Secret Garden


見たことも無い真っ白な世界。
見たことも無い巨大な魔物。
そこで僕は一人…。


×× オーヴァーアゲイン ××


ピチチ...。ピチュンチュン...。
軽やかな小鳥の囀りと、窓から差し込んでくる太陽の光と、カーテンを揺らす爽やかな風。
朝の目覚めとしては絶好の環境だったが、何故かゆーまの気分は最悪だった。
気だるそうに上半身を起こすと、すっかり寝癖の付いてしまった頭をガシガシと掻きながら半分寝惚け眼のまま室内を見まわして、暫らくしてから昨日は街の宿屋に泊まったのだった、と気付く。
普段は野宿続きで火の番などをしなければならないのだが、久しぶりのベッドが心地よすぎてついつい寝すぎてしまったらしく、太陽は既に昇りきっているようだった。
同室のはずのタカシの姿はない。
恐らくは既に支度を整えて朝食でも取っているのだろう。
「……。…しまった!食いっぱぐれる!」
ゆーまは急いで服を着替えて部屋を飛び出した。
タカシもタカシで起きたなら何故一声掛けてくれてくれないのか、などとヤツ当たり気味な不満を抱きつつ廊下を走る。
突き当たりにある階段を駆け足で降りて行くと、ちょうど朝食を済ませてきたのか、のえるとばったり出くわした。
「あら。やっと起きたの?残念だったわねぇ…たった今朝食の片付けをしちゃったトコロよ。」
すれ違い様、彼女の言葉は心底楽しそうなものだった。
「遅れた誰かサンが悪いだけの話しだけどねぇ〜」
階段を登りながら腰を片手に確信犯的に高笑う。
そんなのえるの背中を幾分悔しそうに睨みつけてから、半分諦めた気持ちでゆーまは宿屋の下のカフェへと足を踏み入れた。
ピークは過ぎて人も疎らになりはじめた時間帯、カフェの中をぐるりと見渡すと、ゆーまが降りてきたところを丁度見ていたのか、わんこが窓際の一席でヒラヒラと手を振っている。
迷うことなく向かいの席に腰を降ろすと、わんこはクスクス笑いながらおはよう、と挨拶してきた。
「どうしたの?久しぶりのベッドだったから寝過ごしちゃった?」
「まーな…おかげで一人食いっぱぐれたよ…」
つい先ほどの のえるの嫌味な言葉を思い出してゆーまは軽く舌打ちをする。
「ふふ、こうなるだろうと思ってちゃんと用意しておいたんだよ」
そう言ってわんこは自分の隣りに置いておいたバスケットをテーブルへと乗せた。中には何種類かのサンドイッチと小皿に取り分けられたサラダ。カップに入った一杯の紅茶が用意されいた。
「おぉ!サンキューわんこ! 気が利くなぁ〜♪」
嬉嬉として玉子のサンドイッチに齧り付くゆーま。
それを頬杖を付きつつ、やれやれといった風に軽く溜息を付いたわんこは 「でも、のえちゃん発案だったりするんだよ」と付け加えた。
それを聞くや否や ゆーまの動きが止まるのだが…。
「ちゃんと、お礼言っておいてね」
と念を押されるように言われては返す言葉もない。
微妙に納得がいかないような仏頂面のまま、そのまま黙々と遅れた朝食を摂るのだった。


