『翼のない竜と翼のある馬の話』 あるところに 翼のない竜がいました それはとても強い竜です 竜は 口からは熱い火をはくことができ 鋭い牙は何でも砕いてしまうことができました  しかし 竜にとって そんなことはどうでもよかったのです 竜には 夢がありました 竜は 熱い炎で街を焼き尽くしたり 鋭い牙でかみ砕いたりはしたくはありませんでした ただ・・・ 大空を飛びたかったのです この美しい空を 輝かしい世界を自由に飛び回る・・・ そんなことができたら どんなによいでしょう どんなにすばらしいでしょう それが 竜の夢でした あるところに 翼のある馬がいました それはとても美しい馬です 馬は 自慢の足で大地を駆け回ることができ 大きな翼で大空を飛び回ることもできました しかし 馬にとって そんなことはどうでもよかったのです 馬には 夢がありました 馬は 自分を傷つける者から走って逃げたり 飛んで逃げたりはしたくありませんでした ただ・・・ 自分を守れる力が欲しかったのです このたくましい前足で 傷つける者達を追い返す・・・ そんなことができたら どんなによいでしょう どんなにすばらしいでしょう  それが 馬の夢でした ある日 翼のない竜と 翼のある馬が出会いました そしてお互いを それはそれはうらやましそうに見ました 竜は言いました ―――僕に君ほどの翼があれば どんなによかっただろう――― 馬は言いました ―――僕に君ほどの力があれば どんなによかっただろう――― そして お互いの言葉に目を丸くして驚き 二人で笑い合いました それ以来 翼のない竜と 翼のある馬は友だちになりました 竜は力を持ち どんな敵も寄せ付けません 馬は翼を持ち どこまでも高く飛ぶことが出来ます お互いがお互い知らない世界を持っており 話はとてもはずみました 次第に 翼のない竜と翼のある馬は お互い無くてはならない存在になっていました そんなある日 事件は起こりました その日も 二人はお互いの長所をほめ合い 相手には出来ないことを自慢したりして話していました そんな楽しい一時に 突然邪魔者が現れたのです その邪魔者は 美しい馬を狙う狩猟者達でした 馬は いつもその狩猟者達に狙われ ひどい目にあってきたのです 馬は突然の天敵に 震え上がり 小さくうずくまりました 狩猟者達は 容赦なく銃を構えます 狩猟者達があと指の引き金を引けば その長い筒から黒い塊が飛び出し 真っ白で美しい馬の身体を赤く染めるでしょう 竜の雄叫びが その場に轟きました そこで狩猟者達は ようやく翼のある馬の近くにいたのが どういう存在かを理解したのです しかし狩猟者達は逃げずに 竜に向かってその銃を向けました そして引き金を引きました すると長い筒から黒い塊が飛び出し 竜の身体に当たり 跳ね返ってどこかへ飛んでいってしまいました かたい竜の身体は 銃さえものともしないのです これはかなわないと知った狩猟者達は 慌てて逃げ出しました しかし 大の仲良しである馬を怖がらせた狩猟者達を 竜は許しませんでした 口を開き 狩猟者達に向かって炎を吹きました それはとても熱い火でした その火は狩猟者達の身体を燃やし 焦がし 悲鳴さえ焼き尽くしました 翼のある馬は見ました 火に身体を包み 転げ回り苦しむ狩猟者達を そして 思いました ―――(僕は あんな恐ろしい力・・・ 欲しくない!)――― なおも火をはき続けようとする竜に 馬は叫びました ―――もういいよ!逃げよう!――― そして 馬は竜を背中に乗せ 大空へ飛び立ちました 大空に向かって羽ばたくにつれ 地面はどんどん小さくなります 翼のない竜は見ました 初めての高さから見る ついさっきまで居た地面を 後数センチ身を乗り出せば たちまち真っ逆さまに落ちて 竜の体をこわすでしょう そして 思いました ―――(僕は 翼なんか・・・ 欲しくない!)――― なおも高く飛び続けようとする馬に 竜は叫びました ―――もういいよ!降ろして!――― そして 竜は怖さのあまり 牙をむきました 驚いた馬は 近くの丘に降り立ちました 地面に降りた竜は山へ一目散に逃げ出し 牙をむかれた馬は森へ一目散に逃げ出しました あるところに 翼のない竜がいました それは とても強い竜です 竜は 口からは熱い火をはくことができ 鋭い牙は何でも砕いてしまうことができました 竜には 夢がありました ただ・・・ 大空を飛びたかったのです しかし 竜にとって そんなことはもうどうでもよかったのです あるところに 翼のある馬がいました それはとても美しい馬です 馬は 自慢の足で大地を駆け回ることができ 大きな翼で大空を飛び回ることもできました 馬には 夢がありました ただ・・・ 自分を守れる力が欲しかったのです しかし 馬にとって そんなことはもうどうでもよかったのです ある日 翼のない竜と 翼のある馬が・・・ 出会いました そしてお互いを 見つめ合いました 竜は 言いました ―――あの時 君は僕を止めようとしてくれたのに 僕はあんなひどいことをして・・・ ごめんよ――― 馬は 言いました ―――あの時 君は僕を守ってくれたのに 僕はあんなひどいことをして・・・ ごめんよ――― そして お互いの言葉に目を丸くして驚きました それ以来 二人はいつも仲良く 一緒にいました 竜は二度と火をはいたり牙をむいたりすることはなく 馬も二度と大空を飛んだりしませんでした おわり