「空飛ぶ竜の話」 神や悪魔達の住む世界に挟まれた 人間界ロウラート そこに 一匹の大きな竜がいました それは 名もなき古い竜です その竜は 空を飛び続けています 昨日も 一昨日も その前も・・・ この世に生まれ落ちてから 今に至るまで ずっと空を飛び続けてきました 朝も 昼も 夜も 雨が降っても 雪が吹雪いても 雷が鳴っても 冬の日も 春の日も   夏の日も 秋の日も 今まで ずっと変わらず飛び続けてきました そして 人間界に起こる全てのことを その目で見て 記憶してきました 今日は まず東へと竜は飛びました 東の空を 竜はゆっくりと飛びます 大陸はどこまでも続き 緑にその身体を包んでいました その中に ポツポツと小さな村が見えます 村の中では 狼が二足歩行で歩いていました 一人・・・二人・・・三人四人 上から見るだけでも 両手では数え切れないほどの狼たちがそれぞれ歩いています そこは 猿が人間に進化したように 太古から進化し続けてきて二足歩行・言語習得するまでに至った亜人のひとつ 人狼(ワーウルフ)の集落でした 20年前起きた人狼と人間達の戦争によって 敗北した彼らは人間達に迫害され こうしてひっそりと 山の奥地に住み着いているのです 竜は 彼らの 一見楽しそうでも どこか悲しい暮らしをしている様子を 上空から少しの間じっと見つめ またすぐに飛び立ちました 1ヶ月前 ここに来たときより 集落の数が減っていることに そして 人間達による討伐隊がその集落に近づいてきていることにも 竜は気がつきましたが それは 竜にとってどうでもよいことなので 何も考えませんでした 一陣の風が吹き 人狼達は空を見上げました 「母さん・・・あれ・・・!」 「珍しいねぇ・・・ 明日は良い事あるかもしれないよ?ボウヤ・・・」 大陸の様子は山から平地へと代わり 大きな街やその周辺にある村が 幾分か目立ってきました あちこちで煙を上げているその村や町の一つに 竜は目を向けました 家々がいくつも燃やされています もちろん 火事ではありません むしろ放火でした 何人もの黒い服を着た人が燃える家を囲み 金品を持った中の住人が出てくるたびにそれを殺し 奪っていました 戦争ではありません この辺り最大の規模を持つ 『黒の流星』と名乗る盗賊団が 近辺の街を荒らし回っている日なのです 彼らは 殺戮を行っていても 皆殺しはしません 一つの村につき十数人 街では四十人ほどは生かしておきます 別に情けをかけているわけでは もちろんありません ただ 一年後また来たときのため 稼がせるために生かしておくだけに過ぎないのです 生かすのは 主に若く 健康そうな人達だけ それ以外は無慈悲に殺し 身につけている物から内臓まで全て略奪します 家族の前でその全てをやり 見せしめにすることも忘れません 村の中心にある 見張り台の上には 盗賊団のボスが座っていました その高い場所から 子分達の行為を見張っています 猫ばば防止のためです 酒を飲み 高い場所から見下ろす事による優越感にひたりながら ずっと見張っていました 竜は それらを 上空から少しの間じっと見つめ またすぐに飛び立ちました 村の人に雇われたスナイパーが 遠くから盗賊のボスの頭に狙いを付け 今まさに引き金を引こうとしていましたが それは 竜にとってどうでもよいことなので 何も考えませんでした 一陣の風が吹き 盗賊達は空を見上げました 「あれは・・・ 竜か!? いや・・・まさかなぁ・・・」 「お おいっ!お頭が!」 