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僕はデ・ロル・レ

 
地下水路は今日も程良く濁っていた。
水路の底を泳ぐデ・ロル・レは、自分の頭上、前方に浮かんでいる何かを見つけた。
水中からは平坦な板のように見えるそれは、自然のものではないようだ。
そしてそこから、コツ、コツと振動が響いてきている。

(あの上に、何かが乗っている?)

デ・ロル・レは興味を覚えた。




〈金髪〉と〈隻眼〉が、イカダ上の人となったのは、数分前の事である。
洞窟を探索するハンターズである彼らは、この地下水路を発見し、調査に来たのだ。

「このまま流されていけば、外までいけるかも」
「・・・だったらいいんだが」

金髪のハニュエールが、隻眼のヒューマーに話しかけている。

「だったら、って何よ?」

軽い足音を響かせて歩き回りながら、〈金髪〉。
イカダの上はかなり広い。
椅子などが全く無い平坦な作りが、広さをより強調している。
元は資材搬入用に作られたもののようだ。

「どこかで滝になっているかもしれない、とか考えないのか?」
「大丈夫だって。人の手が入ってたみたいだし。心配性なんだから」

〈隻眼〉の言葉に笑う〈金髪〉。
心配性のヒューマーの背中を、ハニュエールはバシンとどやしつけた。




(なんだろうな、見てみよっかな)

デ・ロル・レは好奇心を抑えきれずにいた。

(そろそろ戻らないといけないけれど・・・、いいや、ちょっとだけちょっとだけ)

水面へ向けて上昇する。
前方を流れる浮遊物を追いかけてスピードを上げる。




「そんな事いったって・・・。そもそも、操作パネルも何もないじゃないか。何かあっても減速する事も、岸に寄せる事も出来ないんだぞ?」

〈隻眼〉のヒューマーはまだ文句をいっている。
〈金髪〉は、彼がただの心配症なだけではなく、自分の身を案じてくれている事を知っていたが、それだけに照れが入って意地を張ってしまう。

「うるさいなあ!だいじょぶだったら。だいたい君はね」
「・・・しっ!静かに!」

〈金髪〉の言葉を〈隻眼〉が遮る。

「・・・何の、音だ?」
「え?」

聴力はハニュエールの〈金髪〉の方が優れている。
だが、話をしていた彼女は気がつくのが遅れた。
イカダの後方の水中、水面のすぐ下を、なにか巨大なモノが進んでいる。
その大きさに押されて、水面が波立ち、音を立てていたのだ。

「何だ!?」 イカダの上の二人には、水面が爆発したように見えた。




(何だ?)

デ・ロル・レは水中から飛び出した。
目標はそれなりのサイズだったが、それでもデ・ロル・レが乗るには小さすぎるようだった。
しかたなく、上半身だけをイカダの上に乗せてみる事にした。
そこに居たのは、二人のニンゲン。
デ・ロル・レはびっくりした。




「化け物め!」

〈隻眼〉も〈金髪〉も、先程までのノンビリした雰囲気は微塵も残していない。
二人とも、洞窟の探索を終えてここに辿り着くほどのハンターズなのだ。
〈隻眼〉が大ぶりのソードを構えた。
〈金髪〉が両手にもったダガーを繰り出す。
二人は、乗り上げてきた巨大な水生生物と正面から対峙した。

「こいつがオスト博士が研究していたっていう、『β772』なのか!?」

〈隻眼〉がソードを振るいながら叫ぶ。

「知らないわよ!何にしても倒さなきゃ、こっちが危ない!」

〈金髪〉は二人にシフタを掛けた。




デ・ロル・レは、自分以外の生き物は、魚類くらいしか見た事がなかった。
母親から陸上には色々な生物がいるとは聞いていたが、実際に目にするのは初めてだった。

(うわー、小さいなー)

ハンターズはデ・ロル・レを攻撃しているつもりだが、デ・ロル・レ本人は、それが「攻撃」なのだと全く気がついていない。

(もしかしてお話できるかな?出来たら素敵だな。地上の、初めてのお友達になるかも!)

