤしていました 古来から 翼を背に生やす者・・・それはすなわち神なのです 罰当たりな行動は 少女が目を覚ましてしまった今 できるだけ謹んでほしい・・・と 切実に思っていました 「寝起きの所悪いけど 君についての事を聞きたい 俺達の城まで来てくれないか?」 「(おっ・・・おいっ!勝手に城に入れるのか!?)」 「(・・・仕方ないだろ 一応身元不明者だし・・・ そういうのは発見し次第城で取り調べって決まりだろ?)」 「(しかし・・・相手はどう見ても普通人じゃないぞ?)」 「(普通人だろうが何だろうが 決まりは決まりだ)」 ロアは 顔を手で押さえて やれやれ・・・という感じに顔を振りました 「あの〜〜・・・」 小声で話している二人に向かって 穴の少女から声が上がりました 「ん?ああ・・・悪い 何かな?」 「とりあえず・・・出してもらえませんか?」 少女を穴から引き上げた二人は そのまま城へと帰り 少女を取調室に招きました 取調室のドアの前には 何人もの兵士達が集まって 中で話していることに耳を傾けています 取調室へ招く途中 少女の翼はとても目立ちました 二人が城へ着いて 取調室に行くまでの間のあっという間に 少女のことは城全体に広まっていました 「で その神々の国から 何らかの事故で君はこの人間界に墜落してきた・・・ これで間違いないね?」 ロアが机に座って 向かいの席の少女に質問します 「はい・・・」 少女の声はひどく落ち込み気味です 壁にもたれかかっているデニスが心配そうにそれを見ていました 「ふむ・・・」 「でも・・・私 帰り方がわからないんです・・・」 少女の話では 次のことがわかっていました 少女は神々の一員であること といっても特別な力は何も持っていない いわゆるヒヨッコであること 人間界には一度も行ったことが無く どこがどこかも 人間界がどういうところであるかすらもわからないということ 探しに来てくれるような 身寄りが一人も居ないこと 名を カルナということ・・・ 「・・・とりあえず 王に報告しよう これからどうするかはそれからだ」 今まで聞いたことをそのまま書いたノートを閉じ それをもってロアが立ち上がります 「えっ・・・あの・・・その・・・私・・・」 「安心していい 王は話の分かる御方だ むやみに君をどうこうしたりはしないって」 デニスが少女の肩にポンと手を置き 優しく言います ロアはそれを見て少し笑いました デニスが言ったとおり 少女は “保護"という形で 城に住むことになりました 近々戦争が起こるというので それが終わるまでは城でおとなしくしてもらい 戦争が終わり次第 少女の今後を考えるというのが 王の出した結論でした しかし 少女が城に来てから1ヶ月・・・ 戦争は まだ始まりませんでした 「悪いな・・・ 君はすぐにでも 元いた場所に帰りたいだろうに・・・」 デニス ロア そしてカルナは 城の外がよく見渡せる 騎士の部屋にいました 城の兵士の中で上級に位置する者だけが使うことを許される 特別な部屋です 「いえ・・・ 事故とはいえ 落ちてきた私が悪いのですし・・・ こうして身の回りのことをしてくれているだけで 感謝しています」 言いながらカルナはぺこりと頭を下げます 三人は 暇さえあればこうして団らんしていました デニスには 第一発見者としての責任・・・ という気持ちがあるのでしょう しかし ロアは・・・ 「・・・ロアさん? どうかしましたか?」 ボーっと突っ立っているロアに 心配そうに声をかけます 「え?い いやぁ・・・何でもないよ」 ふと我に返り 照れ隠しにポリポリと頭をかきます 「(見とれていたなんて・・・言える訳ないよな)」 そう思いながら 楽しそうにデニスと話すカルナの姿を 見つめていました そして同時に・・・・ 「・・・・・・・・・・・」 ロアはデニスを見つめ そしてデニスはカルナの相手をしていたために ロアが腰から下げている闇の剣が 一瞬鈍く光ったことなど 誰も気がつきませんでした 「(なぜだ・・・・)」 ロアは 廊下を歩きながら 自分の中に疑問をわかせます 「(なぜ・・・ あんなに楽しそうにする?)」 廊下を行き交う兵士達に 肩をぶつけていることにも 気がつきません 「(なぜ・・・ デニスにあんな顔をするのだ?)」 