その8
恋せよ漢(ヲトコ)
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」
今日もオレはただひたすら、オークどもをブチのめす。
ひたすらブチのめす。
嫌になってもブチのめす。
目的は、こいつらの落とす高価なリザード装備の数々だ。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」
周りには、同じようにソロでリザード装備を狩りに来ている戦士や、
レベル上げに来ているパーティがいる。
血走った目で獲物を追うオレに投げかける冷たい視線を気にも留めず、
オレはひたすらオークを斬り続けた。
「ザックス〜、今ジュノなんだけど、古墳行かない?」
「ああ、わりィ。ちょっとソロで金稼ぎ行くとこなんだ。」
「えぇ〜、またァ〜?最近ずっとソロでダボイこもりっきりじゃん。」
仲間からのお誘いのtellも徹底的に拒み続け、
オレはリザード装備を求め、ダボイに篭りつづける。
何日も何日も。
またアイツだよ、レベル高いくせに狩りまくるなよ、
という誤爆だかわざとだかわからんsayにもめげず、
とにかく果てしなく狩り続ける。
理由?
フッ・・・、金さ。
ミスリルメイスを買うための金がいる・・・。
そう、あの子のために・・・。
「もうすぐ35なんです〜。35になったらミスリルメイス欲しいけど・・・。
お金ないの、ぐすん・・・。」
彼女の名はシンシアと言う。
白魔道士の、純粋でちょっと控え目で、例えるなら
経験値と金に荒む冒険者達という暗い森の片隅に咲く白百合だ・・・。
気がつけば、オレは彼女に惚れていた・・・。
一度パーティ組んだだけなのに・・・。
「大丈夫ですか!?」
ほんのささいなケガをしただけでも、彼女は本当に心配そうな顔をして
オレに駆け寄ってくる。
そして、ケガをしたところに小さな白い手をそっと置き、ケアルを唱える。
他の白魔道士は、自分の今立っているところから一歩も動かず、
作業的に「ケアル」とつぶやくだけだ。
それが当たり前だと思っていた。
だが彼女はわざわざそばに来て、真心のこもった癒しを施してくれる。
本心は感謝の気持ちでいっぱいなのだが、つい照れくさくて、
そっけない態度で「あ、わりィ・・・」と言うと、
「よかったァ!」
と、本当に嬉しそうに、天使のような笑顔を見せてくれた。
やっぱり照れくさくて直視できなかったけど。
ジュノに戻ってきて、パーティ解散の間際、オレは意を決して
彼女にフレンド登録を申し出た。
彼女は少し照れた後、頬を少し赤くしながら小さくうなづいた。
・・・ひょっとしてオレに気があったりして!?
内心大喜びだったが、オレはやっぱりそれとは真逆の態度で
フレンド登録をすませた。
モグハウスに帰った後、嬉しくて嬉しくて、
モーグリの頭を意味もなく叩き続けた。
そして数日。
ついにミスリルメイスを買えるだけの金が貯まった。
店のカウンターに金袋を叩きつけ、ミスリルメイスを購入した。
あとは彼女にプレゼントするだけだ。
花束とこの気持ちを添えて・・・。
フレンドリストを見た。
彼女は今、ジュノ上層にいる。
レベルは・・・30!
もしかして、もうミスリルメイス買っちゃったかな・・・、という心配を
頭から払いのけ、オレは彼女にtellした。
「あ、おひさ。あの、ちょっと今いい?」
いざ、という時になると緊張してしまった。
クフィムでとてつもなく強いクラーケンに遭遇した時よりも、
ヒザががくがくする。
心臓の鼓動を静める術が、顔が赤く熱くなるのを抑える術が、
なぜ人間に与えられていないんだろう?
返事が来るまで5秒弱。
だがオレには1分くらいに長く感じた。
「あ、おひさです〜!今ですか?ヒマですからいいですよ〜!」
「あ・・・、じゃあモグハウスの前にいるから・・・。」
「はい!すぐに行きます!」
もうすぐここに彼女が来る。
久しぶりに会う彼女。
オレの脳裏に鮮明に焼きついているあの天使の笑顔を思い出しながら、
永遠とも思える時間をオレは待った。
やがて小さく息を切らせる声が聞こえてきた。
体のあらゆる振動が高まる。
「ごめんなさい!待たせちゃって!」
「い、いや、全然待ってないから・・・。」
やっぱりかわいい。
2度目に見た彼女の感想はこれだ。
もう他に付け加える言葉は思いつかない。
頭の中は真っ白、喉はカラカラだ。
「・・・あの、どうしたんですか?」
オレはどうやら立ったまま数秒間意識を失っていたらしい。
幾多の戦場を駆け抜けたこのオレが、なんだか情けない・・・。
「あ、いや、別に、なんともない!」
ちょっと冷たい言い方をしてしまったと、オレは言った直後後悔した。
「ご、ごめんなさい・・・。」
「あ、いや、こっちこそゴメン・・・。」
少し沈黙が続いた。
何をやってるんだオレは・・・。
「・・・そ、それで、今日はどうしたんですか?」
その言葉で何をすべきかようやく思い出した。
「あ、ああ。あのさ、こ、これ・・・。」
ぎこちない動作でミスリルメイスを取り出した。
いびつなリボンの結ばれたミスリルメイスを。
「レ、レベル30になったんだろ?だ、だからそのお祝い?」
「あ・・・。あの時の事、憶えててくれたんですか!・・・嬉しい・・・。」
彼女も顔をほんのり赤くした。
嬉しい、という言葉を聞いた瞬間、心にぱあっと光が差し込んだように感じた。
不覚にも涙腺が少しゆるんだ。
そしてオレは、今本当に言いたい事を言った。
「オ、オレさ・・・、あ、あんたと一緒に古墳行ったあの時から・・・、
あ、あんたの事が・・・、その・・・。」
何をもごもご言ってるんだオレ!
早く好きだって言えよ!
自分自身に苛立ちを感じていると、彼女がオレの言葉をさえぎった。
「嬉しいんですけど・・・、あの・・・、言いづらい事なんですけど・・・、
もうミスリルメイスあるんです・・・。」
え?
ピシッと音を立てて、世界の時間が止まったようになった。
心を満たしていた光が陰る。
「えと・・・、お友達にもらったんです・・・。」
お友達?お友達って誰だ?
オレはそいつの事をブン殴ってやりたい衝動にかられた。
だが今はその時ではない。
ミスリルメイスよりも、贈りたい気持ちがある。
「ミスリルメイスよりも、贈りたい気持ちがある・・・。」
「え?」
あ、と思った時には既に遅い。
考えていた事をいつのまにか口走っていたみたいだ。
全身硬直して、後ろ手に持った花束を差し出す事ができない。
「贈りたい気持ちって・・・、なんですか?」
その沈黙は、2秒くらいだった。
「・・・あ、あんたの事が好きって・・・、気持ち・・・。」
言った!
とうとう言った!
もう引き返せない!
リセットはかけれない!
その先には2つの結果しかない!
受け入れてくれるか、拒まれるか!
オレは・・・どっちに行くんだ?
「あ、僕リアル男なんで・・・。」
オレの敗因は・・・たったひとつだ。
たったひとつのシンプルな答えだ。
「結果は3つあった。」
なんだよチクショ〜!と思った時には、
オレはジュノを飛び出し、わめきながらエビルウェポンに体当たりしていた。
死んでも、辻レイズはかたくなに拒否した。
そして、レベルがダウンした。