平原が続きます 木と呼べるものが一切なく 膝くらいまでの名もない草がずっと生えている草原 所々に岩が転がっており まるで海に浮かぶ島のように見えます 竜は 上空からその平原の一部に 目を凝らしました 人が 二人ほど走っていました どうやら追いかけっこをしているようです 前を走る女性は息を切らしながらも走り続け 後ろから追いかける男は手にナイフを持っていました 前を走る女性が 草に足を取られて 派手に転びました お約束的な展開に内心少々驚きつつも 男は下卑た笑いを発しながら女性に近づきます 「へっへっへ・・・ お嬢さん 安心しな・・・ おとなしく有り金全部渡せば 苦しまず殺してやるぜ」 手に持っていたナイフをベロリと舐めます 女性は恐怖に体を震わせていました 「ど どうか・・・命ばかりは・・・」 震える声で 女性は懇願します 「そうはいかねぇな・・・ 俺はよぉ お前さんみたいな若い女をグチャグチャにばらすのが何より好きなのさ」 ヒッヒッヒ・・・と笑いながら ナイフを高くかかげ 女性に歩み寄った その時 男の背中から 鮮血が飛び散りました 「なっ・・・・・!?」 事態を理解できぬまま 男は前のめりに崩れ去ります 女性は倒れてきた男の身体から反射的に身を引きました ――かつて男が立っていたところに 金髪の美形の剣士が立っていました 「大丈夫ですか?」 にこやかにそう言って 手を差し出します 「あ・・・あなたは・・・?」 女性はその手を取って 立ち上がりました 「通りすがりのものです・・・危ないところでしたね いや 間にあってよかった・・・」 剣に付いた血を払い それを鞘に収めます 倒れている男に目を向けました 「ここはこういう野盗まがいの者がよく出ます 危険なところです・・・ 近くの街までお連れしましょう」 美形の男が背を向け 岩が立っている所を指さしました そこには一頭の黒い馬が紐でつなげられています 轟音が 平原に響き渡りました 美形の男が膝をつきます つながれていた馬は音に驚き 紐を引きちぎって走っていきました 「あ・・・え・・・?」 美形の男の脇腹辺りから血があふれ出します 心臓の鼓動に合わせて規則的に血が噴き出し 周りの草を真っ赤に染めました ゆっくりと振り向くと こめかみに銃口が押しつけられました こちらに向けて銃を握っているのは 先ほど助けたあの女性に他なりません 「間抜けな兄さんよ・・・ ナンパならあの世でやりな」 二発目の轟音が平原に響き 美形の剣士は顔の組織や脳症をぶちまけて平原に横たわりました 返り血を服や顔に浴びて 女性は壮絶な笑みを浮かべます 「今日はラッキーだな 獲物が2匹になりやがった」 先ほどとは様子も口調もがらりと変わった女性が 今や美形でも何でもなくなった男を見下ろして言いました 振り返って ナイフを持っていた野盗の男に銃を向けます 男の足に狙いを定め 2発打ち込みました 途端に「ギャァッ!」と声を上げて野盗の男が一瞬跳ねます 「やっぱ生きてたか・・・ おい さっさと金目の物をだしな」 打ち抜いた足を蹴り上げながら 女性はそう命令します 「お・・・お前・・・ただの女じゃ・・・!」 そのセリフに 女性は一切強く男を蹴ります 先ほどの蹴りが寝ていた人を足で起こす程度のものなら 今度は溜まっていたストレスをサッカーボールに思い切りぶつけたぐらいのものです 「二度も同じ事言わせるんじゃねぇよ さっさとだしな 次はねぇぞ」 男は激痛に身をよじりながらも 女を激しくにらみました 「お・・・おまえ・・・ 俺をシェリカの街のと・・・」 轟音が響き 男がその続きを発することはありませんでした 「次はねぇって言ったろうが・・・ いちいちやる事増やしやがって・・・」 女性はしゃがみ込み 顔のなくなった二つの死体を物色し始めました 竜は その様子を 上空から少しの間じっと見つめ またすぐ飛び立ちました 野盗の男は すぐそこの街でたむろしているゴロツキ集団のボスに一番かわいがられている子分で 美形の剣士は 違う街の騎士団長で 街を統治している重役の息子であり 女性が 世間の光と闇の両方から付け狙われるであろうということは 竜にはたやすく予想できましたが それは 竜にとってどうでもよいことなので 何も考えませんでした 一陣の風が吹き 物色中の女性はふと空を見上げました 「なんだ・・・?」 ――そして 女性は口笛を吹いて 彼方に飛び去るその影を見送りました 平原はいつしか森となり 草木が生い茂り 密林という壁によって地面を見ることが出来なくなります しかし 森の真ん中にポッカリと穴が開いていました そこだけ樹木が無く まるで広場のようになっています 竜はそこに目を凝らしました 森の広場の中に 土が盛り上げてありました 近くに すでに腐り果てた花束が置いてあるところを見ると ・・・どうやら 誰かのお墓のようです しかし ここ最近参拝者はまったくいない様子でした 小さな山のようになった土の一番頂点に これまた小さな穴が開いてあります こうしてみると まるで蟻塚のように見えなくもありません ・・・恐らく 剣か何かが刺さっていたのでしょう 周りに それらしき物は見当たりません 誰かに持ち去られたようです 竜は そんな悲しげな光景を 上空から少しの間じっと見つめ またすぐに飛び立ちました そこに刺さっていた剣は後に光の剣と呼ばれる物で 持ち主に孤独な死を与えるという呪いの剣であることは 竜は知っていましたが それは 竜にとってどうでもよいことなので 何も考えませんでした 一陣の風が吹き 腐り果てた花束が見事に散ります 周りの 野に咲く花達もその風に 一斉に首を傾げました ずっと飛び続けていると 広い森に終わりが訪れます 森の先には平原がほんの少しだけ続き すぐに山となっています そんな山と森の間にある小さな平原に 二つの影がありました 平原に身を横たえ 二つの影が談笑しています 一方は 翼がない竜・・・ 心なしか 背中には引きちぎられたかのような痕が見えます もう一方は翼の生えている馬・・・ ペガサスと呼べる 白く美しい馬でした 「最近はどうだい?」 翼のない竜が言います 翼のある馬は首を傾げました 「・・・? 何がだい?」 「狩猟者達のことさ 君のその美しい身体を狙う・・・ね」 翼のある馬は「ああ・・・」と呟いてから 森の方を見ました 「いたって平和さ 君が昔追い払ってくれたからね」 そう言って 微笑みます 一方翼のない竜は「あっ」っと小さく声を漏らし 「・・・ごめんよ あの時のことを思い出させてしまったね・・・」 「気にすることはないさ あの時僕だって君に酷いことをしてしまったからね お互い様だよ」 二人はそれから少しの間黙って そして笑い合いました 竜は そんな2匹の様子を 上空から少しの間じっと見つめ またすぐに飛び立ちました 二人の その悲しい記憶さえも笑い合える 強き絆に 竜は少しうらやましいと感じましたが それは 竜にとってどうでもよいことなので 何も考えませんでした 一陣の風が吹き 2匹は空を見上げます 「・・・うわぁ」 「君も あんな風になりたかったの?」 「・・・たぶんね でももうこりごりさ」 いつの間にか太陽は沈み 一番星が輝き始めます 夜になっても 竜はもちろん飛ぶことを止めません ずっと飛んでいく内に 地面に白がちらほらと見えはじめました 雪です 所々にあった白は 飛んでいく内に広くなり ついには一面真っ白の世界になっていました ・・・人が 決して泳ぐことの出来ない海が すぐ近くに広がっています その波打ち際に 二つの影がありました それは 人間界では珍しい 悪魔の二人組でした 一人は端整な顔の男性で 眼鏡をかけています 腰には真っ黒な剣が 鞘もつけず直接腰にくくりつけてありました もう一人は女性です 美しいほどの黒い翼を持ち 同色の長い髪にウェーブがかけてありました 「・・・寒い」 メガネの男性がボソッと言って 自分で自分を抱きしめます 「あら そう?私はそうでもないけど・・・」 黒髪の女性が その美しい髪を掻き上げました 「で?こんな雪国でどうするつもり?」 女性が聞きました 男性は黙って 腰の剣を抜きます 抜き放たれた剣は 真っ黒に輝き その周りに 蠢く邪悪な波動をまとっています 「もう・・・この剣は僕にとって必要ない・・・」 男性はそう言って 地面に突き立てました 「あら・・・いいの?」 「ああ 僕はこの剣に十分すぎるほどのものをもらったから・・・」 男性は自分の手を見ます 剣にまとわりついていたはずの黒い波動が そこに蠢いていました 「物に頼ったままじゃ いつまでも君に笑われっぱなしだからな」 男性がニヤリと笑みを浮かべます 女性も口元に微笑を浮かべました 「フフッ・・・確かにね・・・ じゃあ見せてもらいましょうか?