彼女がいなくなってどのくらいの時がたっただろうか…
人間などに彼女を任してよかったのだろうか…
彼女は幸せなのだろうか…
私は彼女が幸せになるのなら…悪魔にだってココロを捧げよう…
〜天体観測〜
深い深い森の中。
動物たちが幸せに暮らしている森の中。
闇のように黒い長髪、雪のように真っ白な肌。そして血のように紅い鎌。
形容すれば死神のような…
彼はそこで動物たちと暮らしている
数週間前にいなくなったディズィーという少女。
彼女はこの森の動物を大切にしていた。
しかし、彼女はこの森を抜けた。
新しい生き方を見つけるために…
「あれでよかったのだろうか…」
彼、テスタメントはつぶやく…
人間など信じられない…
私を正真正銘の死神に変えた人間など…
何故に彼女を人間に預けてしまったのだろう…
黒い帽子、コートを羽織った男と交わした、
固い、固い約束…
約束そんあものは私と彼では成立しない…
いや、できない。
私はギア。彼はヒト。
違うのだ…私と彼では…
はじめから…全てが…
「義父さん…」
テスタメントはつぶやきながら星空を見つめる。
あのときもこんな星空だった。
「テスタメント…きれいじゃろ?」
義父・クリフは幼かったテスタメントを連れ出して、
満天の星空…
彼はまじまじとそれを見つめていた…
クリフは古い物置から天体望遠鏡を持ってきた。
スコープをのぞく…
一通り星を見る。
そして、テスタメントとかわる。
「どうじゃ?」
「すごい…」
その星空にテスタメントは感動を覚えた。
「今日はオリオンが綺麗じゃ…よく見える…」
「はい…」
「テスタメント…オリオンは恋人のアルテミスに誤って殺される…」
「…」
「じゃがな、アルテミスは嘆き主神にオリオンを星座にしてもらうんじゃ…」
「悲しいですね…」
テスタメントは悲しい瞳でつぶやく…
「そうじゃな…けどアルテミスがオリオンをそれほどまでに大切にしていたというこ
とも分かる…」
「…はい」
「テスタメントも大切な人ができたら、想ってやるんじゃ…何があってもな…」
テスタメントは無言で…しかし力強くうなずいた…
(義父さん…あれから私は…大切な人を想ってきました…)
(けれど…)
(彼女はもういません。想っても…伝えることはできません)
テスタメントは涙を浮かべる。
「テスタメントさん…」
不意に後ろから声がする…
聞き覚えのある声…
「でぃ、ディズィー?」
紛れもなく自分が想い続けてきた者がそこにいる。
「よぉ。夜分遅くに申し訳ないと思ったんだが、たまたま近くを通りかかってな。」
「お前は…」
彼女を引き取った男、ジョニーの姿もあった。
「話をしときな…お前らの気が済むまで…」
そうしてジョニーは自分の船へ戻る。
ジョニーの後ろ姿を見送り、テスタメントはディズィーに一言問う。
元気か?と
ディズィーは満面笑みでうなずいた…
翌日、彼女をのせた飛行船は去っていった。
たくさんのことを聞いた…
自分は食事当番だということ。
みんな仲良くしてくれるということ。
そして、自分は幸せだということ。
テスタメントは自嘲した。
余計な心配だったということこを。
ディズィーに一言だけお願いされた。
あなたも幸せになって…と。
「何か、新しいことでもはじめようか…」
テスタメントは今の彼の心を象徴するような晴れた青空を見つめつぶやいた。