ロアは初めて見たときから カルナのことを好いていました そして 日に日にデニスに心を開く姿を見るたびに その嫉妬心を増幅させていました 自分でも 驚くほどに・・・ カルナのことだけではありませんでした 思えば 他の兵士達も ロアよりもデニスのことを敬っています しかしそれは 頭を働かせて賢く物事を判断するロアよりも 卓越した剣技で自分の道を文字通り切り開いていくデニスの姿が 男としてあこがれを持てただけに過ぎません なのに ロアはそれに気がつきませんでした 「(カルナも 兵士達も・・・ みんなデニスを・・・  僕は 独りになってしまうのか? あいつに 全てを奪われてしまうのか?)」 腰に掛けている闇の剣が鈍く光る その度に 黒い感情がロアを蝕んでいきました デニスに対する心が 友情から 憎悪に代わるまで それほど日を要しませんでした・・・ ある日 ロアはデニスをあの近隣の森へと呼び出しました 雨が強く降る 寒い日でした・・・ 場所は あの森の広場・・・ 第二の事件が起こった あの場所でした 木々がないため 雨をさえぎるものは何一つ無く 降りしきる雨の中を二人 突っ立っています ロアはデニスに背を向けています 今は埋められてしまった 穴があったところを凝視していました 「・・・で? 何だってこんな所に呼んだんだ?」 デニスが肩をすくめます しかし ロアは振り返りません 「・・・さぞかし・・・幸せだろうな・・・」 消え入るような声で まるで呟くようにロアが言いました 相変わらず 背を向けたまま です 「あ?何だって?」 「仲間に囲まれて・・・ あの子の笑顔を独り占めにして・・・さぞかし幸せだろうな・・・」 ここで ロアはやっと振り返りました 金髪が雨に濡れ 表情がよく見とれません メガネのレンズもまた 変に光を反射して奥にある目を見せようとしていませんでした 「カルナも・・・仲間の兵士達すらも 僕から奪い取ろうというのか!?」 稲光が光って 一瞬遅れて轟音が森に響きます 「お前は・・・ 僕を独りにしようというのか!?」 ここでやっと デニスはロアが尋常な状態ではないことに気がつきました でも わけがわかりません 「なっ・・・ 俺は・・・別に」 「黙れっ!お前はいつもそうやって頭の悪いフリをする・・・ 全ての責任は自分にないように・・・ いけ好かないんだよっ!」 腰から 闇の剣を抜き放ちました デニスの頬を 雨ではない 冷ややかな水分が流れます 「おっ落ち着け! 俺はカルナのことなんか・・・」 「・・・お前の気持ちなどこの際関係ないんだ・・・ お前がいるだけで 彼女はお前の方を向いてしまう・・・ 僕のことを見てくれなくなるっ!」 3メートルほど離れた場所から ロアは剣を突きつけました 一瞬 黒い軌跡が残ります 「僕と決闘しろ デニス・・・ カルナを賭けて・・・!」 デニスはようやく気がつきました 親友であるロアが ここまで思い詰めていたということに・・・ もちろん自分には そんなつもりはありませんでした カルナのことも 可哀相だからという気持ちで相手をしていたのです しかし カルナがデニスにしか心を開いていないというのも また事実です 「剣を抜け デニス! それでもお前は騎士か!?」 「何が・・・ 何がいけなかったんだ・・・? 俺達をここまで分かってしまうのは いったい・・・」 光の剣が 腰の鞘から抜かれました そして 光の軌跡を残しながら 剣を構えます 「そうだ・・・それでいい・・・ 行くぞっ!」 雷光が また轟きました 降りしきる雨の中で 二人の騎士が相まみえます 一人は友情を憎しみに変えて・・・ 一人は その友情を守ろうとして・・・ 「ハァァァッ!」 闇の剣が 上段から襲いかかります 光の剣は その刀身を横にして 闇の剣を受け止め 払いました 素人目には 終始攻めている闇の剣が優勢に見えるでしょう しかし実際は 光の剣が受けに回っているだけに過ぎません デニスは まだ迷っていました・・・ 「何故だ? 何故俺達が戦わなくてはならない!? 何がお前をそうさせたんだ!?」 「何故だと? 何がだと・・・? 僕にとって・・・お前自身が邪魔なだけだ!」 