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井上寿司の裏手にある庭には、お店以外の洗濯物が干してあります。 そこへ大きな声が響いてきました。
『ハイ!毎日1杯!健康!健康!!』 ブルーのエプロンを着けた青ちゃんが、青汁の入ったコップを持ってきました。 青ちゃんは元・青汁レディーです。 毎朝1杯だったのが、お茶の時間も青汁になりました。
『ニャ・・・青ちゃん・・・また青汁なのニャ?』 トロはあまり青汁が好きではありません。 『このまず〜いのが、身体にいいんだぞ!』 井上寿司の主人は慣れているのでまずくは感じないそうです。 『酸っぱいのとか、まずいのとか・・・人間ってタイヘンなんだニャ・・・』 『そうだね〜、人間はタイヘンだね』 主人も青ちゃんも笑っていますが、トロは困っていました。 青ちゃんはトロを膝の上へ、向かい合わせにして座らせました。 『でもね、トロちゃん。病気になっちゃうの、イヤでしょ?』 『ニャニャ!病気はイヤニャ〜!』 『ね!トロちゃんが病気になったら、青ちゃんも心配しちゃうよ?』 主人はその様子を指をくわえて見ていました。 『・・・いいなぁ・・・トロ』 ジェラシーたっぷりの主人です。 そんな主人には気付かず、トロは青ちゃんに感激していました。 『青ちゃんのために!毎日1杯!健康!健康なのニャ!!』 ・・・ホントは毎日2.3杯は飲んでます。 トロは青ちゃんの膝から降り、青汁を手に取りました。 青ちゃんも立ち上がりました。 『ホラホラ!ご主人さんも!腰に手をあてて!』 ようやく、青ちゃんが構ってくれました。 主人は感激して、勢いよく立ち上がりました。 『おぅ!腰に手を当てて!ぐいっと、な!!』 3人一斉に青汁を飲み干しました。
主人は仕込みの時間になり、板場へ行きました。 トロと青ちゃんはテレビのある居間にいます。 トロは青ちゃんの前に置かれたリモコンに目をやりました。 テレビのリモコンにはボタンがいっぱい付いています。 トロの目は輝きました。 『テレビのリモコンってカッコいいニャ…!』 『はーい!トロちゃん』 青ちゃんはトロにリモコンを手渡しました。 トロはリモコンのボタンを片っ端から押していきます。 いつしか、テレビの電源が入り、チャンネルが変わっていきました。 『なんだか巨大ロボを操縦してるみたいニャ!行け行けゴーゴー!TVってカッコいいニャ!』 トロは大喜びでチャンネルを変えていきます。 青ちゃんは無邪気なトロをみて楽しくなりました。 『ニャニャ!もしかして…』 トロはボタンを押す手を止めました。 『…リモコンには自爆装置もついているのかニャ!?』 『えっ!?』 青ちゃんはトロの手に握られたリモコンを見ました。 青ちゃんは考えます。 (何気なく使ってたけど、…爆発することだってあるかも…!!) 青ちゃんはゆっくりと、静かに、口だけ動かし言いました。 『…そうかも〜…っ!!』 トロと青ちゃんは顔を見合わせます。 ゴックンと二人は生つばを飲み込み、トロはリモコンをそっと、机の上に置きました。 トロと青ちゃんはゆっくりと後ずさりしました。 『…TVってキケンだニャ…!』 『うん…!』 トロと青ちゃんは、居間から庭へ出ました。 洗濯物が風に泳いでいます。 『ふニャ〜!ぽかぽかニャ〜』 『もう、春だねー』 二人はぼ〜っと、空を眺めていました。 雲が気持ちよさそうに流れていきます。 洗濯物がヒラヒラと柔らかな青草へ落ち、 そして、トロと青ちゃんを包み込みました。
何時の間にか辺りは暗くなっていました。 『おぉ〜いい!…あれ?いねぇーぞ?』 開店時間になっても青ちゃんが来ないので主人は呼びに着ました。 居間から庭の方へ目をやると、ぼぉっと洗濯の山が浮かんでいます。 よぉく見ると、二人が洗濯物に埋もれていました。 「…zzz…行け…行け…」 「ごーごー…なのニャ…zzz…」 『…しょーがね〜なぁ、こんなとこで寝ちまって』 二人は巨大ロボの夢でもみているのでしょうか? 困った主人はヒゲをかきながら、 シアワセそうに寝ている二人を少しの間、眺めていました。
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