剣を持っていない貴方の実力を・・・」 「・・・そうだったな 君は確か退屈しない男を求めていたんだったか」 男性は 右手の中指で眼鏡を上げて そして手を海の方に向けました 波が 寄せては引き 引いては寄せる穏やかな海が目の前に広がっています 「・・・ハッ!」 男性が目を見開いて掌に力を込めると 海が大爆発を起こしました 穏やかな海が一瞬にして破壊されます 一瞬その付近だけ海というものが無くなり 海底だったところが空気にさらされました そこを泳いでいた魚たちが 骨だけの姿となって地面に次々と落ちます 「・・・こんなところか」 一瞬後 海は元通りの姿へと戻りました 「どうだい・・・?」 男性が向き直ると 女性は腕を組み 肩を小刻みに振るわせていました 「・・・・・フフッ・・・フフフ・・・アハハ・・・アハハハハハハハハハ!」 微笑から始まったそれは 次第に高笑いとなり 波の音をかき消しました 「・・・上出来よ 私のパートナーとしては十分に ね」 「それを聞いて安心したよ・・・ 僕としても 君とはまだ離れたくないからな」 「フフフ・・・ 嬉しいこと言ってくれるわね・・・って あら?」 「・・・どうした?」 「剣は・・・?」 言われて 男性は剣を突き刺したところを見ました つい先ほどまであった闇の剣が 何故か無くなっています・・・ 「・・・恐らく 次の持ち主の所へと行ったんだろう」 「じゃあ またこの世界に戦乱が?」 「争いなんてこの世界じゃ日常茶飯時さ・・・ まぁ 規模は違うと思うけどね」 そう言って また中指で眼鏡を上げます 今度は左手で 「ウフフ・・・楽しませてくれそうね」 女性は 本当に 本当に楽しそうにそう言いました 竜は その光景を 上空から少しの間じっと見つめ またすぐに飛び立ちました 悪魔の男性が持っていた剣は やがてこの世界に終末をもたらす大戦争の引き金となることに 竜は気づきましたが それは 竜にとってどうでもよいことなので 何も考えませんでした 一陣の風が吹き 悪魔の二人は空を見上げました 「・・・・・・・・・」 「・・・ さっ 帰りましょうか?」 「そうだな・・・ 寒いしな」 「まったくこれぐらいで・・・ だらしないわねぇ」 星が瞬き 竜を見下ろすその中を ずっと 飛んでいきます 雪が 降っていました 雪が常に降り続けるその山奥に 人影が見えました 竜は少々ため息をつき そこに目を凝らします 一人の青年が 雪の降るその中を 木にくくりつけられた人形相手に 必死の形相で剣を振り続けていました 手に特製の木刀を握り 何度も 何度も人形に打ち付けます 雪の中であるにもかかわらず 青年の額にはいくつもの汗が浮かんでいました 「もっと・・・もっと・・・ 強くなるんだ!」 強い決意を吐きながら 青年は何度も剣を振るいます 人形ではなく その向こうにある御国の敵に向かって 青年の手は 血豆が潰れ そこにまた血豆が出来ていました 極寒の気温の中 もはや握っている感触もないでしょう それでも 青年は剣を振ることを止めません 「約束したんだ・・・ 田舎の母さんに立派な騎士になるって・・・ 絶対に強くなるんだ!」 竜は 若き剣士の 熱き決意の“残り香"を 上空から少しの間じっと見つめ またすぐに飛び立ちました 青年が言う御国は とっくの昔に戦争に巻き込まれ滅亡しており 青年が言う故郷の母も その故郷ごとこの世から消滅していることを 竜は知っていました そしてこの青年自体も 昔 雪国の厳しさにやられ この世を去っているのです ここにあるのは 青年の“何としてでもやり遂げる"という悲しい決意だけ でも それは竜にとってどうでもよいことなので 何も考えませんでした 一陣の風が吹き 直線に降り続けていた雪を 一瞬斜めに降らせました 青年の影が ゆっくりと消えていきます まるで 雪に溶け込むように・・・ 夜は 更けていきます