井上寿司とトロの日記

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深い渓谷に架かる高い橋から下を覗くと、シューシュー音をたてながら白い蒸気が噴き出しています。

トロと主人は渓谷へと降りて、渓谷を流れる川沿いの遊歩道を歩いていきます。

そのすぐ脇の岩肌から蒸気が激しく噴き出していました。

『ぁッつ!!!』

90℃以上あるとても熱い蒸気が主人を覆いました。

『トロ大丈夫かぁ〜?この蒸気、すごいアツイぞ!・・・って、ありゃ?』

トロはマフラーをマチコ巻きにしていたので蒸気がかかりません。

トロは目の前に雲があるのが嬉しくて、はしゃいでいます。

『雲ニャv雲ニャvv』

主人は首に巻いていたマフラーを見ました。

『・・・オレもマチコ巻きにするかぁ・・・』

 

青いマフラー隊がお土産屋さんに到着しました。

数人の客と混じって、名産品を物色しています。

『温泉饅頭・・・お!洋風のカステラ生地ってのもあるのかぁ!』

主人は青ちゃんへの土産を探していました。

トロには全てが珍しいモノだらけです。

『ニャニャ!もしかして・・・ご主人さんの子供!?』

『はあ!?』

主人は驚いて、トロの見ていた物を手にとりました。

『・・・って、おい、だるまじゃねーか・・・』

主人はトロの方を振り返ると、すでにトロは別の物に興味をもっていました。

『まぁったく・・・お!地酒があるじゃねーか!』

主人は、自分への土産探しに没頭しています。

『生産量が少なく、地元でしか手に入らないんですよ』

店員の言葉で即決した主人は、トロを呼びました。

 

『おーい、トロ!何見てんだ?』

主人はトロの方へ行くと、イヤな予感がしました。

『どうした?トロ・・・』

トロは目を輝かせていいました。

『コレ!コレがほしいのニャ!!』

主人は、トロの目の前にそびえ立つ物をみました。

トロが欲しがった物は・・・1メートルぐらいはある、たぬきの置き物でした。

『・・・こ・こっちの小さいのじゃ、ダメかぁ?』

主人は顔を引きつらせながら笑いました。

『トロのトモダチなのニャ!コレがいいのニャ!!』

トロはだだをこね始めました。

主人は上手く交さないと買わされるハメになります。

必死です。

『トモダチっつても、コイツぁ、置き物だし!な!?』

『でも、でも、トロに似てるニャ!』

たぬきの置き物です。

たぬきです。

『そうかぁ?似てないゾ!色なんか全然ちがうじゃねーか!』

『カタチが似てるニャ!』

でもたぬきです。

『・・・コレ買って帰ったら、青ちゃん悲しむゾ〜』

『ニャ!?なんでニャ?』

主人は(しめた!)と思いました。

『この置き物に嫉妬しちゃうぞ!きっと!!』

『嫉妬!・・・って何なのニャ?』

もう一押しです。

『ヤキモチ焼くってことだぁ』

『?お餅好きニャ〜』

がんばれ!主人!!

『ん〜と、トロが、青ちゃんよりタヌキの置き物の方が好きなんだって誤解しちゃうんだぁ!』

ガーーン!!

 

トロはようやく解ったようです。

『そんなことないニャ!青ちゃんも好きニャ!』

『そうだろぉ?青ちゃん悲しむから、小さい方にしとけ!な?』

『そうするのニャ!小さくてもトモダチはトモダチなのニャ!!』

主人は地酒、トロはたぬきの置き物。

みんなには温泉饅頭。

さて・・・

『青ちゃんには何がいいかなぁ?』

『青ちゃんにもトモダチがいいのニャ!!』

たぬきの置き物。

『2つもいらないだろぉ?な!』

『青ちゃんにもトモダチニャ!』

主人はだんだん疲れてきました。が、青ちゃんのためにもがんばります。

『・・・青ちゃんにはトロもオレもいるから、トモダチじゃないもんにしよう!な?』

『青ちゃんにはトロがついてるニャ!そうニャ!そうニャ!!』

主人はほっと落ち着いたところで目に入ったお茶碗と湯のみを3セット、お土産にしました。

 

+ + +

『トロの宝物ニャ!!!』

トロは自慢気に”タヌキの置き物”を青ちゃんに見せています。

温泉街から戻った主人とトロは、真っ先に青ちゃんにお土産を渡しました。

 

『キャー!カワイイ!!』

青ちゃんは”タヌキの置き物”を見て大喜びです。

『おいおい!カワイイかぁ?』

井上寿司の主人は青ちゃんの言葉に呆れています。

青ちゃんは、タヌキの置き物をもったトロを抱いて、主人の顔の横へ持っていきました。

『ホラ!そっくり!!』

青ちゃんは極上の笑顔です。

主人はそれにつられて顔が緩みました。

トロはびっくりしています。

『え?え?そっくりニャ!?・・・もしかして!ご主人さんの兄弟!?』

『え!!そうなの!?』

青ちゃんも驚いています。

主人は我に帰りました。

(まさか、青ちゃんまで・・・!)

『ど・どこが似てるんだぁ??』

主人は苦笑いしながらいいます。

『ほら!お酒持ってるところなんて!ね!トロちゃん!』

『そうニャ!そうニャ!!』

2人から責められ、主人は弱っています。

『カワイイよね〜!』

『ニャ〜!!』

青ちゃんにもトロにも全く悪気はないようです。

『・・・そうかぁ?』

主人も満更でも無くなりました。

 

トロは”自分に似たトモダチ”を買ったつもりが、”ご主人さん”を連れて帰ってきたようです。

この旅で、だんだんトロの扱いになれてきた主人でしたが、青ちゃんの扱いには苦労しそうです。