数十分後。
漸く食事を終えたゆーまは残しておいた紅茶を啜る。
大分時間を置いてしまいぬるくなっていたが、無いよりは良い。
そうして茶を啜りながら、ふと次なる目的地のことを考える。
色々と情報を手に入れる内に最終的に辿りついたのは、誰も足を踏み入れた事のないような瘴気の渦の中だった。胡散臭い話しではあるが、確かめてみる価値はある。
人々を瘴気から護るミルラの雫を集めるキャラバンの旅。
世界から瘴気を取り除けば、自分達の旅も終わりを迎えるだろう。
淋しさ、とは違うが感慨深いモノがあるのは否めない。
「…………。」
紅茶のカップを手にしたまま言葉を無くしたゆーまを目に、それまでずっと付き添っていたわんこが軽く首を傾げる。
「…どうしたの?」
「……いや、別に。結構長いこと このメンバーで旅してきたよなぁ…って思ってさ。ひょっとしたら皆でこうして旅するのも、次でサイゴかもしれないだろ?」
「…ゆーま…」
「あ、悪い。ひょっとして気ぃ悪くした?」
心なしか声を沈めたような声にゆーまは慌てたが、わんこは緩く首を振って否定を示す。
「違うの…ちょっとね…」
「何だよ。悩み事でもあるのか?」
「そういうわけじゃないんだけど…」
「じゃ、どうしたんだよ」
畳み掛ける様に問いかけてくるゆーまの声は飄々としたもので、わんこは一息ついてから意を決したように口を開いた。
「…笑わないでね?………怖い夢、みたの…」
「夢?」
「……うん。あのね、タカシさんが言ってた…次の目的地あるでしょ?…そこに皆で行く夢なんだけど…。」
夢、と言った時点で笑い飛ばされるかと思っていたわんこだが、意外にもゆーまは真剣に聞いていてくれたようだ。何か思うところがあるのか、口を閉ざしたままわんこの言葉の続きを促す。
「その、途中途中が抜け落ちちゃってるんだけど…最後に真っ白な世界に辿りつくの。……でね、そこで…。」
「――待った。……その夢なら、たぶんオレも見た。」
「……え?」





―― 見渡す一面が雲に覆われたような白。空虚な空間に大地と空の境界線はない ――



―― 辺りを覆い尽くす程に巨大な魔物。咆哮が閃光と衝撃を生み襲い来る ――





「その夢の結末は…一言で表すなら 全滅…じゃないでしょうか?」
突如として現れた第三者の声にゆーまとわんこは思わず声を上げて驚いてしまう。
早鐘を打つ左胸に手を当てながらゆっくりと窓の方へと視線を移せば、何時から聞いていたのか、タカシがひょっこりと頭を覗かせていた。
「…失礼。立ち聞きする気はなかったのですが…ふと耳に入ったもので…」
「どういう耳してるんだよオマエは…」
わんこよりも早く立ち直ったらしいゆーまが疲れた声でツッコミを入れる。
タカシはそれを軽く受け流しながらドアを潜って二人の席までやってきた。
「私も見ましたよ。その夢。」
ゆーまの隣りに腰を降ろしたタカシはポツリと呟いた。
こうも揃って同じ夢を見るものなのか。ゆーまもわんこもその一言に目を丸くする。
「タカシさんも見たの…?」
「えぇ。覚えているのは魔物と対峙しているトコロからですけどね…」
「3人して同じ夢見るなんてなぁ…まさか…のえるもじゃないだろうなぁ」
「何よ、アタシがどうかした?」
苦々しく吐き出したゆーまの声に被せるようにして響くのえるの声。
振り返ってみると、何時の間にか階段を降りてきたらしいのえるが腰に片手をあてながら此方を睨みつけていた。
「何だよ…部屋にいたんじゃないのか?」
「いいじゃない。暇だったんだもん。…で、何?さっきの話し」
わんこの横にちょこんと腰を降ろして軽く手を組んだのえるは、不敵な笑みを浮かべながら3人に向かって軽く小首を傾げて見せる。
ゆーまは軽く溜息を付いて、さも面倒だというようにのえるから視線を逸らした。
それにムッとしたのえるが何かしらゆーまに向かって文句を言おうとするのだが、見兼ねたようにタカシがおもむろに語り出した。
「いえ。取るに足らない夢の話ですよ。…ね、わんこサン」
「えっ?!…あ、うんっ。みんなで今朝見た夢のこと話してたの!」
いきなり話を振られてわんこは驚きに裏返った声を出してしまった。探りを入れるようなのえるの視線に思わず苦笑してしまうのだが、嘘はついていない。
「ふぅ〜ん…で、何でそこでアタシの名前が出てくるワケ?」
「私もゆーまも…そしてわんこサンも同じ夢を見たんですよ。だから、のえサンもひょっとしたら…と。」
「なるほどっ!…で?その夢ってどんなの?」
興味津々で楽しそうに問うてくるのえるに、タカシとわんこは顔を見合わせて困ったような表情を作る。ここで素直に話しても良いのだが、恐らくのえるの気分は悪くなるだろう。そして、そのとばっちりを自分達は受けるハメになるのだ。出来ることならそれは避けたい、と二人は無言のままアイコンタクトを取った。
「え?何、何?教えてよ!」
いきなり口を閉ざして在らぬ方向へと視線を遣るタカシとわんこを交互に問い詰めながらテーブルをばしばしと叩くのえる。
やがてのえるは気付いたように、ずっと無関係を装っていたゆーまへと矛先を変えた。
「ね、何。教えてよ。気になるジャン!」
テーブルから身を乗り出して問い詰めるのえる。ゆーまはというと煩わしそうにこれ見よがしな溜息を一つ付き、二人が敢えて口にしなかった夢の内容をあっさりと洩らしてしまう。
「別に…オレ達が見たことも無いような魔物相手に死ぬっつー夢だよ」
タカシとわんこは気付かれないように心の中でゆーまを罵った。このバカ、と。
しかし、それに対するのえるの反応は意外な程に落ちついたものだった。
「……皆も見たんだ?」
4人揃って同じ夢見るなんて縁起悪いわねぇ。そう言って眉を顰める。
「のえサンも見ていたのですか…確かに、何かの予兆なのかもしれませんね…」
「ねぇタカシ、目的地変更した方がいいわよ。別のトコ行きまショ?」
「そうですね。ではミルラの雫も大分溜まって来た事ですし、村への帰路を…」
「ちょっと待て。おまえ等、夢の話なんて信じるのか?」
トントンと会話を進めてしまう二人に慌ててゆーまは割って入る。
のえるとタカシはキョトン、とした表情で一度会話を止めた。
「別に信じてるわけじゃないけど、縁起悪いじゃない」
念には念をって言うでしょ。
まるで聞き分けのない子供に言い聞かせるような口調ののえる。隣りではタカシも無言で頷いている。
「…だけど、折角こんな遠くまで来たのに…」
それでも尚、食い下がらない ゆーまは不満そうに眉を寄せる。2対1では分が悪いと助け舟を求める様に視線をさまよわせると、丁度わんこと目が合った。
わんこはその視線に困ったように笑う。
「…ゆーまの気持ちもわからなくはないよ?」
でも。
「…もう少し、みんなと一緒に旅したいな…」
何処となく淋しさを含んだわんこの声に、ゆーまは思わず息を呑んだ。