闇の剣が猛然と振るわれ 光の剣がそれを受け止めます 何度も 何度も火花が散りました 幾度か金属音が響いたとき ロアはそれに気がつきました 悲痛な表情で 自分の剣を受け止めて 守りに入っているデニス 戦いたくない・・・ そういう気持ちが 目に見えてわかりました そしてその気持ちを 痛いほどに 理解することができました 何故なら・・・ 自分もそうだからです この戦いに 何の意味もないことも 自分がおかしくなっているのも わかっていました でも この剣が 戦いを止めさせてくれないのです 相手を憎む心を 忘れさせてくれないのです・・・ 自分の心が 黒い感情に蝕まれていっていることが わかりました 「(僕は・・・・ 僕は・・・!)」 幾度か金属音が響いたとき デニスはそれに気がつきました 歯を食いしばり 憎悪の目でこちらを見ているロア・・・ その目から 涙が溢れていることに・・・ 雨ではないことは わかりました だが・・・何故・・・? 「(そうか・・・ そうだったのか・・・)」 頭の悪い彼でも それは理解できました 双方とも剣がはじかれ 最後の時が来ました ロアは下から上へ 剣を振り上げます 対するデニスは 剣を上段にはじかれたままの体勢でした この剣を 振り下ろせば・・・・・・・ ロアの剣が デニスの胸元へ迫ります でも デニスはそのままの体勢で動きません 「(何やってるデニス! 受け止めろっ!)」 「(・・・・・・・・・・・・・・・・・)」 鮮血が 踊りました 赤色の水分が 初めて広場に舞います 身体を斜めに切り裂かれ デニスは くるくると踊るように回転し 倒れ伏しました 光の剣が 宙を舞い 軌跡を残しながら 地面に突き刺さりました 「何故だ!デニス! 何故剣を振り下ろさなかった! あのまま振り下ろせば 倒れているのは僕だったはずだ!」 デニスの上半身を抱き上げ ロアが必死に叫びます 闇の剣は 地面に放り出されてました 「答えろぉぉぉぉっ!デニィィィィス!」 その時 デニスの瞳が開かれました 「あっ・・・・」 そして 優しく微笑みました ―――いいんだよ 俺は    お前が幸せになれるのなら そのために俺が邪魔になるのなら それで   ――― 静かに 目を閉じました 「僕は・・・・ 大馬鹿野郎だっ・・・!」 地面を 殴りつけました 「デニィィィィィィィィィッス!!!」 空に向かって 吼えました 雷の轟音に 勝るほどに・・・ 森の近くに ロアは墓を建てました といっても ただ死体を埋めただけに過ぎません 墓標代わりに 光の剣をその土の山に突き立てました 「死ぬべきだったのは・・・ 僕だったんだ・・・」 自分の奥歯が折れるくらいに 歯を食いしばり 「すまない・・・」 その言葉を吐き出し きびすを返して 森を去りました・・・ ・・・ソノモノニハ コドクナルシヲ――― 雨の中を ロアは城へと帰り着きました すでに肺炎を起こしかねないほど 身体が冷えています しかしそんなことは気にもせず ロアは考え事をしていました カルナに どう説明すればいいのか・・・と 考えながら 城門をくぐりました 城の中に入って ようやく雨風から身を守れる場所に着いたとき  ロアは自分の目を疑いました 何人もの兵士が 自分たちが作った血の池に伏して 倒れています 彼らは ピクリとも動いていません 「なっ・・・こ これは・・・!? まさか 敵襲!?」 思い立ったロアは 真っ先に王室へと向かいました 「王っ! ご無事で・・・・」 ドアを開け放った姿勢のまま ロアは硬直しました 他の兵士達同様に 王もまた 血だらけの床に伏していたのです すぐさま駆け寄り 身体を揺すりましたが 王から反応は返ってきません・・・ 「ああ・・・ なんて・・・なんてことだ・・・」 自分が馬鹿なことをしている間に とんでもないことが起きてしまった と ロアは心底自分を責めました 「・・・カルナは!?」 王を地面にそっと横たえ ロアは次にカルナの部屋へと向かいました 「カルナっ!」 勢いよくドアを開け放ちます 「っっっっっ!!」 ――部屋の中に カルナはいました 全身血まみれの姿で こちらに振り返ります 「あっ ロアさん いらっしゃい」 そして ゆっくりとした歩調で こちらに歩み寄ってきます 人の生首を 髪の毛を掴んでまるでバッグのようにくるくると回しながら・・・ ロアの身体は 動きません カルナは近くまで歩み寄ると 掴んでいた髪の毛を放し 生首を放りました そして ロアの両肩に手を乗せます 「決闘は楽しかったですか?」 