ずっと飛んでいく内に 雪もだんだん無くなってきました ちらほらと 夜の闇に包まれる緑が目についてきます 首を巡らせると 最後の雪景色がありました 山の 頂上付近です その山の崖に 何かがいました 竜の注意は そちらへと向けられます・・・ 切り立った崖に 少女が足を垂らして座っていました とても綺麗な少女です その少女の背には何と 周りの雪すらかすむ純白の翼がありました しかし それよりも目についたのは 少女の 背中から胸にかけて 完全に貫通している西洋風の剣でした 身体は まったく血で汚れていません 少女は崖の上から 月を眺めていました そして思います 遺してきた恋人のことを・・・ 夜になると どうしても思い出す 真っ赤に染まった自分の手 自分ではない 血の苦み そして 恋人の剣によって 粛清される 自分の身体――― 少女は 頭を抱えて身体を丸めます ―――いっそのこと 消えてしまいたい――― 少女は 毎晩月を見て そう思っていました 竜は そんな少女を 上空からじっと見つめ またすぐに飛び立ちました 少女の 死して転生し そしてこの世に縛り付けられている その悲しき運命を そして胸に生える罪の証であるその剣が さらなる悲しみを呼ぶであろう事も 全て理解することが出来ましたが それは 竜にとってどうでもよいことなので 何も考えませんでした 一陣の風が吹き 少女は高き崖の上から さらに上の 空を見ます 「竜・・・・・・」 竜は どこまでも飛んでいきます そして 上空から地平線を見ました 太陽が ゆっくりと登っていきます 新しい日の始まりです 竜は今日も 地に降りることは出来ませんでした 竜は 初めて空を飛んだときに そこで素晴らしい感動を得ました 上空から 世界の全てを見て回るのです 毎日まったく違う顔を見せる その世界に 幼き竜の心は躍りました 竜の親にあたるものは いつまで経っても降りてこない我が子に 少々の怒りと呆れを覚えました そんな親に 竜はある約束をしました 「僕は この目で見た一日の全てを この翼に刻むよ そして たった一度でも同じ日が訪れたら 僕は空から降りる」 古来より 翼には特殊な力があるとされてきました それは竜の翼だけではありません 天使の翼も悪魔の翼も ただ空を飛ぶだけではなく いろんな力が宿っていると言われていました それだけの翼です 見たことの全てを翼にため込むことなど 造作もありません そう・・・ 造作もないことなのです 竜はその時から空を飛び続け 全ての記憶をその翼に刻んできました 何千年何万年という話ではありません 気の遠くなるほどの間 竜は空を飛び続けてきました 竜が知っているだけでも 人間界は三度滅亡しています 全ての命がこの地から消え 何もなくなった世界・・・ それを 竜は三度 目にしてきました 何もなくなったはずの世界に 次第に新たな命が生まれ その命が また同じように滅亡まで生まれ続けるのを ずっと見てきたのです 同じような歴史を 人間界は三度繰り返しました しかし まったく同じ日は一度として訪れなかったのです 同じような日は何度もありました しかし まったく同じかというと そうでもありません 人狼と人間が戦争後和解する時もありました 盗賊団が村の人全員を殺して 襲う街を転々と移っていく時もありました 後ろから斬りかかってきた美形の剣士を 野盗が返り討ちにする時もありました 光の剣が ずっと同じ場所に刺さり続けている時もありました 翼のある竜と翼のない馬が仲良くなる時もありました 悪魔の二人組が 砂漠でその力を試す時もありました 若き剣士が 御国で騎士団長になる時もありました 天使の少女が 幸せな記憶を紡ぐ時もありました 全ては 移り変わっていきます 時代が変わっても 歴史が繰り返されても 同じ日はいつまで経っても訪れません それでも 竜は朝日に願い そして飛び続けます いつか 自分が飛び続けない時が来ますように―――と 人間界ロウラートは 今日もいつも通り 違った顔を見せています おわり