確かにアレは夢の話で、現実のことじゃなかったけど。
白い閃光に包まれて、タカシがいなくなった。
のえるの悲痛な叫び声。
救けようと唱えた呪文は間に合わず、タカシを襲った閃光と同じ光が自分へと迫る。
遠のきかけた意識の中で、確かにわんこの声が聞こえたような気がして…。
気付いたら、誰もいない…。
例えようのない喪失感。言葉も紡げないぐらいに衝撃的な…。

「………。仕方、ねぇなぁ…」
やがて観念したように ゆーまが掠れた声を落した。
観念した、というよりはフラッシュバックしたキオクに何か思うところがあったようで、その言葉にタカシとわんこはホッとしたように微笑み、のえるは不敵な笑みを作った。
「そうと決まったなら村に帰るわよ」
村の祭が待ち遠しいわ。
そんなコトを呟きながら のえるは旅の支度を整えるのだろう、嬉嬉と階段を上っていく。
その後姿が見送ってから、タカシも「では私も…」と部屋へと戻り、後にはゆーまとわんこが残された。
すっかり冷めきってしまった紅茶を一気に傾けて、カップをテーブルへと戻す。
「…さっきの続き。…結局、いつかはキャラバン解散しなきゃなんないんだよな…」
「うん。わかってる…だから…」
「夢を建前にしてみたけど、結局みんなアレだな。旅、続けていたいんだよな…」
「のえちゃんもゆーまも素直じゃないからねー」
「…どういう意味だよ…」
「そのまんまの意味」
「……。」

他愛のない遣り取りはのえるが割って入るまで続いた。
用意を整えてから、今度は岐路を故郷へと向けて旅立つ。

一緒にいられる時間が残りわずかなのは、少なからず気付いていた。
でも、我侭だとは思うけど。
もう少し、この仲間達と一緒に旅を続けたいんだ。



彼らがキャラバンの旅を終えるのは、まだ少し、先のこと…。





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fin.
ってなワケなんだけども。
時間を置きすぎた所為で当初何が書きたかったのかをすっかり忘れてしまい…(爆)
確か元ネタはクロニクルのボス戦で…
もう結構旅してるからダメモトでラストダンジョン行ってみようよーってな話になって
結果惨敗した。そんな実話からだったような…
…この時ですよね。
のえちゃんがステキに電池切れしてくださいましたのは(冷笑)