ロアの心臓が 跳ね上がりました 奥歯がカチカチと何度も鳴ります 身体の震えを止めることができません 「貴方があいつを連れだしてくれたおかげで こちらとしてはすごくやりやすかったわ・・・ 少し面白味に欠けたけど・・・」 「君が・・・・・ まさか 君が王や兵士達を!?」 身体は微動だにせず 口だけがようやく動きました 「その通りよ 久々に血を飲みたくなってね・・・ 下界に降りてみたはいいけど ちっとも戦争起きないじゃない? いいかげん面倒くさくなって・・・」 カルナが「フフフ・・・」と笑います 「丁度貴方が城一番の腕のあいつを連れ出してくれたから これ幸いと・・・」 奥歯の鳴りが止み 代わりに歯を食いしばりました 「み〜んな なぶり殺しにしてあげちゃった・・・」 「うわぁぁぁぁぁっ!」 腰の剣を引き抜き 斬りかかろうとしたとき 腹部に激痛を感じました 「グゥッ・・・!」 衝撃で部屋の奥へと吹き飛ばされ 壁に背中を殴打しました 「アタシからの感謝の印として 生かしておいてあげるわ それじゃ・・・バイバイ♪」 少女の 返り血を浴びて真っ赤な翼が みるみるうちに変貌し 悪魔を象徴する真っ黒な翼と化しました カルナと名乗った悪魔が 視界から消え去ります ロアは それを見つめ しりもちをついたような体勢で 座り込みました ロアの瞳から 光が消えていきます・・・ 信じていたものが 望んでいたものが 根底から覆され 取り返しのつかないことをしてしまったという自責の念と 絶望で うなだれました・・・ それから 一ヶ月が経ち 今に至ります 手に闇の剣を持ったまま 壁に背を預け じっと 座っています いよいよ死が近づいてきたその時 城の中が 騒がしくなりました ――皮肉にも 世間では今 戦争が起こっていたのです かつては繁栄していたこの城にも 周りの国の兵士達がやってきました しかし そこにあったのは ほこりの積もった城と 白骨化しきれていない 腐り果てた死体だけ・・・ 敵国の兵士達は 大いに動揺しました いったい・・・ここで何が起こったのだろう と 「い 生き残りがいたぞっ!」 兵士が ドアの前で叫んでいます それでも ロアは微動だにせず 視線を中空に投げかけていました 兵士達が数人 部屋の中に入ってきます 「・・・どういう訳か知らないが せめて死ぬなら事情を話してから死んでくれないか?」 剣を突きつけて 敵国の兵士が言います しかし ロアはやはり何も反応しません 敵国の兵士達の一人が 肩をすくめました 剣を突きつけていた兵士が 剣を振りかぶり 振り下ろしました 黒い 闇の剣が 鈍く光を放ちました 振り下ろされた剣は地面に当たり 敵兵が疑問を感じた瞬間 その命もとびました 「うっ・・・うわぁぁぁぁぁっ!」 兵士達が叫んで その瞬間地に倒れました 闇の剣を握りしめ ロアが歩き出します 城の中は たちまち悲鳴で埋め尽くされました 返り血でのどを潤し 屍肉で飢えを消しました 城の中に入ってきた兵士達が全滅するまで 5分と経ちませんでした・・・ 1ヶ月前乾いた血を また城にまき散らして ロアは城を出ます 目はうつろのまま ただ闇の剣を握りしめて 城を出て 町人も兵士も誰もいない城下町を抜けていると それに出くわしました 「・・・正直 おどろいたわ・・・ ただの人間が・・・ここまで・・・」 見覚えのある 悪魔の女性が目の前に立っていました 虚ろのままの瞳で その女性を視界に入れます ロアもまた 立ち止まりました 「僕に・・・・」 1ヶ月ぶりに 喉から言葉を出しました 虚ろだった瞳に 炎のような赤い目が宿ります ――――もう どうでもいい・・・ ただ 血が 欲しい――― 「僕に・・・・ 悪魔になる方法を 教えろ」 悪魔の女性は 「フフフ・・・」と 1ヶ月前と同じ笑いを漏らしました 「いいわ 貴方と一緒なら 退屈しないですみそうだし・・・」 ロアが ゆっくりと歩き出します 悪魔の女性の立つ場所に行き着く頃には その背には 立派な翼が生えていました 真っ黒で 全てをのみ込むような黒が・・・ ・・・カノモノニハ エイエンナルアラソイヲ――― 闇の剣は 皮肉にも 男の願いを叶えました その願いは 男の望んだものと 少し違った形ではありましたが・・・ おわり