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『大丈夫かなぁ・・・トロのやつ』
トロはダンボールの中に入れられて捨てられていました。 と、いうことは飼い主がいた、ということになります。 井上寿司の主人はそれに気がつきました。 主人はお客さんから人づてにトロのパパとママの飼い主をこっそり探しました。 そしてひと月ほど前、それらしき人物が見つかりました。 でも、すぐにはトロに言えませんでした。 (トロにいつかは言わなければいけないことなんだがなぁ・・・) 長い間一緒にいると別れが辛くなります。 主人はおもいきって、トロに話すことにしました。
始めは大喜びだったトロですが、主人を見て様子が変わりました。 『うにゃ・・・んと、んと・・・えと、えと・・・』 トロの小さな頭の中は、ぐるぐる回転しています。 主人はヒゲに手を当ててトロの言葉を待っています。 (トロとお別れだなぁ・・・。) 主人は思いました。
『いっぱいなやんじゃったケド・・・やっぱり・・・』 トロは主人の目をみていいました。 『ママとパパに会えたらまたもどってくるニャ!だって・・・だって・・・』 『トロの大好きなご主人さんだもん!だから・・・きっときっともどってくるニャ! そしたら・・・ママとパパにご主人さんをしょーかいするニャ!』 トロのやさしい言葉に主人は胸を打たれました。 『・・・おう!行ってこい!!』 主人は戻ってくることはないだろうと思いました。 (飼い主の元に戻ったら・・・またどこかに貰われて行くんだろうなぁ・・・) 人間の我儘で捨てられたこねこ。また捨てられるかもしれない。 そう思うと主人は辛くなりました。
早朝の太陽が顔を覗かせています。薄い青が空いっぱいに広がっています。 トロはご主人さんとの思い出をいっぱいいっぱい風呂敷に詰め込みました。 ”準備中”の札が掛かった井上寿司の前に 少し成長したこねことヒゲオヤジが向かい合っています。 『・・・・・・・・・それじゃぁ、気ぃつけてな!』 主人はしゃがんで、トロの頭をなでました。 トロは笑顔になりました。 『・・・・・・ご主人さんに教わった、さよならのごあいさつ・・・ "また来てくれや!"ニャ!!ちゃんとおぼえてるニャ!』 主人がよくお店で使う言葉でした。夜、お酒を飲んでいるときに言葉を教えていたので 主人には記憶にありませんでした。 『・・・・・・・・・』 主人の顔はいつも以上に赤くなりました。 トロとの思い出が駆け巡ります。 主人の目は潤み始めていました。 『まっててね!きっと井上寿司にもどってくるニャ!』 トロは風呂敷を持ちました。 『・・・・・・・・・それにゃ・・・行ってきますニャ!』
そして朝早く、旅立っていきました。
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