デ・ロル・レは、彼らの種族は、お互いに体液の交換をする事でコミュニケーションをとる。
イカダに乗り出した上半身の背中側から、デ・ロル・レは触手を伸ばした。




「危ない!」

〈隻眼〉が〈金髪〉を庇った。 自分の体ごとぶつかり、突き飛ばす。
抱き合うようにして身を伏せる二人。
金髪が立っていた場所に、ずがん、と触手が突き刺さった。

「!」

その触手は、標準的なハニュエールの体型である〈金髪〉の胴回りほどもあった。
まともに受けていたら無事ではいられなかっただろう。
僅かにイカダが揺れた。
深々とイカダに突き刺さっていたその触手が、引き抜かれようとしている。

「次が来る!」

攻撃に備え、距離をとる二人。
離れる前に、一瞬だけ、〈金髪〉は〈隻眼〉にきゅっと抱きついた。

「助けてくれて、ありがとう」

怪物から目を離さない〈隻眼〉の顔が、少し赤くなっているように見えたのは、地下水路の照明のせいだろうか。





(逃げないで!落ち着いて体液を交換すれば解り合えるよ!)

デ・ロル・レは触手を繰り出していた。
だが、イカダの上のニンゲン達はそれをひょいひょい避けてしまう。

(やっぱり、こんなに体の大きさが違うから、驚いているのかな・・・?)

デ・ロル・レはちょっぴり悲しくなった。





「やったか!?」
「・・・まだ後ろにつけて来ているみたい」
「いったいアレはなんなんだ?β772にしては、大きすぎないか?」

ハンターズの会話は、答えが出る前に中断させられた。
一度は退いたかに見えた怪物が、再び迫ってきたのだ。

「レーザー!右!」

〈金髪〉の声に、とっさに身体を捻る〈隻眼〉。
そのすぐ横を、紫の光弾がかすめていった。




(んー、どうしたらいいのかなー?)

デ・ロル・レは悩んでいた。
なんとか彼らとコミュニケーションを取ってみたいのだ。
イカダの周囲を泳ぎまわり、いろいろと手を出しているが、あまり芳しくないように思えた。

(そうだ!とっておきのアレやってみよう。・・・ママはやっちゃいけませんよ、って言っていたけど・・・)

親の言いつけを守っているようなら、そもそもこんな地下水路に来たりしていない。
デ・ロル・レは泳ぐ速度を少し落として、力を溜めた。

(よーし!すごいのやっちゃうからね!よく見ててよー)





「今度は何!?」

〈金髪〉は自分の目を疑った。
怪物が天井を走ってくる。
その巨体が、地下水路の天井に張り付いているのだ。

「岩が!」

怪物が巨体を揺らして進む為に、地下水路の天井部分の岩が削れ落ちてきていた。
とっさにイカダの隅に回避するハンターズ。




(見て見て見てー!)

デ・ロル・レはおおはしゃぎだった。
得意技『逆さ走り』が上手く出来たのだ。
ママは体が大きすぎて、こんな風に天井に張り付くことなんて出来やしない。
それ以前にこの地下水路に入る所で体が引っ掛かってしまうだろう。
そう思って、デ・ロル・レは少し得意になった。
これできっと、イカダの上の彼らも、デ・ロル・レの事を見直してくれるに違いない。





「また来るぞ!」

〈隻眼〉のその一つ目が、水上に飛び出してきた怪物を捕らえた。
再びイカダに乗りかかってきたのだ。

「今がチャンス!」

〈金髪〉がダガーを振り上げる。
水中から出ている今のうちに、有効打を与えておかなければならない。




(僕はデ・ロル・レ。あなたたちはだあれ?)

再び触手を伸ばすデ・ロル・レ。
二回目、三回目。
そして、四回目の触手が命中した。
小さい方に。
金色の頭をした方に。

(こんにちはー!)

