井上寿司とトロの日記

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ダンボール箱にしろくてちっちゃーい 子猫が捨てられています。

そこへ、

ぴちぴちのいいネタが入って、うかれている

ヒゲオヤジ・井上寿司の主人が通りかかりました。

『んん〜??なんだぁ?こんなところにネコなんか捨てやがって

いい度胸してやがる』

主人はぶきみな笑顔を浮かべています。

 

そうです。こともあろうか、

子猫が捨てられていたのは井上寿司の前だったのです。

主人は子猫を引っ張り出そうとしました。

 

『にゃにゃにゃぁ〜』

ところが、子猫のほうから飛びついてきたのです。

『うわわわ!?』

子猫は主人の手や顔をなめました。

『はは〜ん。おまえ、腹減ってるなぁ?…ん、ちょっとまってな』

主人は店の中から魚くずをもってきました。

『ほら、くうか?』

 

子猫は目にいっぱいの涙を浮かべながら はぐはぐと食べました。

『なんだぁ?泣くほどうまいか?』

主人は子猫のくいっぷりに感激しました。

『ウチのネタはなぁ、クズでもうめぇんだ。ネコにもわかるか?

 そうか、そうか』

子猫は主人が何をいってるのかわかりません。

でも主人が喜んでくれているので子猫もうれしくなりました。

 

 

『さぁ、もう腹もまんぷくだろ。さっさと誰かに拾われな』

ダンボールの中へ子猫を戻そうとしました。

子猫はぼろぼろ泣きはじめました。

 

イヤニャ!イヤニャ!!

もうひとりはイヤニャ! 

まっくらはイヤニャ!

 

主人の手のひらの中で子猫の涙は止まりません。

『あいや〜…、まいったなぁ…』

主人は子猫を見つめています。

子猫はおっきなぐりぐりしたおめめを主人に向けています。

主人は子猫を顔に近付けました。

『…まだ小せいし、このままのたれ死なれちゃなぁ…』

 

『まぁ、ここだったらくいっぱぐれねーし』

主人は子猫を手のひらから下ろし、ダンボールを片付けています。

 

子猫は主人の足元に駆け寄りました。

『おまえの名前は今日から井上だ。』

子猫はうれしくてうれしくて、主人に飛びつきました。

『ああ??でも井上…ネコじゃなぁ〜』

主人に名前のセンスがあるのかちょっぴり心配になりました。

『おお!そうだ!』

『トロってのはどうだ? 高級なネタといっしょの名前だ』

 

 井上 トロ。

幸か不幸か、トロは井上寿司の主人に拾われました。

 

 

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