策略
てぶくろ
日没の早さが秋を感じさせる、いつも通りの放課後だった。
旧校舎を出た龍麻達真神学園の生徒はいつも通り
腹ごしらえに向かおうとしていた。
突然、京一が素っ頓狂な声を上げる。
「あ、オレ、如月の店に行かなきゃな。刀の刃毀れがひどくてさ」
「ボクも行くよ。矢の補充しないとね」
小蒔も頷き、醍醐が顎に手を当てる。
「ふむ、だったら、俺達は……」
「醍醐クンはシーフードピザが食べたいんでしょ!
行こう!じゃーね、ひーちゃん、葵!」
「じゃーな!」
京一に引き摺られていく醍醐を龍麻と葵が見送り、
共犯者めいた頷きを交わした。
「もうッ! 醍醐クンは鈍いんだから! 二人っきりにさせて上げなよ」
「すまん。どうも俺はそういった事に気が回らなくて……どうした、京一?」
二人の前を歩いていた京一が立ち止まり、バツが悪そうに頭を掻く。
「悪いな、どうも財布を忘れてきたらしい。先に行っててくれよ!」
返事を待たずに駈けだした京一を二人は唖然として見送る。
数秒の沈黙の後、小蒔が噴き出した。
「しょうがないな京一は……。行こう、醍醐クン」
前を歩く小蒔の後ろ姿を醍醐は眩しいものに見た。
ほっそりとした体に溢れる明るさと活力は、
人の心を捨てようとしていた自分の手にも、
残されたものがある事を教えてくれた。
人波に押され、庇うように彼女の背後に寄り添うと、
白い項が目に飛び込んだ。
二人の身長差では項と襟の隙間から見てはならないものまで
見えそうになり、慌てて目を逸らした。
「こんなふうに二人になるのって変な感じだね」
小蒔の静かな口調に醍醐の決意が固まる。
彼にはどうしても問い質しておきたい事が有った。
「桜井、あの時龍山先生の御宅で……、お前……」
振り返った小蒔の髪が揺れる。
物言いたげに開かれた唇が、
あの時の柔らかさを思い出させて醍醐は赤面した。
「その、何だ、俺の思い違いでなければ、キ、キ……」
小蒔の頬が染まる。思い出すと自分の必死さが照れくさいが、
あれは心を込めたキスだった。
「キ、キ……」
醍醐クン、ファイトッ! 小蒔が心の声で応援する。
これを乗り越えれば二人の仲は友達から一歩先に進めるだろう。
醍醐の声が裏返る。
「キ、キ、……キヨスクって何語だろうな?!」
「こんのいくじなしが〜〜ッ!!」
紫暮仕込みの中段突きが狙い過たずに醍醐の水月を捉える。
腹を押さえて蹲る彼の目の前で短いスカートが翻った。
痛みを忘れて、すらりとした太腿を目に焼付ける。
「さ、桜井……」
走り去る姿も魅力的だ、
と考える醍醐の後頭部に硬い物が振り下ろされる。
「馬鹿か、てめぇはッ! 折角、俺達が御膳立てしてやったのにッ!」
気が付くと龍麻、葵、京一に囲まれていた。
「なあ、ひーちゃん、情けないと思うだろ?」
問い掛けを無視して龍麻が葵に囁く。
「……行くよ」
「はい……。私の力、あなたに預けます」
京一と醍醐の顔が引き攣るの他所に、龍麻と葵の声が和す。
「破邪顕正ッ!黄龍菩薩陣ッ!!」
直撃を食らって倒れ伏した醍醐に龍麻の厳しい声が降り注ぐ。
「醍醐ッ! 友人としてこれだけは言っておくッ!」
巻き添えを食った京一もその剣幕に固唾を呑む。
「キヨスクの語源はトルコ語で東屋を
意味するキオスクに清いを掛けた造語だッ!」
葵がうっとりと呟く。
「龍麻、素敵……」
他人の色恋に首を突っ込むのは金輪際止めようと、
京一は固く心に誓うのだった。
<終>