ちょっとだけ体液を吸い取る事が出来たが、デ・ロル・レの方からは送れなかった。
その前に離れてしまったのだ。
残念。




「ーッ!」

〈金髪〉は触手の一撃を喰らってしまった。
声にならない悲鳴が漏れる。
〈金髪〉の胴まわりほどもある触手が、〈金髪〉の胴に突き刺さった。
あまりに傷口が広すぎる為だろう、逆に痛みを感じない。
〈隻眼〉が泣きそうな顔で駆け寄ってくるのが見えた。




(β772?)

デ・ロル・レは疑問に思った。
すこしだけ吸い取れた体液から読み取った情報によると、彼らはデ・ロル・レの事をβ772とやらではないかと思っているようだ。

(β772、ってもしかして、この前この地下水路にふらっとやってきて、でもここの環境に順応できなくて死んじゃったあのおチビさんの事かな?)

数週間前にちらりと見かけた姿を思い浮かべる。
あの時はただの変な魚だと見逃していたけれど、そう言われると少し自分に似ていたかもしれないとデ・ロル・レは思う。





「すぐに回復してやる!」

〈隻眼〉が叫ぶ。

「・・・ん・・・」

〈金髪〉は、だが、もう彼の回復では間に合わない事が解っていた。
起き上がれない〈金髪〉を抱きかかえ、必死な形相でレスタを掛けている〈隻眼〉に、そっと微笑みかける。

「ありがとね」

その言葉を、現実を否定するかのように首を振る〈隻眼〉。
かまわず〈金髪〉は続ける。

「ずっと、ずっと言いたかったんだけど・・・。あたしね・・・、君の事が・・・、す・・・」

言葉を途切れさせるハニュエール。
力なく頭部が垂れ下がる。
金髪が床に流れた。

「・・・許さねえ!」

怪物に向き直る〈隻眼〉。
その一つ目に、涙が伝った。

「俺は彼女を守りたかった!彼女と居て楽しかった!彼女の事が好きだったんだ!それを、お前は!」

渾身の力でソードを振るう。
怪物の外殻が削げ落ち、醜い皮膚が現われた。




(そういえば、ママから聞いた事がある)

デ・ロル・レは思い出していた。

(大きな魚の口の汚れを掃除する為に、くっついている魚がいるって。地上の生物で、体の不要になった外皮を、自分で掃除する種族がいるって。もしかして、彼らもそうなのかな?)

イカダの上の彼らは、デ・ロル・レの外殻に触れて何かをしている。
今まで何をしているのかよくわからなかったが、これはもしかして掃除をしてくれているのだろうか。
そう思った矢先、頭部にこびり付いていた外皮が剥ぎ取られた。

(やっぱりそうだ。僕をきれいにしてくれているんだ!)




〈隻眼〉は悪鬼の如き形相でソードを振るい続ける。
手の皮が剥け、血が流れてもその攻撃は止まらない。
怪物の外皮が削げていく。
そして、ついにイカダからその巨体を押し返す事に成功した。

「・・・やった、か」

荒い呼吸の下、半ば祈るように〈隻眼〉は呟いた。




デ・ロル・レは喜んでいた。
こびり付いていた外皮は落ち、体中がとてもすっきりしている。
もう充分に掃除してもらったと思い、イカダから降りた。

(掃除をしてもらったお礼に、最後にとびっきりの芸を見せてあげる!)

デ・ロル・レは思った。
言葉は通じなかったけれど、きっと楽しんでもらえるはずだ。
いったん深く潜り、思いきり上昇する。
水面へ飛び上がるような勢いで、身体を伸ばす。
一人シンクロナイズド・スイミング。

(綺麗にしてくれて、ありがとー!!)



デ・ロル・レは海に帰る事にした。
そろそろ帰らないとママに叱られる。





静かになった流れに目を落としていた〈隻眼〉に、メールが届いた。

【はやく帰っておいでよー。いつまでそんなトコにいんのさ】

〈金髪〉からだった。
メディカルセンターへ転送され、一命を取り留めたようだ。
〈隻眼〉は安堵の溜息を漏らした。
そこへ二通目が届く。

【なんだって?アタシの事を守りたいって?アタシの事が好きだって?・・・んーモテル女は罪作りよネー】


 〈隻眼〉は、重い溜息をついた。




僕はデ・ロル・レ   END


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