井上寿司とトロの日記

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バシャバシャバシャ・・・

トロは初めての温泉でおおはしゃぎです。

『んにゃ〜v楽しいニャ!楽しいニャ!!』 

朝食前に2人で温泉に入りにきました。

 

『なりたいもんってのはあきらめちゃいけねぇもんだ。思いつづけることが一番大事なんだとよ』

『おもいつづけるのニャ!』

『おぅよ!ようは気持ちの問題だな』

ヒゲオヤジ・井上寿司の主人とトロが、湯煙の中で何やらしゃべっています。

 

『ご主人さんのなりたいものは何なのニャ?』

『んー…昔は寿司屋になりたかったさ』

『え!?昔は寿司屋じゃなかったのニャ!?』

主人は湯船に浮かんだお盆のお酒をぐいっと飲みました。

『あったりめーよ!寿司屋なんてそうやすやすとなれるもんじゃねぇ!』

『じゃあ何だったのニャ?』

空にぽっかりと浮かぶ月を見ながら主人は言いました。

『漁師、やらされてたなぁ…その前はトラック転がしたりなぁ』

『いろいろやらないとおすし屋さんにはなれないのニャ?』

『そういうわけじゃねぇけど、生きてく上でいろいろ役には立つわな』

『んにゃ〜お役人さんになれるのニャ!カッコイイのニャー』

トロはバシャバシャと湯船の中を泳ぎ回ります。

『お役…じゃなくて…はァ、まぁいいけどよ』

主人はため息をつき、トロはひらめきました。

 

『イヤンなのニャ!じれったい人ニャ!!』

…(笑)この頃のトロはヘンな言葉を覚えていました。

『だから女房の鼻にふかれるのニャ!』

トロは自信満々で覚えたての言葉を使います。

『・・・尻に敷かれるっつーんだ。トロ』

なれている主人はあっさりとかわしていきます。

『ニャ?あれ?そうニャ!尻に敷かれてるのニャ!』

満面の笑顔でトロはとんでもない言葉を口にします。

主人も気が付いたようです。

『ふギャ!!!!?』

ぶくぶくぶく・・・と、トロは湯船に沈められました。

『小賢しいヤツめっ!』

トロがバタバタしています。

主人は、トロの頭の上に置いた手をどけました。トロが勢いよく湯船から浮かんできます。

『ぷはっ!苦しーのニャ〜〜!!』

トロはとっさに主人の頭の上にのぼりました。

『トロがいけねぇーこというから、苦しい目に会うンだ』

頭の上にいるトロに言い、お酒をまたぐいっと飲みました。

『イケナイことなのニャ?うニャニャ、ホントなのにニャ・・・』

『あぁん!?何か言ったか?』

主人の頭の上でトロが言い返します。

『ご主人さん・・・トロの尻にも敷かれてるのニャ・・・』

 

ガーーン!!!

この状況ではさすがの主人も真っ白になりました。

『や・やられた・・・』

と、いいながら、湯船に沈んでいきました。

トロはびっくりして頭から下りました。

『やられちゃダメなのニャ!でもホントなんだもん・・・どーすればいいのニャ〜』

 

『・・・トロのケツには敷かれたけど、女房にゃしかれちゃいねぇーよ』

主人は口から上だけを湯船から出しています。

『ゴウモンなんだニャ。ご主人さんって』

『ゴウジョウ!強情ってーんだ』

トロとの会話はいつもこんな感じです。

でもトロは自分をよく観察しているなぁっと思う主人なのでした。

 

 

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